表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第2章・仙道愛知家の家督相続 編
PR
63/72

062:幼き当主

 吉丸たちは緊急事態に備えて、城下町の守備兵へと組み込まれている。もしかしたら俊膳たちが、奇襲をかけてくる可能性もあるかもしれないからだ。

 明るくなり始めていた午前6時に守備についていた吉丸たちだが、もう少しで交代するというところで城下町の入り口の方からザワッとした声が聞こえる。

 50騎にもなる騎兵たちが行軍していた。



「隊長、アレは!? もしかして俊膳軍ですか!?」


「いや、アレは……義央さまだ!」



 吉丸は騎兵たちの表情から俊膳軍ではなく、義央が率いる元良元の重臣たちであると悟った。

 なにせ攻め込んでくる人間の顔ではなく、何かを奪われた悔しそうな人間の表情だ。そして何より行軍している陣形が、中央にいる吉丸と対して年齢が変わらない少年を取り囲むようにしているのが決めてだ。

 吉丸の予備知識として俊膳は若くないし、俊膳の配下でも10代の人間はいないと知っている。

 義央であると確信を持った吉丸は、この事を伝える為に急いで上前津城へと向かった。



「取り急ぎ、通して頂きたい! 重臣の方々に、お早くお伝えしたい事がある!」


「分かった! 開門!」



 城に門を開けて貰った吉丸は、さらにスピードを上げて大盛の部屋に向かう。

 もうとっくに起きて政務を行なっているので、吉丸は襖の前で止まって「伝導奉行、吉丸にございまする」と役職と名前を伝えるのである。

 部屋の中にいる大盛は手を止める事なく「入れ」と一言だけを言って許可した。これに吉丸は「は! 失礼いたしまする!」と言って部屋の中に入る。



「どうした?」


「は! 義央さまと思われる御一行が、城下町までご到着いたしました!」


「おぉそうか、それなら俺が門まで出迎えよう。お主は、殿に到着した事を伝えて来い」


「は! 承知いたしました!」



 義央と思われる人間が城下までやって来た事を報告すると、大盛は手に持っていた筆を置いて体を吉丸に向ける。

 そして左大将という仙道家の中で、最も位の高い自分が迎えようと部屋を後に。吉丸には、その足で秀蘭のところに行って、到着した事を同じく伝えるよう指示を受けた。

 今度は急いで走っているので、それなりにドタバタと足を音を立ててしまっている。そこに「うるさい!」というお叱りの声が聞こえ、吉丸は「すみません!」と咄嗟に声のした方を向いて頭を下げる。

 声を思い出すと、少女の声のように聞こえて「ん?」と顔を上げるのである。

 そこには13歳の秀蘭の妹・美波が、頬を膨らませプンプンして立っていた。少し前から上前津城に、美波が移住して来たのだ。



「こ これは美波さま!? ご機嫌麗しゅう!」


「そんな事は良いのです! そんな風にドタバタと廊下を走ってはいけないと教わりましたよ!」


「はは! 全くもって美波さまの言う通りにございます。少し火急の用件がございまして、こんな風に廊下を走ってしまいました……申し訳ございません」


「うむ! 分かれば良いのだ、分かれば! ほら、もう行って良いぞ!」


「はは! ありがとうございまする!」



 吉丸は急いでいるが秀蘭の妹である美波を、雑に扱うわけにはいかないと丁寧に扱う。この扱いに美波は喜んで、しっかりと叱った後に吉丸を解放するのである。

 ニコニコしながら吉丸は、美波が見ているところまでソロ〜ッと動く。姿が見えなくなったところで、バッとスピードを上げて、また走り出す。

 そして秀蘭の部屋の前までやって来た。


 さっきと同じように名前を名乗って、部屋の中から「入って良いぞ」という風に聞こえてから襖を開ける。

 秀蘭は日本時代の本を読んでおり、その傍らに果耶がいてお茶をズズズッと啜っていた。

 とりあえず伝えなければと吉丸は「報告します!」と前置きをしてから喋り始めようとしていた。

 しかしスッと秀蘭が右手を前に突き出し静止させた。



「みなまで言うな、言わなくても分かる。義央さまが、ご到着されたのだろ?」


「は はい! その通りにございます!」


「義央さまを大広間へと、お通しするように伝えろ。俺も着替えたら、義央さまに謁見するとも伝えておけ」


「は! 承知いたしました!」



 吉丸は秀蘭に言われたように、大広間へと通すという事を重臣に伝えに回った。

 これから国主になるであろう人間が、ここにやってくる為に上前津城内は慌ただしくなって来る。これはこっちとか、それはあっちとか男も女も動き回っている。

 そして上前津城に義央が入城した。



「義央さま、お待ちしておりました。仙道家左大将・佐久川 大盛と申しまする」


「大盛か、俺は野間口家嫡男・野間口 義央だ。受け入れてくれて感謝する!」


「いえいえ、こちらにどうぞ。殿はお着替えをされている由にございますゆえ、暫し大広間でお待ちくだされ」



 やはり大変な事があって頼れるのは、秀蘭しかいないと思っていたのだろう。義央たちは既に疲れ切っているように見え、大広間に入ると義央たちの「はぁ…」という溜息が聞こえて来るのである。

 そして義央が大広間に入って10分後くらいに、豪華な格好をした秀蘭が義央たちの前に現れた。

 あまりにも威厳がある格好で、厚畳の上に座っている義央は雛人形のように固まっている。

 そんな義央を尻目に、秀蘭はスススッと歩いて行き、義央の目の前にスッと腰を下ろした。



「お初にお目にかかります、仙道家当主・仙道 渋谷守 秀蘭と申しまする」


「おぉお主が秀蘭か! こんな事になって、俺を迎えてくれた事を感謝するぞ!」


「お褒めの言葉、ありがとう存じまする。こんな事を言うのは不謹慎なのかもしれませぬが……義央さまが、ご無事で安堵いたしました。きっと良元さまも、ご心配される事なく天国へと旅立ちになったでしょう」



 さっきまでは命を奪われるかもしれないという緊張感が漂っており、父親である良元が死んだという実感や悲しみを感じる事は無かった。

 しかし上前津城にやって来ると、とりあえずは安心できたので気持ちの紐が緩んだ。その為、良元の死去に対する悲しみと怒りが込み上げて来るのである。

 大粒の涙を滝のように流しながらも、その目は怒りの炎がメラメラと違っているのが見えた。

 この義央を見た秀蘭は深々と頭を下げながら、口角を上げてニヤッと笑った。



「あの賊軍どもは、この秀蘭が見事に討ち取りましょう! 義央さまは汚く狭いかもしれませぬが、大治城を奪還するまでは上前津城でお過ごしくださいませ」


「過ごすところなど、どうって事は無い! それがたとえ豚小屋だったとしても、英明らの首を取れるのならば俺は全てを投げ打っても良い!」


「さすがは義央さまにございます! この秀蘭に、万事万端お任せくださいませ!」


「総指揮も編成も全ては秀蘭に任せるが、是非とも俺の重臣たちも軍に加えては貰えぬか? コイツらも父上の仇を取りたくウズウズしておるのだ!」


「これは百人力にございます! 良元さまの重臣方と言えば、各方面に勝るとも劣らぬ手練れであると聞いておりまする。これは戦う前から勝ちは決まったと同然!」



 戦いに慣れている秀蘭に軍の総指揮と編成を任せ、さらに良元の家臣たちも軍に加える事が決まった。

 大いに好機がやって来た事を、秀蘭はヒシヒシと感じているのである。この戦いの総大将自体は、良元の息子である義央ではあるが、実質的な総大将は秀蘭である。

 いよいよ、大治仙道家との戦いが幕を開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ