041:嵐
忠信の号令により守人は、1000人を超える兵を一夜にして集めたのである。
そして翌日の昼頃には進軍を行なえる状態となった。
守人が「名古屋に向かう!」と兵士たちに言ってから、高速道路跡地を通って上前津城に向かって出発する。
山道を越えたりする事はなく、平坦な高速道路を通るので進軍のスピードは昔と比べ物にならない。そのスピードは昼過ぎに出発して、翌日早朝6時に到着するくらいだ。
守人軍の到着を知った秀蘭は、直ぐに城を出て守人のところに挨拶に向かった。
「おぉ良くぞ参ってくれたな、守人殿っ!」
「主君、忠信の命により馳せ参じました!」
「防衛において誰よりも優れている守人殿が、こうやって馳せ参じてくれたのは心強い限りだ!」
「は! 秀蘭さまは、なにも心配する事なく祥鳳軍を完膚なきまでに負かして来てくだされ!」
膝を地面に着けて深々と頭を下げている守人の肩に、秀蘭は手をポンッと置いて興奮を伝える。
自分がいるからには英明や秀斗の攻撃がして来たとしても、完璧に城を守ってみせると宣言した。まさしく防衛の天才としての貫禄と言えるだろう。
この心強い言葉に秀蘭は大きく頷いて「よし!」と言って家臣たちに「出発の支度をせよ!」と指示を出す。
直ぐに準備を開始した秀蘭軍は、3時間ほどで準備を完了させた。もちろん吉丸も戦場に足軽として向かうので、足軽装備を整えて上前津城で待機する。
そして10時が過ぎたところで準備が完了し、秀蘭軍は祥鳳軍を討伐する為に進軍を開始しようとした。
だがここで少し想定外な事が起こる。
重臣の1人である野林 剛と、その弟・野林 透らが祥鳳軍と戦うのを拒否して帰ってしまったのである。
「ふん! あんな者たちがおらずとも、我らの勝利する事は変わらぬわ。このまま進軍を始める!」
「は! 承知いたしました!」
2人の事は気にせずに進軍を開始した。
真っ直ぐ森岡砦の方に向かったら、警戒されたり対策されたりされかねない。そこで大治城に攻め込むフリをして上前津城を出発するのである。
グルッと回って秀蘭軍は熱田に到着した。
今日は熱田に宿泊し、明日の早朝に熱田港から東浦城に向かうというスケジュールだ。
吉丸は利恒と虹直の2人と食事を摂る。
「今回の戦いは、どうなると思う?」
「今回も秀安殿が加勢して下さる。何より向こうは、700もの兵を帰すという油断し切っている。こちらの勝利は揺るがないところだろう!」
利恒は吉丸に今回の戦いについての意見を聞く。
いろんな事が積み重なって自分たちが勝つというのは、明らかに決まっていると自信満々に答えた。
吉丸の意見に利恒も「確かに」と相槌を打つ。その間も虹直は食事を摂るのに必死だ。
するとそこに吉丸たちと同い年の恒虎が来た。
「お前たちは本当に仲良いな。俺も混ざっても良いか?」
「お おぉ珍しいな。別に構わないが……」
「前の戦いは城の守備を任されていたからな。お前たちと戦うのは今回が初めてだ」
「そうだったか? それじゃあ俺たちの活躍に乾杯だ!」
どうやら同い年の3人が飲んでいるのを見て、自分も飲みたいと思ってやって来たらしい。
いつも1人でいるイメージのある恒虎がやって来て、一緒に飲みたいというので吉丸たちは驚いた。少ししてから断る理由も無いので歓迎して乾杯する。
良い感じで盛り上がったところで、明日も早いので吉丸たちは早めに床に着いた。
翌日、熱田港から船で出発しようとした。
だが台風が西愛河に直撃してしまう。風が強く海は荒れに荒れてしまっていた。
「殿、さすがにこの天気では……船頭と水夫たちが、船を出すのは反対だと言っておりまする」
「確かに今の天気では難しいか。少し時間を置く事にしよう、もう少ししたら天気も良くなるやもしれぬ」
「承知いたしました、兵たちには待機するように指示を出しておきまする。出発準備だけは進めますゆえ、ご心配なさらないでくだされ」
「あぁ全てお前たちに任せる、しっかりと仕事をせよ」
あまりの天気に船を運転する船頭や水夫たちが、こんな時に船を出したくは無いと言って来た。
確かにあまりにも危険かと秀蘭も考える。ここは致し方ないと出港を遅らせる事にした。
しかしその間も黙っているわけにはいかない。配下たちは、いつでも出発できるように準備はしておくと言って、秀蘭の天幕から出ていくのである。
幸先が悪く秀蘭は「うーん」と腕を組みながら唸る。
「いやぁ、まさかこんな台風に遭うなんて……」
「直ぐに逸れていくだろ。昼過ぎには天気が良くなるはずだ、そうなれば直ぐに出航するさ」
「そうなれば良いけどな」
利恒は昼過ぎには天気も良くなるというが、吉丸としては全くもってそうは思えなかった。
そして吉丸の嫌な予感が当たるのである。
昼過ぎになっても天候は、一切変わらなかった。
ずっと天気が悪くて秀蘭は腕を組んだまま、貧乏ゆすりをしてイライラしているのが目に見える。
痺れを切らした秀蘭は立ち上がり「船頭と水夫を呼べ」と大盛に怒鳴りながら言う。
この感じから言えば大盛とて宥められないと思い、素直に船頭や水夫たちを呼びに向かうのである。
「この波では船は出せぬか?」
「えぇかなり危険で、このまま船を出すわけにはいきませぬ。どうにか日を改めるか、嵐が去るのを待っては頂けませんでしょうか?」
「日を改める? 嵐が去るのを待つ? お前たちは、何も分かっていないみたいだな……今日という日は、他のどんな日よりも重要な日なのだぞ! 別の日にしようなどと、口が裂けても言うな!」
「は はは! 申し訳ございませぬ!」
秀蘭が船は出せるかと聞いて、水夫たちが危険だから別日にした方が良いと答えたのにブチギレられた。
しかしこればっかりは仕方ない。
完全に森岡砦が油断している隙に攻撃したいのだ。
もともと機嫌が悪かったのに、秀蘭の機嫌がさらに悪くなってしまったのである。水夫たちは必死になって平伏して「許してください!」と謝罪した。
すると秀蘭は「船を出せ」と呟く。聞き取れなかった水夫たちは「へ?」と言う。
「今直ぐに船を出せ! 出航する!」
「なっ!? お話を聞いておりましたか? こんな嵐の中で船を出せば、全滅する可能性がありますぞ!?」
「だからなんだ? それくらいの危険を冒さねば、格上である祥鳳軍に勝つ事などできぬわ。ここで死ぬならば、そういう運命だという事だ!」
秀蘭は船頭と水夫たちに、今直ぐ船を出すように指示を出したのである。
今の今まで船を出す事への危険性を喋っていたのに、秀蘭は何を聞いていたのかと水夫たちは困惑。
もちろん秀蘭は今、船を出す事への危険性を理解はしている。理解はしているが、こんなところで足踏みをしている暇は無いと秀蘭は考えた。
これくらいの危険を冒さなければ、これからの祥鳳軍との戦いに勝つ事はできないと秀蘭は思っている。
水夫たちの意見を跳ね除け、秀蘭は強行を決断。
この決断に家来たちも船頭と水夫たちも従わざるを得ないので「承知しました」と答えた。




