065:猛将と豪将
吉丸が徒歩武者を単騎で圧勝して討ち取ると、まさかここまで圧勝すると思っていなかったので康人たちは「うぉおおお!!!!」と歓声を上げる。
しかし徒歩武者といえども、この敵右翼だけでも100人近くにいる為、隣の徒歩武者が異変に気がついて「こっちに兵を回せ!」と素早く動き始めた。
さすがの吉丸も、敵兵の波に飲み込まれたら命が危ういので、急いで康人たちのところに戻る。
そんな歩兵たちに目もくれず、家貴たち騎馬隊は敵軍の第一陣中央まで進軍していた。
あまりの突撃能力と、家貴単騎の化け物っぷりに敵兵たちは「はぁあああ!」と怯えている。そんな兵士たちを、家貴はバッサバサと倒していく。
ただ一方的に家貴が倒していくだけなので、家貴は「もっと気骨のある者はいないのか!」と叫び、もっと手応えのあるやつを呼び込むのである。
こんな馬鹿みたいな一騎打ちの誘いに、賢い人間は乗る事は無いだろう。しかし一騎の騎馬が、家貴の前方の敵歩兵たちを掻き分けてやって来た。
「貴殿が仙道家の中で、猛将と名高い家貴殿か! さすがは家貴殿だ、こんなにオーラがある人間を長らく見ていなかったぞ。しかしこの大治仙道家の中で、最も武に秀でている土沼 黄猿之助 元寿が、お相手いたそうではないか!」
「おぉ貴殿が土沼殿か、噂は聞いているぞ。そうか、貴殿が相手してくれるのか……相手に不足なし!」
家貴の前にやって来たのは英明の家臣で、最も武芸に秀でている豪将・土沼 元寿だ。
さっきまでの敵は歯応えが、全くと言って良いほどに無かったので、ここに来て元寿と戦えるのは家貴にとって嬉しい事は無いのである。
家貴が嬉しく思っているのと同じように、元寿も家貴と戦える事を武人として嬉しく思う。
そして家貴は大薙刀を構え、元寿は長巻を構える。
「準備は良いか! 俺はそんじょそこらの人間とは違うゆえ、しかと覚悟してかかって来い!」
「無論っ! お主を侮ってはおらぬ、お主こそ豪将・土沼 元寿を安く見るなよ!」
互いに準備が整ったのを確認しあってから、馬の横腹をトンッと蹴って走り出させる。
2人は相手に向かって馬を全力で走らせる。やはり猛将と豪将の乗る馬は、普通の馬とは家族もトップスピードも比べ物にならない速度である。
互いに向かっていき、凄まじい勢いで家貴の大薙刀と元寿の長巻が「ガキィイイイン!」と大きな音を立てて真っ正面からぶつかる。
自分の勢いも相まって、互いに馬ごと弾かれた。
「この馬鹿力が!」
「それはお互いさまじゃろがい!」
互いに互いの力が強くて面白くなった。フッと笑って、確かに豪将と猛将の異名に偽りはないと感じる。
そして少しの間を置いてから、また動き出して「うぉおおおお!!!!!」と叫びながら襲いかかる。
凄まじい戦いだ。近くで見ている人間たちは、武器を振るう風で近寄れないし、そもそも風圧が無かったとしても気迫に押されて助けにはいけない。
この戦いを見た兵士は「これは……本当に人間の戦いなのか?」と自分たちが、普通の人間であると感じた。
秀蘭軍左翼が激戦区になっている一方で、秀蘭軍右翼はどうなっているのかというと。左翼と同じように右翼も激戦となっていたのである。
いや。良元の元重臣たちが決死となって戦っている為、左翼よりも右翼の方が激戦になっているかもしれない。
最前線には野間口家の右大将・由井 積春が自ら立って、良元の元重臣たちに檄を飛ばしながら奮戦している。
「良元さまを襲った、賊軍どもを根絶やしにするのだ!」
『うぉおおおお!!!!!』
由井が率いている良元残党軍は、大いに目の前の賊軍たちを討ち果たしていく。
左翼同様に第一陣の中腹に差し掛かろうとした瞬間、由井の部隊の副官が「左に敵兵!」と叫ぶ。
その声に反応するように、由井はパッと左に目を向けると数こそ目の前の敵軍に比べて多くはない。多くはないが騎兵たちが、由井部隊に向かって突撃して来ている。
由井軍の左側からやって来た敵軍は、外堀通りと美濃路の間にある狭い道路を通ってやって来た。
数こそ多くないものの舐めてかかったら、失わなくて良いはずの兵を失ってしまう事になる。その為、どうにかして早めに対応しなければいけない。
「左に騎兵を15と、歩兵40を向かわせろ! それでも抑えられないようなら、副長を向かわせても良い!」
「は!」
由井の迅速な対応で、英明軍の奇襲は失敗に終わる。
両翼の活躍で敵戦線は後ろに押され始めていた。あとは戦況を決めるとするならば、左翼の家貴と元寿の一騎打ちの結果によるだろう。
この2人の一騎打ちは一進一退の攻防が続いている。
少しでも気を緩めれば、いとも簡単に真っ二つにやられてしまうのは目に見えている。
互いに「うぉおおおお!!!!」と雄叫びを上げながら人間業とは思えない力で、大薙刀と長巻を振るう。
しかし次第に元寿の域が上がり始めており、鍔迫り合いも互角だったのが押され始めた。
一方で大薙刀を振るう家貴の力は弱まるどころか、どんどん力が増しているように感じる。これに元寿は「どこから、こんな力が湧く!?」と驚きを隠せない。
すると家貴は大薙刀を、下から上に振るって元寿の長巻を上に弾き上げるのである。
「パワーは確かにある……しかし! お前には絶対に負けられないという気迫が足りぬわぁ!」
家貴は元寿のパワーを褒めた上で、足りないモノは絶対に負けられないという気持ちであると言った。そんな事を言われて、こんなところで負けるわけにはいかないと弾かれた長巻をパワーで顔の前まで持っていく。
そして振り下ろされる家貴の大薙刀を、どうにか防ごうと防御の構えを行なうのである。
だが、この行動が家貴にとって「そこを言っている!」と言って顔を怒りで赤く染めた。
そのまま家貴は大薙刀を、防御の構えに入った元寿に向かって全力で振り下ろす。既に受け止める構えをしている元寿にとって、真っ直ぐ振り下ろされるのは良い事だ。
しかし結果は異なった。
振り下ろされた家貴の大薙刀は、元寿の持っている長巻の刃を打ち砕いた。勢いそのまま家貴の大薙刀は、元寿の体を真っ二つに両断したのである。
「いざという時に守りに入るような弱者に、俺が負けるはずがないであろうが……しかし、それなりに楽しめたのは褒めてやるわ。次に生まれ変わる時は、もっと根性を磨き上げて見せよ!」
「家貴さまの勝利だ……勝利だぁああ!!!」
『うぉおおおお!!!!!』
家貴の勝利を目の当たりにした家貴軍の部下たちは、刀を高々と掲げて勝利を宣言するのである。
すると部下たちは雄叫びを上げて喜ぶ。
この光景に家貴は「フッ」と鼻で笑った。こんなところで喜んでいるわけにはいかないと、家貴は大薙刀を掲げると「前進を再開するぞ!」と指示を出す。兵士たちは、また雄叫びを上げて前進を続ける。




