005:新たな歩み
恭子は吉丸が侍になる為、この村を出る事を認めた。
この家に元手を出せるだけのお金は無いので、そこは吉丸が討ち取ったお頭の懸賞金で賄う事になった。お頭の懸賞金は8両(約90万円)だったので、2両を家に残し、残りの6両を旅チンにする事に決まる。
そして和帝歴15年(2175年)5月27日の早朝に吉丸は、15年という長い歳月をかけ暮らして来た故郷に別れを告げ、新たな未来へと歩みを進めた。
「んー侍になるって出て来たけど……どこに行けば良いんだ? いきなり殿様のところってわけにもいかないよな」
侍になると村を飛び出したは良いが、どこにどうしようという事を決めていなかった。いきなり村を出て、どうしたものかと吉丸は困る。
現在の愛河の情勢は、国主・野間口 良元と国代・柄本 広祐という2名が統治を行なっている。
しかし実際に政を握っているのは、良元の家来で野間口家の重臣である仙道 英明だ。そして広祐の方も英明らによって愛河の東側に追いやられて名前だけの官職に就いていた。
こういう現状ではあるが吉丸は知らない。
腕を組んで「どこに行こう……」と頭を悩ませる。周りの人たちが見るくらい「うーん、うーん」と唸り、目に見えて困っている。
すると「どうかしたのかい?」と声をかけられた。
振り返ってみると、そこには大きなリュックのような鞄を背負ったオジちゃんが立っていた。
「侍になろうと思って、村を出て来たんですけど……どこに行けば良いのかって困ってるんです」
「おぉ侍になる為に、その年齢で村を出て来たのかい! それは面白い少年だね。仕官する場所に困っていると……なら東愛河の方はどうだい?」
「東愛河ですか?」
「あぁ今の西愛河は良い噂を聞かないし、仕官するなら絶対に東愛河の方が良いよ!」
吉丸は商人のオジちゃんに、仕官先に困っているという事を伝えた。この15歳という若さで、仕官するのかと商人は「今の時代に、そんな少年が」という風に感心する。
なので自分の考えを吉丸に教えた。
愛河は東西で呼ばれる事が多く西側をメインに支配しているのが野間口家。そして東側は柄本家という風になっており、今は西愛河で良い噂は聞かないから東愛河の方が良いと吉丸に伝える。
それを聞いた吉丸は「本当ですか!」と良い情報を手にできて喜ぶのである。きっと1人では半日以上、迷った挙句に決まらなかったはず。
「それじゃあ東に行く事にします! まさかこんなに親切にして貰えるなんて……ありがとうございます!」
「いやいや! 君みたいな熱意のある人は好きだからね。きっと君ならうまく行くはずだ! 頑張って来なさい!」
「はい! それではコレで!」
吉丸は商人の人に言われた通り、東愛河に向かう事を決めたのである。
旅の始まりで良い人に会えたと吉丸は喜ぶ。
吉丸は東愛河に向かって出発。スタート地点である春日井郡からゴールの額田郡まで、無理をせずに行けば14時間で到着する事ができる。
お金をできる限り節約したい吉丸は、野宿をしたりと節約しながら、翌日の昼過ぎに岡崎市へと到着した。
「ここが岡崎市かぁ。東愛河の中心地って聞いてたけど、思ってたよりも普通の都市なんだな」
東愛河の中心地と呼ばれている岡崎市だったが、栄えているというイメージが持てない。そりゃあ吉丸の出身地である春日井市よりかは栄えている。
しかし西愛河の中心地とされている愛知郡とは比べ物にならない貧相なところである。
そんな事を言っていても仕方ないので、近くにある武家屋敷に飛び入りで家来にして貰おうと考え、屋敷がありそうなところに向かった。
だが実際に屋敷がある通りにやって来たが、そこに人が住んでいる様子が無い。
「んー? 人気が無いな……本当に人が住んでんのか?」
屋敷の敷居を跨いでしまったら、捕まりかねないので体だけを乗り出して中を確認していた。
するとそこに近所の人だろうと思えるオバちゃんがやって来て、吉丸の事を「なにあの人……」という感じで怪しんでいるのである。オバちゃんは吉丸の事を、泥棒か何かと思っているのだろう。
通報されたら困るので吉丸は両手を前に出し、オバちゃんに「違います!」と泥棒である事を否定。必死に自分は仕官しに来たんだと説明を行なった。
「なんだい、そういう事だったのかい! 泥棒かと思っちまったよぉ!」
「分かって貰えて良かったです……それでなんで屋敷がもぬけの殻なのか、知ってますか?」
「あぁそれなら長信との戦に行ってるからだよ」
「長信に戦ですか?」
「あぁそうだよ、何ヶ月前だったかなぁ……」
東愛河は北側に接する長信に攻められており、戦をする為に拠点を岡崎から移したというのだ。
その戦いが終わらない限り、ここに帰って来る事は無いとオバちゃんは言うのである。教えて貰った吉丸は「タイミングが悪かったかぁ……」と太ももを叩いて悔しがる。
悔しがっている吉丸を見たオバちゃんは「残念だったねぇ」と笑いながら背中をバシバシと叩く。
一通り喋ったところで「それじゃあね」と手を振りながらオバちゃんは立ち去っていく。
「さてと……これからどうしたものか」
岡崎を目指してやって来たのに、来たら来たで仕官するところが無かった。これを無駄足と言わずに、何を無駄足と言うのだろうか。
本気でどうしたら良いのかと吉丸は頭を抱える。
このまま西愛河に、また戻るかと頭をよぎった。それも1つな手であるのは確かだ。
しかし吉丸には新しい考えが生まれる。
「ここまで来たんだ、いっそのこと駿静まで行ってみるのもアリか!」
このまま西愛河に戻るくらいなら、東側に面している駿静まで行くのもアリかと考えた。
愛河を出る事になるが、それでも侍になれるのならば良いかと思っている。愛河にいて大成できずに年老いて行くくらいだったら、故郷を離れるのも覚悟の上だ。
吉丸は「よし!」と覚悟をして駿静に向かう為、東に向かって出発するのである。
駿静は国主・中林 祥鳳が治める国であり、愛河と違って祥鳳が家督争いで勝利し自らの力で治めている大国だ。
しかも国主の祥鳳は、その弓の腕から大和一の弓使いとして名を知られている大物である。
そんな祥鳳が治める駿静に向かうが、まずは国境に検問所があり、そこを通過しなければいけない。
「通行料を用意し、荷物を検査ゆえ準備して待たれよ!」
検問所では通行料を払い、持っている荷物の中身を確認される。全ての許可が降りたところで通行できる。
吉丸は侍でも無いので刀は持っていないが、他国に仕官しに行くとなると捕まりかねない。なので吉丸は、誤魔化す事に決めたのである。
「よし、次っ! まず通行料を貰う!」
「えぇと15文ですよね?」
吉丸は規定の通行料を検問所の兵士に渡し、荷物チェックを行なって貰う。
兵士は荷物をチェックしながら質問をして来る。
質問の内容は「何しに行くんだ?」という事である。その質問に吉丸は貧乏で出稼ぎに行くという風に伝えた。兵士は吉丸の説明に納得し「若いのに凄いな!」と言って、駿静へと送り出してくれる。
平然としていたが、内心はとても緊張していた。関所を超えたところで「ふぅ……」と風船の空気が抜けたように頬が萎んでいくのである。
そして吉丸は駿静の国都へと進んでいく。




