056:命懸けの鷹狩り
秀蘭暗殺の兆しがあると聞いた吉丸は、急いでつたえなけらばいけないと秀蘭の下に駆けつけた。
最初こそ秀蘭は冗談を言うように、大した事がなければ首を刎ねると笑みを溢しながら言った。まだ話を聞いていない為、そこまで重要な話では無いだろうと思っていた。
しかし吉丸のこれ以上ないほどに真剣な表情を浮かべており、秀蘭も「これは」と身構える。
「良元さまの家臣を名乗る染谷 弥三郎殿と小幡 弥太郎殿が、私の下に訪れました」
「国主の家臣が? その2人は、お前に何を言った?」
「お二人が、お伝えして下さったのは……仙道 英明らが殿の観察を企てているとの事にございまする! お二人は操り人形になっている良元さまを案じ、英明らを討ち取れるのは殿のみであると思われたご様子!」
吉丸の口から秀蘭暗殺の話を聞いた張本人の秀蘭は、そこまで驚く様子は無かった。どうやら好き勝手やって恨まれている意識はあったらしい。
驚いた事があるとするならば、良元の家臣が暗殺の事を教えに来てくれた事である。
「そうか、英明と俊膳が俺の命を狙っているのか……いよいよ、俺の事を難敵として認めたか。遅いくらいだがな」
「護衛を増やした上で、外出はできる限りお控え下さい」
「犬、お前は俺に命令するのか?」
「い いえ! 命令など、恐れ多いこと。殿のお命を、何よりも守らなければなりませぬ!」
殺されるかもしれないという恐怖より、ようやく殺さなければいけない難敵と認められた事に快感を得ていた。
そんな秀蘭に、吉丸は護衛を増やした上で外出は控えて貰いたいと頭を下げて頼む。この言葉に秀蘭は、自分に命令するのかと吉丸をギロッと上から睨みつける。
吉丸は言い方を間違ってしまったかと、頭を下げながらダラダラと冷や汗を垂らしている。
命令をしたわけでは無いと、直ぐに弁明をした。自分は秀蘭の身を案じているだけであると。
「冗談だ、鵜呑みにするな」
「は はは! 申し訳ございませぬ!」
「それと……俺は逃げも隠れぬせぬ」
「は!? そ それは一体どういう……」
吉丸が無礼を働いたと思って縮こまっているのを見た秀蘭は、冗談であると言って安心させた。
そしてその上で話を本筋に戻す。
護衛も増やさないし、外出を控える事も無いと吉丸に宣言したのである。
耳を疑った吉丸は「は!?」と顔を上げて驚く。
あの秀蘭が言葉を理解していないという事は無いが、どうして護衛を増やしたり殺されないような動きをしないのかと吉丸は疑問を抱く。
「迎撃しただけでは足りぬ。生け捕りにした上で、依頼者について口を割らせる必要がある。そうなれば胸を張って英明らに攻撃を仕掛けられる」
「し しかしあまりにも危険すぎるのでは? もしもの事があったならば、取り返しが付きませぬ!」
「そうなったのならば、それは俺の命運がそこまでだという事だ。ここを切り抜け、俺は愛河を……日ノ本を再び1つにまとめ上げる!」
秀蘭の口から日ノ本一統の言葉を聞いた吉丸は、これ以上無いほどに全身の血が沸き立つような感じがした。
自分なんかが口を挟む事は、何1つとしてできないだろうと思って吉丸は下がる。
秀蘭はピンチをチャンスと捉え、大治仙道家への討伐に向けて動き始める。もちろん守りの動きではなく、攻めの立ち回りを行なうのだ。
その動きとして秀蘭主導で鷹狩りが催される。
本来ならば命を狙われているのだから守備は多くするところではあるが、秀蘭の意向で数は制限された。
確実に暗殺者は、この機会を狙って来る。
そう秀蘭は踏んでいる。
「大盛、刺客が現れた場合は生け捕りにしろ。もし本当にできなければ仕方ないが……これは大治を攻められるか、どうなのか重要な局面だ。お前なら分かってるよな?」
「は はは! しっかりと生け捕りにして見せまする!」
「ならば良い。しっかりと勤めを果たせ」
鷹狩りは予定通りやる。その中で暗殺の刺客がやって来たら、事態を把握している大盛たちが捕まえる。という方向で作戦が決まった。
ここでも秀蘭は大盛に、これは大治仙道家を討ち取る大義名分を得るチャンスであるという事を伝える。そして生け捕りにできなければ、という感じで皆までは言わずに想像で恐怖を駆り立てるというやり方。
大盛は額から冷や汗をダラダラと垂らし、しっかりと生け捕りにしてみせると秀蘭に約束した。
秀蘭と秀斗を除いた秀蘭派の弟たちと、大いに鷹狩りを楽しんでいる。もちろん相手を油断させる為、弟たちには暗殺されそうである事は伝えていない。
しかしその近くで守っている大盛たちの表情は、絶対にミスする事ができないという緊張感から表情が固い。
そんな家臣たちを横目に、弟は秀蘭に質問をする。
「我々は兄上を、当主として仰ぎまするが。これからは、どう致すおつもりなのですか? もはや秀斗兄上との仲は修復できないのでしょうか?」
「秀斗との仲か? そんなのとうの昔に破綻しておるわ。それにこれからどうするかと聞いたか? 俺は俺を認めぬ人間たちを、片っ端から倒していく。そして俺が、この日ノ本から戦を無くす」
「こ この日ノ本からですか!? ここ100年激しい乱世が続いておるのですよ? そう簡単には、いかぬと思うのですが……本気ですか、兄上?」
「俺が冗談を言っているように見えるか? 100年もの間、この日ノ本は乱世の炎に包まれていた。確かに、この100年で日ノ本一統を目指した人間は何人もいる。そしてその想いは遂げられる事なく尽きた」
弟は感じた。
どうしてだろうか。秀蘭が日ノ本一統を目指しているという話をしている時、ここでは無い遠いどこかを見ているように感じた。その目は希望を見ているようで、何か新しいオモチャを求めている子供のようでもあった。
よく分からないが、これだけは言える。
今の時代において日ノ本を統一に最も近いのは、他の誰でもなく秀蘭であると。
こんな事を言ったら、田舎の国主でも無い人間が日ノ本の統一に最も近いなんて笑われるかもしれない。しかしこの日ノ本において、本気で統一を口にできる人間はどれだけいるだろうか。
「兄上……本当の本当に本気なのですね? その人生を全て賭けても日ノ本を、大和を統一するのですね?」
「あぁこの口から出した言葉だ、撤回などせぬわ」
「そうですか、分かりました……この仙道 秀清っ! 兄上への忠義を誓いまする!」
「うむ、期待しているぞ。己のやれる事を全うし、この仙道家に繁栄を齎せ!」
「は! ありがたき幸せ!」
秀清は秀蘭の覚悟を確認すると、これは今から主君として仰いだ方が良いと直感で感じた。
そして秀蘭も秀清が一門衆の筆頭として迎える。
弟たちとの結束も強くなったし、かなり良い鷹狩りになって来た。今回の本題を忘れかけたところで、秀蘭は奥の茂みに違和感を感じて横目で注視していた。
するとピュッという微かな音が聞こえて来る。
この音を聞いた秀蘭は、瞬時に弓矢が放たれたと悟って身を伏せてギリギリで弓矢を避けた。
大盛は急いで「敵襲っ!」と叫び、続けて「刺客は生け捕りにしろ!」と秀蘭の馬廻衆に刺客を追わせる。




