064:猛将の突撃
吉丸は悔しがっている。
自分が先頭を切って走れたならば、この大きな戦の口火を自分が切れるからだ。前は歩兵が最前線に配置されていたが、今回の戦いでは家貴が率いる70騎の騎兵が最前線に配置されているのである。
さすがの吉丸とは言えど、全力で走ったとしても騎馬に追いついて抜く事なんて不可能。だから悔しがる。
この戦いでも武功を挙げてやると、心に誓って英明軍右翼に向かって突撃を続ける。
「隊長っ! 最前線の騎馬隊が、敵右翼の歩兵とぶつかるみたいですよ!」
「本当ですか!? 家貴さまの豪将という異名が、誠なのか見せて貰いましょう!」
吉丸が全力で走っていると、隣で走っている康人が前方を目を凝らして確認する。
どうやら最前線を独走している家貴隊の騎兵たちが、敵右翼の歩兵団と衝突しそうになっていた。この家貴は周りから豪将と呼ばれており、本当にその異名通りの実力があるのかと吉丸は最前線を注視し始めた。
一方で敵右翼の最前線を指揮している徒歩武者も、家貴たちが突撃してくるのを目視する。
その指揮官の補佐官が報告を行なう。
「敵軍騎馬隊、70騎が突っ込んで来ます! 先頭には副将・柴山 家貴がいます!」
「70騎の騎馬隊だけだと? 歩兵を切り離し、ここを突破するつもりか? だとしたら……舐められたものだ! 守備陣形を取れ! 返り討ちにしてやる」
普通ならば騎兵の特攻と言っても、歩兵と連携をとって突撃するのが定石である。
しかし今回の家貴は、完全に歩兵を切り離し70騎の騎馬で突撃している。確かに歩兵よりも騎兵の方が有利ではあるが、歩兵が防ぎきれないというわけでは無い。それが歩兵と連携をとっていないのならばなおさら。
それに目を付けた敵将は、歩兵たちに守備の陣形を取って返り討ちにする事を狙う。
大薙刀を持つ家貴が、防御陣形を取る敵前方に向かって突撃のスピードを緩めない。
もう目と鼻の先というところで、家貴は息を吸い込みながら大薙刀を振り上げる。遠くから見ていた敵兵は、そこまで大きいと感じなかったが、目の前にやって来た家貴を見た敵前方の歩兵たちは「うわ…」と声を溢す。
そのまま振り下ろされた大薙刀は一撃で歩兵、数人を吹き飛ばした。あまりの威力に、それを見ていた少し後ろの敵歩兵たちは「な なんだ、今のは……」と困惑に近い恐怖を強く感じて手足が震えだす。
「この家貴を、こんな雑魚どもで止められると思っているのか! この主君殺しの大罪人どもがぁ!」
敵歩兵の防衛陣形では家貴にとって、いとも容易い豆腐のような脆さだったのである。
最前線を突破した家貴は、後ろに着いて来ている部下の騎兵たちに「この家貴に着いて来い!」と叫びながら士気を上げるように叫んだ。この家貴の言葉に騎兵たちは「うぉおおおお!!!!!」と叫びながら続いていく。
家貴がブチ破った最前線の綻びのところから、後ろに続く騎兵たちが乗り込んで来る。
そして最前線にいる1人の敵歩兵が、体勢を崩して地面に尻餅を着く。その敵歩兵は「痛ててて」と顔を、スッと上げると鬼のような表情をしている秀蘭軍の歩兵たちが、雪崩のように押し寄せていた。
「ここから突破できるぞ! 騎馬隊に遅れをとるなぁ!」
『うぉおおおお!!!!!』
騎馬隊が敵前線を突破してから少しして、ようやく全力疾走の歩兵たちが敵前線に到着。止まる事なく騎馬隊が作った、とっかかりを利用して突き進んでいく。
吉丸たち5人も、ようやく最前線に到着した。
もう息は切れ始めているが、それでも止まってしまったら自分たちが殺されるので目の前の敵を倒す。
「止まらないで、目の前の敵を倒し続けて下さい! さも無いと敵兵に捕まります! もしキツいと思ったら、私か、康人殿を頼って下さい!」
『おぉおおお!!!』
吉丸は戦いながら、戦に慣れていない康人以外の4人に声をかけ続ける。4人とも吉丸の地獄のような修行を、今日までやり切っている人間たちだ。
目の前の歩兵を倒すくらいならば楽だと思えている。
それでも戦には慣れておらず、どうにも行かなくなった場合は自分か、康人に頼るよう吉丸は伝えた。
すると吉丸は自分の前方に、何かを発見する。
康人がいる後方に下がり、敵に背後を見せないようにしながら「康人殿、ちょっと良いですか?」と声かける。いきなりだったので、康人は驚いたが吉丸のように背後を見せないようにしながら「なんですか?」と聞いた。
「ちょっとここを任せても良いですか?」
「どうかしたんですか?」
「あそこにいるのは、ここら辺を仕切ってる徒歩武者ですよね? アレを討ち取れば、ここら辺一体の主導権を握る事ができるはずです」
「そ それはそうでしょうが、単騎で討ち取れますか? 徒歩武者といえども、それなりに手強いと思いますよ?」
「アレくらいなら、私だけでも討ち取れましょう。でも他の戦に慣れていない4人を付き合わせるわけには……そこで康人殿に、お頼みしたいのです!」
「相分かりました! この康人にお任せあれ!」
吉丸は少し前に、ここら辺を仕切っているであろう徒歩武者を発見する。これを倒せば、ここら辺一帯の兵士たちは混乱するだろうと考えた。
だから康人に、この場と部下である4人を任せたいと吉丸は頼むのである。
1人では危険じゃないかと康人は心配した。向こうは武士で、吉丸はまだ足軽だからだろう。しかし心配は無用であると、吉丸はニッと笑って返した。
吉丸なら心配ないかと康人は判断し、ここの指揮は任せて欲しいとお辞儀。康人同様に、吉丸も康人に任せたら心配はないと、徒歩武者に向かって槍を構えながら走る。
「隊長、1人こっちに向かって来ます!」
「なに? 将校か?」
「いえ! 足軽……しかも若いです!」
「なんだとぉ? このワシに、ただの足軽のガキが突っ込んで来ただとぉ? 舐められたものだ。この刀の錆にしてくれるわぁ!」
向かって来るのが吉丸のような若い足軽で、自分の事を馬鹿にしているのかと徒歩武者はイラッとした。
そして向かって来た吉丸を、真っ二つにしてやると刀を構えて準備する。さすがは徒歩武者という感じで、足軽とは違って隙という隙が見当たらない。
それでも吉丸は槍を構えたまま突っ込んでいく。
槍の刃先が敵将に触れようかとしたところで、敵将は横にスッと避ける。その動きには一切の無駄がなく、ただの徒歩武者でも、このレベルなのかと思わせる。
避けると、そのまま吉丸の槍を真っ二つに斬った。
敵将の部下たちは、見事な刀捌きで「おぉ〜」という感じで声を出すのである。
敵将は「討ち取ったぁ!」と言って吉丸を斬ろうと、刀を振り上げた。
しかし吉丸は給料を貯めており、そのお金で買った刀を鞘から抜いて鍔迫り合いに持ち込む。
「なに!? 抜刀が早い!?」
「舐めんじゃねぇよ! この程度の斬撃なんて、こっちは想定済みなんだよ!」
まさかただのガキの足軽が、この速度で抜刀できるとは敵将も思っていなかった。その為、鍔迫り合いになった状況に驚きを隠せずにいる。
しかし吉丸にとっては毎日のように、剣の修行をしており、この程度の速度は予測通り以外の何ものでも無い。
吉丸は鍔迫り合いをしながら、敵将の腹を思い切り蹴り飛ばす。蹴られた敵将は後ろによろめいて「おっとっと」という感じで転びはしなかったが、完全に体勢を崩し刀を下向きに下ろしてしまっていた。
その隙を吉丸は見逃さず、刀を振り上げ「終わりだ!」と叫んでから刀を振り下ろし、敵将を切り伏せた。




