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大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第2章・仙道愛知家の家督相続 編
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048:森岡砦の戦い

 忠春が秀蘭の前までやって来たのは、午後4時を回った頃だった。時期的にまだ空は明るいが、それでも少しづつ暗くなり始めている。

 降伏を認めて貰う為に忠春は切腹を行なう。

 切腹すると言っても秀蘭の目の前でやる為、本陣の中に入る必要がある。そんな時に刀など持っていくのは言語道断であり、丸腰で連行されてくるのだ。

 その姿はまさしく敗北した人間のそれである。惨めで、見るに絶えず、侍としては終わりを意味する姿。これが敗北者の最後とも言えよう。



「柄本 忠春、貴殿には切腹を申し渡す。それを持って降伏を受け入れ、捕虜の命を助ける事を約束しよう」


「ありがたき幸せ!」


「ただし! 介錯人は付けぬ、それゆえ見事に1人で武士の面目を保たれよ」


「しょ 承知いたしました……」



 秀蘭は忠春に対して切腹を申し付けた。ここまでは少し前に、もう決まっていた事。

 しかしそこから先が予想外だった。

 まさか介錯人を付けずに、切腹する事になるとは忠春も考えていなかった。介錯人を付けないという事は、痛み苦しい時間が長く続くという事だ。

 介錯人を付けないと言われた時の忠春の顔は、まさしく当てが外れた人間の表情である。



「殿、さすがに介錯人を付けないのは……周りからの目というものがありまする」


「おい、大盛。お前は誰の家臣だ?」


「と 殿でございまする……」


「ならば俺の行動に対する意味を考えよ。これから先、俺に反抗する人間を減らす為にやらなければいけぬ事だ」


「理解いたしました」



 大盛は介錯人を付けない事に反対した。

 だが意見された事への苛立ちからなのか、秀蘭はギロッと大盛を睨みつける。普通の人間ならば、その眼光を向けられたらドキッとして動けなくなってしまう。

 さらに言えば泣く子が、もっと泣くという感じだ。

 秀蘭の狙いとして、これから先に自分に逆らう人間を少しでも減らす為の見せしめである。

 もはや何も言えないと大盛は、理解したと意見を取り下げてススッと後ろに下がって行った。

 忠春は小さく舌打ちをする。少しの期待を持ってしまって、やはりダメかといらない夢を見てしまった。



「さぁ早く始めるぞ、時間が勿体無いからな」



 時間が無いという理由で忠春の切腹が直ちに行われた。

 その間、吉丸たち足軽は戦後処理を行なう。戦後処理と言っても死体を片付けるだけの肉体労働だ。

 敵味方の確認をして仕分けの作業を行なう。これがまた大変な作業なのである。

 足軽まではできないが、足軽総大将くらいまでは首を刎ねてから整えて首実験を行なう為の準備を行なう。

 そんな事をしていると直ぐに6時になる。

 

 秀蘭は日が暮れると「宴の準備だ!」と叫んで、格上の敵である祥鳳軍に勝利した事を祝う宴を開く。祥鳳軍と言っても本隊では無いので、なんとも言えないが勝利した事を大いに祝う事に意味があるのだ。

 その宴会には雑兵までもが呼ばれる。

 これは秀蘭が足軽と雑兵の士気を上げたいという意思の表れとも言える行為である。

 吉丸は足軽ながら利恒や虹直たちと酒を飲み交わす。



「いやぁ! 吉丸、お前は本当に危険知らずだな! あんな戦い方してたら、いつかサクッと死ぬぞ?」


「あの段階では、アレしか選択肢が無いと思ったんだよ。秀蘭さまにも怒られてしまったしな」


「そりゃあそうだ! 本当に心配する人間の気持ちを考えてくれよ。俺も報告を聞いて肝を冷やしたぞ?」


「別に良いじゃねぇか! それくらいしなきゃ、出世なんて夢のまた夢だならな!」


「お前は黙ってろ! 吉丸、良いか? 俺はお前の頭の良さを買ってるんだ、こんなつまらないところで死んだりしたら許さないぞ?」



 農民の出から自分の実力と知恵だけで、ここまで登って来た吉丸の事を利恒は認めている。その為、馬鹿みたいに特攻して行った事を叱るのである。

 すると良い感じに出来上がり始めていた虹直が、あの特攻の事を自分は嫌いじゃないと言って来た。

 利恒は虹直の頭を叩いて、こんな馬鹿みたいに特攻して死ぬ事を許さないと真剣な表情で言う。

 真剣さを感じた吉丸は「今度からやらない!」と大きく頷きながら利恒たちに誓った。


 宴が盛り上がって来たところで、吉丸たちの近くに固まっている集団から「おぉ〜!」という盛り上がったような声が聞こえて来て、吉丸たちは振り返る。

 良い感じに自分たちも盛り上がっていたが、他が自分たちより盛り上がった事に、吉丸は少しムッとした。

 どうしたのかと思って様子を伺う。

 するとその集団に秀蘭がいる事に気がついた。

 吉丸たちは「な!? どうして秀蘭さまか!?」と立ち上がって驚く。油断しているところに、部活の監督が来た時のように、見てから立つまで早かった。



「ど どうしてこんなところに殿が……」


「殿や重臣の方々は、東浦城で宴会をしてたんじゃないのか? 何かあったのか?」



 吉丸は足軽なので城の中で宴会はできない為、外で酒を飲み交わしている。中に入れない吉丸に合わせて、利恒たちも城の外で酒を飲んでいた。

 そんなところに、いきなりの秀蘭で驚きを隠せない。

 もしかしたら何かあったのでは無いかと、頭の中で最悪な事からたわいも無い事を想像する。しかし秀蘭の考える事なんて自分たちには想像できないと早々に諦めた。

 すると秀蘭は、チラッと吉丸たちの方を見る。

 立ち尽くしているだけなんて、心象が明らかに悪すぎるので膝を着いて深々と頭を下げた。吉丸たちの行動を見た秀蘭は、両手を前に出すと上下に振って「気にするな、今日は無礼講だ!」と言って近寄ってくる。



「ほれ、飲め! 特に犬っ! 今日、お前は最前線で死闘を繰り広げていた。見事、天晴れである!」


「い いえ……殿が仰って下されたように、実に私の行動は軽率でした! これからは殿に、ご納得いただけるような武功をあぜとう存じまする!」


「うむ! 実に誠実な答え、お前たちには期待しているゆえ、互いに高め合いながら励め!」



 普段の吉丸と秀蘭は、遠目からも主君と家来であるのが分かるような付き合い方をしている。なので小馬鹿にイジられるような事が多くて、まともに褒められる事なんて何百回に一回くらいしか無かった。

 なので、こんな風に褒められるのは慣れていない。

 しかし直ぐに、これはある意味チャンスかもしれないと吉丸の頭がフル回転する。昼間に言われた事を、今も噛み締めて反省しているのを伝えた上で、次の戦いでは納得して貰えるような武功を挙げると宣言した。

 この吉丸の姿勢を気に入った秀蘭は、吉丸の盃に酒を注いでグイッと飲ませるのである。

 そして他の2人にも互いを励みにして、これからも頑張るようにと声をかけてくれた。そのまま秀蘭は、次の集団のところへと歩いていく。



「なんだったんだ? 嵐のように来て、嵐のように去られて行ったな……」


「きっと労ってらっしゃるんだ。今回の戦いは想定よりも遥かに死者を出してしまった。それを憂いているんだ、だから少しだけでも生き残った人間たちを労って回っていると俺は思うよ」


「まぁ確かに吉丸の言う通りか」



 利恒たちは、どうして秀蘭が来たのかと困惑する。

 そこに秀蘭の気持ちを汲んだ吉丸が、想定以上の死者を出してしまった事を憂いて労って回っているのだと言う。

 たくさん人が死んだからと言って、そんな事を思う人なんだろうかと2人は思った。

 だがそれを言うのは無粋だと思って止めた。


 3人が見つめる先には、明るく振る舞おうとしている秀蘭の姿があったのである。

 少なからず最上の被害とは言えないほどの血を流した森岡砦の戦いは、結果として秀蘭軍の大勝で終わった。

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