063:則武新町の戦い、開戦!
秀蘭は俊膳たちの動きを見てから進軍を開始する事に決めており、ゆっくりと兵や軍備を整える。
しかし父親を殺された義央からすると、1秒でも早く俊膳と英明らを討ち取って欲しいと思っている。それは当然の事ではあるが、秀蘭が直々に説得をした。
わざと後手に回る事で兵を集める事ができ、秀蘭のところだけで1000人強の人数が集まる。そこに元良元の重臣たち率いる200人が加わって1200人まで増えた。
だが兵は、これだけでは無かった。
「この柴山 健五郎 家貴が配下400も末席に加えては頂けませんでしょうか!」
「おぉ良くぞ、来てくれたな。お前たちの加勢を頼もしく思うぞ! 兵はどれだけいても良いからな」
「は! そのお言葉、嬉しゅうございまする!」
「期待しているゆえ、しっかりと活躍して見せろ!」
「は! 身命を賭して頑張りまする!」
家貴軍が加わった事により、義央軍は総勢1600人まで膨れ上がったのである。
向こうの総勢2000人で400人の差はあるが、率いる武将の質で言えば義央軍の方が圧倒的に上だ。揃っている軍の全貌に、義央は期待がやまない。
十分な兵が集まったのは、良元が自害してから1週間後の事だった。時間をかけた事によって、英明軍を上回る質の高い軍を編成する事ができた。
そして秀蘭のところに伝令兵がやって来る。それは英明軍の動きに関する報告である。
「報告いたします! 英明軍の全貌が掴めました!」
「向こうも動き出したか。それで率いているのは俊膳か? それとも英明が自ら軍を率いているのか?」
「いえ、それが……総大将は川尻 奏一、副将は仙道 敏三との事にございます!」
「俊膳の奴、だいぶ俺にビビっているみたいだな。もしもの時の為に城に籠ったか」
英明軍は総大将を奏一で、副将を敏三の編成で来た。
この戦いの大元となった英明と俊膳は、大治城に立て籠って出て来ない姿勢を示した。それにより秀蘭は、この戦いの勝利を確信する。
俊膳が自ら率いていたら、それなりに警戒するところではあった。しかし配下の中でも名を挙げているわけでは無い奏一と敏三が軍を率いているなら恐るるに足りない。
「それで英明軍は、どこに布陣した?」
「は! 英明軍はイオンモール名古屋跡地に、本陣を置いたとの事にございます!」
「旧イオンモール名古屋跡地か……中々、良いところに布陣したものだな。悪く無い、悪く無い選択だが………何より率いる将が悪すぎる!」
奏一と敏三が率いている英明軍は、秀蘭軍と戦う為に則武新町にあるイオンモール名古屋の跡地に布陣した。
ここはイオンモール名古屋の大きな廃墟があり、攻めるのに容易く守るのに堅い日本時代の遺産である。普通ならばイオンモール名古屋に布陣された時点で、かなり攻めづらく攻略するのは時間がかかる。
しかし秀蘭は布陣した場所ではなく、布陣した将の力量が足りないと奏一と敏三を非難した。
「皆の者、準備をしろ! これより出陣し、賊軍・英明軍を返り討ちにするぞぉ!」
『うぉおおおお!!!!!』
午前7時、秀蘭軍は則武新町に向かって進軍を始める。
総勢1600人を率いて大治仙道家との戦いに終止符を打つべく乗り出したのだ。今回の秀蘭は、今までの秀蘭とは大いに異なる部分がある。
それは祥鳳軍に勝利したという実績と経験だ。死地を乗り越え強さが増し、戦いとは何かという経験値も前に戦った時とは比べ物にならない。
俊膳や英明は秀蘭の事を警戒こそしているが、まだ心のどこかで侮っている部分がある。ここを突く事こそが、今回の戦いに大勝する要素であると考えている。
英明軍がイオンモール名古屋跡地に布陣したのに対し、秀蘭軍は〈なごや小学校〉に本陣を敷いた。
家貴が率いる主攻は外掘り通りを通って、イオンモール名古屋跡地を目指す。その軍には吉丸たちもいる。
そして元良元の重臣たちが率いる軍は、美濃路を通ってイオンモール名古屋跡地に向かう。
この布陣は家貴軍を左翼、元良元重臣軍を右翼とする。
突撃の号令を出す前に、秀蘭は重臣たちを本陣に集めて最後の軍議を開くのである。
「お前たち、良いか? 人数では向こうの方が有利だが、将の質で言えば圧倒的に我らの方が有利だ。向こうは必ず撤退命令を出す時が来る、その時は総大将・川尻 奏一と副将・仙道 敏三を討つまで追え!」
『はっ!!!!』
「よし! 開戦だ!」
『おぉおおおお!!!!!』
しっかり今回の戦の大切さを、重臣たちに再認識させたところで、秀蘭は最後に気合を入れてから重臣たちは各自の持ち場へと見送るのである。
この戦いがどうなるのか。秀蘭は楽しみで笑いながら床几にドサッと座り「茶を持って来い!」と、ゆっくりとお茶を飲みながら戦局を聞く事にした。
秀蘭のところに、お茶が届けられる頃には伝令兵が「全軍、準備が整いました!」と秀蘭のところに来る。
すると床几に座ったまま右手をパッと上に挙げた。
「開戦の合図を出せ! 英明軍を皆殺しにするのだ!」
秀蘭軍は開戦の合図として本陣から5人の兵士が、和太鼓を決まった回数を叩いて知らせる。
今回も全軍の準備が整ったところで、戦いを始めて良いという許可を出した。和太鼓兵も互いに「うんうん」とアイコンタクトをとってから、太鼓をリズム良く5回叩く。
この和太鼓の音が戦場にまで響くのである。
家貴は左翼の最前線で騎馬に乗っていふ。和太鼓の音を聞いた瞬間、後ろに控えている副官たちに「行くぞ」と確認を取って「はい!」と返事を聞いてから刀を抜く。
そして刀をスッと上に掲げる。
「左翼全軍に告ぐ! これより英明軍右翼に突撃を開始する! 目の前の賊軍どもを1人でも多く討ち取れ!」
『おぉおおおお!!!!!』
「全軍、突撃だぁああああ!!!!!」
『うぉおおおお!!!!!』
家貴の声は後方というわけでは無いが、最前線と中央の中間くらいにいる吉丸の耳にも届く。それなりに距離があるはずなのに、耳がキーンッとするほどの声量だ。
しかし戦が始まるという興奮状態の吉丸たちに取って、仕える武将が勇猛に見えたら士気が上がる。
いよいよ家貴の号令と共に、左翼軍は英明軍の右翼に向かって突撃を開始した。最前線を走るのは、家貴が自ら率いる騎兵70騎が一気に突撃を始める。その後ろに徒歩武者80と槍兵300と弓兵150が着いていく。
この突撃の合図は、敵本陣にいる奏一と敏三のところにまで聞こえて来ていた。
「向こうは動き出したみたいだな、この戦いは俊膳さまの名の下に負けるわけにはいかぬぞ!」
「心配ない。こっちは数で優っている上に、イオンモール名古屋跡地という有利な土地も確保できた。これのどこに負ける要素があるというのか」
「確かにその通りだ。この戦いで秀蘭を、この世から葬る事ができれば……その時は! まさしく俊膳さまが、西愛河の覇権を握る時だ!」
遂に天下分け目とは言わないが、確実に西愛河分け目となるのは確実。
西愛河の覇権を巡る〈則武新町の戦い〉が、いよいよ幕が上ろうとしている。




