038:駿静襲来
吉丸は水谷家を中林家なら離反させ、秀蘭方に着かせた褒美で多額の報奨金を貰い受けた。
受け取った報奨金は、世話になっている人間たちに使おうと決めた。使う人間は決まっていて、遊女のところに利恒と虹直を連れて行くのである。
「いやぁ! 遊女のところに来るのは久しぶりだぁ!」
「おいおい虹直、羽を伸ばし過ぎるなよ? 調子に乗ってると痛い目に遭うぞ?」
「何を小さな事を言ってるんだ。利恒が金を出してるわけじゃ無いだろ? なぁ吉丸」
「ははは! まぁまぁ2人とも今回は楽しい席だ、今日のところは楽しもうじゃないか!」
いつものように虹直は、大笑いしながら酒を飲んでツマミを食べて騒いでいる。
虹直が騒いでいるのを見て利恒は、羽を伸ばし過ぎていると痛み目を見ると笑いながら言った。
金を出しているのは吉丸なので、吉丸の意見を聞こうと2人は話を吉丸に振る。いつも通りの2人に吉丸は、大笑いしながら楽しもうと酒を呑み耽る。
3人の飲み会は夜明けまで続けられた。
遅くまで飲んでいたので、吉丸の家で3人はイビキをかきながらグッスリと眠っている。もちろん仕事は3人とも休みなので寝ていられる。
グーグーッと眠っている家に、何者かが走ってやって来る音が聞こえて来る。
そして扉の前に着いたところで「失礼いたしまする!」と声をかけてから扉を開けた。
いきなりの事で吉丸たちは、飛び起きて「どうした!」と眠い目を擦りながら何かと聞く。目を凝らしてみると、やって来た男が部下である事に気がついた。
こんなにも焦っているので、吉丸は直感でマズイ事が起こったと察する。
「駿静が水谷家討伐の為、出陣なさいました!」
『な なんだと!?』
秀蘭に寝返った水谷家を討伐する為、祥鳳は西愛河に向けて出陣し始めたという。
いきなりの衝撃的な情報に、利恒と虹直も起き上がって本当なのかと事実確認を再度行なう。もしかしたら二日酔いで聞き違いを起こしたかもしれないからだ。
しかし男は「間違いございません!」と答えた。
「お館さまには、もうお伝えしたのか?」
「は! もう既に別の伝令が向かっておりまする。吉丸殿にも報告した方が良いと思いまして!」
「分かった! 良くぞ知らせてくれた」
秀蘭にも情報が向かっているというので、とりあえずは良かったと吉丸は考える。
だがこれからは忙しくなると思うと、利恒と虹直にも準備をさせて上前津城へと急いで向かう。
ゾクゾクと大広間に重臣たちが集まる。
ただの足軽である吉丸は当然として、まだ身分が高くない利恒と虹直も軍議には参加できない。
「中林方の軍勢はどれほどだ? それによっては動き方が大きく変わって来るぞ!」
「は! 少なく見積もっても1200との事です!」
秀蘭は祥鳳が、どれほどの軍勢を差し向けて来たのかを大盛に問うのである。その数によっては選ぶ戦法が大きく変わって来るから大切な事だ。
深々と頭を下げながら大盛は少なく見積もっても1200はいると報告した。もしかしたら1200よりも多い人数がやって来ているかもしれない。
それを聞いて秀蘭は顎を触って考えるようにする。
すると長廉が頭を下げながら「失礼ながら発言を、お許しください!」と頼んだ。
秀蘭は「うむ、許そう」と許可。
「中林方は水谷家を討伐する為に出陣いたしました。その為、直ぐここに来るという事は無いかと考えられまする」
「ならば、この先どうなると考えている?」
「は! 私の考えでは水谷家の居城・東浦城を落とそうと考えているのでしたら、森岡に布陣する可能性が高いと考えておりまする」
祥鳳の狙いは水谷家である為、直ぐに上前津城へと攻め込んで来る可能性は低いと長廉が語る。
この意見に納得した秀蘭は、ならばどう動くのかと秀蘭は長廉に問うのである。答えとして同じ東浦町内の森岡に布陣するのでは無いかと考えていた。
まさしくその通りであると秀蘭は長廉を褒める。
するとそこに「報告、報告!」と吉丸が走って来た。
吉丸の姿を見た秀蘭は「犬、どうした!」と聞く。
「は! 祥鳳軍は進軍を進め、知立城を落とし城主・山本 禅五郎さまお討死との事でございまする! そのまま東浦城に向かって進軍を続けておりまする!」
「もう知立城が落ちたか……犬!」
「は! 何でございましょうか!」
「今から金忠のところに行って籠城をするように言って参れ! 我らは兵を挙げる準備をする」
「は! 承知いたしました、直ぐに向かいまする!」
東愛河で秀蘭方に着いていた知立城が攻め落とされた。
そのまま祥鳳軍は東浦に向かって進軍を続けていると報告を行なっていると吉丸は報告をした。
攻めて来るのは予測通りとして、この早さで知立城が落とされるとは思っていなかった。その為、吉丸に東浦城に伝令として向かうように指示を出す。
その内容は籠城しろという事だった。
時間を稼いでいる間、秀蘭は兵を挙げる準備をすると断言したのである。
直ぐに向かうと言って吉丸は大広間を走って出る。
「急いで馬の準備をしろ! 直ぐに東浦城に向かう!」
「吉丸殿、こちらの馬をお使いくだされ!」
「おぉ! 感謝する!」
厩舎にやって来た吉丸は、急いで馬を用意するように指示を出すのである。
すると顔見知りにしている馬の世話役が、事態を察して馬を用意してくれたのだ。吉丸は感謝を伝えてから馬に跨って上前津城を出発する。
極限まで急いで2時間という速さで東浦城に到着した。
「犬飼 吉丸、秀蘭さまより伝令として馳せ参じた! 金忠殿に急ぎ伝えなければいけない事があるゆえ、取り急ぎ開門を申し込む!」
「使者殿、承知いたした! 暫し待たれよ、今直ぐに開門いたしまする!」
吉丸は門の外から大きな声で、自分が使者である事を伝え金忠に話があるから門を開くように頼む。
門番も状況を理解しているので、直ぐに確認してから開門すると吉丸に返した。
その言葉通りに3分後くらいに門が開く。
吉丸は「感謝する!」と言ってから馬と共に東浦城に入るのである。
パッと馬を降りると、馬飼の兵に託す。
急いでいるので小走りで本丸の中に入り、大広間へと入る。吉丸が大広間に入ってから2分も経たないところで、急ぎ足の金忠がやって来る。
「吉丸殿、良くぞ参ったな!」
「はは! お館さまの命で馳せ参じました」
「それで殿は、なんと申しておられる? この水谷 金忠、状況によっては一番槍を務める覚悟だ!」
「さすがは武士道の勇、金忠殿にございまする! しかしお館さまより命じられたのは、金忠殿には籠城して貰いとう存じまする。その間にお館さまが兵を整えまする」
「籠城か……戦いに行くのも覚悟していたが。殿が籠城だと申すのであれば仕方なかろうな。相分かった、しっかりと籠城させて貰おう!」
金忠の覚悟としては、城から打って出て祥鳳軍と戦う事は覚悟していた。この覚悟を吉丸は、さすがは武士道を重んじる金忠だと認めた上で秀蘭の言葉を伝える。
自分に命じられたのが籠城である事を知った金忠は、本当は戦いたいと悔しそうな表情を浮かべた。
しかし命じられたのは、籠城なので「しっかりと務めさせて貰う!」と吉丸に覚悟した事を示す。
秀蘭と祥鳳の戦いが幕を開ける。




