054:常泉寺の会盟
東桜の相模にある常泉寺。
この日なんの変哲も無い、この寺に日ノ本に名を轟かせている3人の大物が集まっている。住職たちは、とてつも無い人間たちが集まった事に緊張を隠せない。
できるならば立ち会いなんてしたく無いが、これを断った方が恐ろしい事になる為、心頭滅却して立ち会う。
「まさか貴殿らと、こんなところで顔を合わせるとは想像もしていなかったわ! がははははは!!!!」
3人の中で最初に口を開いたのは、長信の猛虎として知られる猛将・甲斐田 伸玄だった。
伸玄はムキムキのマッチョという言葉が似合うほどに、まさしく剛腕という感じだ。
そんは伸玄は昨日の今日まで戦っていた3人が、こうやって顔を合わせるなんて夢にも思っていなかった。
この状況が面白くて大口を開けて笑う。
戦場の端から端まで声が届くような伸玄。そんな人間の大きな笑い声を間近で聞いたと想像して欲しい。冗談抜きで耳がキーンッとなるのは確実である。
まさしくその通りになって残りの2人は少し眉が歪む。
このまま気分を悪くなったと変える事もできるが、今回はそういうわけにもいかない。ここは国主として大人な対応をしなければいけないと2人は弁えている。
何も喋らないとなると雰囲気が悪くなると思った東国の雄である金条 氏明が「ゴホンッ!」と咳払い。仕切り直したところで、氏明は喋り始めた。
「確かに我らが、顔を合わせる時は……戦場だとばかり思っておりました。何より、その時には首1つとなっていたでしょうが」
氏明はスラッと長身で、現代にいればモデルになっていたであろう人間である。
何より金条家の祖先は貴族であり、貴族から武士になったという経歴を持つ。祖先が貴族だからなのか、全身からは気品を感じるオーラを放っていた。
「発案した私が言うのも、アレですが。こうやってお二人に、お会いできたのは嬉しい限りでございまする」
「いやいや! 貴殿が呼びかけてくれなければ、我らはこうはならなかったであろうな!」
「伸玄殿の言う通り。腹を割って話すならば、東北を攻めるのに駿静と長信に背を向けるのは恐ろしい」
声をかけた祥鳳が、最もこの状況が信じられない。
軍師である雪庭を信頼はしているが、そんなに上手くいくものかと疑っていた。しかし今回の事があって、雪庭に対する信頼度が増していくのである。
そして呼びかけてくれた祥鳳に、伸玄は感謝する。提案してくれなければ考えもしなかったと。
伸玄に続くように氏明も東北勢に手を焼いており、戦いに行きたい。しかしそうはいかない。背後には油断できない大国が2つもあるからだ。
その憂いがこの同盟を持って無くなるならば、これ以上に無いほどの好機であると感じている。
「我らの想いは同じ。何よりも先に討ち果たさなければいけない存在がおり、背中を預けるに足りる隣人もいる。我ら一同、手を組みましょうぞ!」
「おぉ! 敵にならば恐ろしい相手だが、手を取り合うとなれば頼もしい限りよ!」
「私も同じ気持ちです。これでようやく宿敵と戦う事ができまする」
3人は互いに手を取り合って、自分たちの宿敵と戦う事を誓ったのである。この言葉の交わし合いによって、三国同盟を結ぶ事は確実となった。
あとは細かい事を決めるだけだ。
長時間に渡る話し合いで決めた事は大きく分けて3つ。
1つ、互いの領地に攻め込まない事。
1つ、もしと上記が破られた場合は残りの2カ国で破った国に攻め込む事。
1つ、同名の印として互いの娘を嫁がせる事。
の3つが話し合いの中で決められた。もっと言えば決められた事があるが、それはそこまで重要では無い。
「私の娘は、今年の10月に裳着いたしまする。それ故ににお二人の姫君をお嫁ぎになるのは、それからでもよろしいでしょうか?」
「うむ! 俺は意義なし!」
「私も構いませんよ」
祥鳳の娘は伸玄の息子に、伸玄の娘は氏明の息子に、氏明の娘は祥鳳に嫁がせる事になる。
しかし祥鳳の娘が裳着するのは今年の10月で、それまで待って貰いたいと祥鳳は頭を下げた。これに2人とも意義は無しとして承諾した。
これにて常泉寺の会盟は幕を閉じる。
この常泉寺の会盟の報を聞いた秀蘭は、多くの重臣を上前津城に招集し評定を行なう。
昨日までは駿静が東桜と長信を恐れて攻めてくる事は無いだろうと思っていた。攻め込まないうちに軍備を整えようと考えていたので、ここに来ての三国同盟は予想外という言葉では済まされないほどの大事件である。
「この事態を、どう切り抜けるべきか! 少なくとも正式な同盟は、今年の10月とのこと。攻めてくるのは、冬を越した来年であろう……が! もはや時が無い!」
「大盛の言う通りだ、来年には攻めて来るだろう。それまでに、我らは駿静に対抗するだけの力を付けなければならぬが……今となっては難しいだろう」
「と 殿?」
大盛が現在の状況について、とてつも無い熱を込めて説明をするのである。どれだけ自分たちが追い込まれ、向こうに勢いが付いているのか。
この演説とも言える大盛の説明に、秀蘭は「まさしく大盛の言う通り」と認めた上で、今からやれる事は限られており難しいと腕を組んで目を瞑った。
家臣たちからしたら秀蘭は諦めたのかと困惑する。
性格的にどんな事があっても、諦めないだろうと思っていた秀蘭が、ここに来て手札が無いと発言した。
「もちろん戦う前から諦めるなど、絶対にあり得ぬ! 我らは今、やれる事をやる他ないであろう!」
「や やれる事にございまするか? して、それは……」
「西愛河から我らの敵となろう人間たちを排除する! それが我らのやる事だ! まず大治仙道家を排除する!」
もちろん秀蘭は諦めているわけでは無かった。なんなら諦めるという言葉すら頭の中に過らなかった。
自分たちがやれる事を今、全うする他無い。
その為には、まず駿静に備えるという意味も込めて西愛河から敵を排除するのが先決であると語った。目下の敵は西愛河を実質的に支配している大治仙道家である。
ここを倒して仙道愛知家が、大治仙道家に取って代わるのが目先の目標であると秀蘭は断言した。
「まずは打倒大治仙道家を掲げ、周辺地域の整備を行う! もちろんこれは後々、駿静との戦いも見据えている。しっかりと準備を整えろ!」
『はっ!!!!』
「あとは秀斗の動きにも注視していろ。アイツは、手堅い時に動き出すのは目に見えているわ。必ず目を光らせておけ、アイツはアイツで侮れぬからな」
『はっ!!!!』
打倒大治仙道家を掲げた秀蘭は、大治仙道家を倒す為に周辺地域の整備を整えるように指示を出した。これは後々に駿静が攻め込んで来た時にも使えるから大切な事だ。
あとは今回の事に漬け込んで、秀斗が攻め込んでくる可能性も視野に入れなければいけない。しっかりと監視の目を入れるように指示を出す。
まだまだ不安が残る中で、伝導奉行の吉丸の下に2人の人間が訪れる。
「秀蘭殿の命が危ない!」
「な!? ど どういう事にございまするか!?」
吉丸の前に現れた2人の口から飛び出したのは、秀蘭の命が危ないという事だった。




