033:秀蘭の決断
吉丸の話を受けた大盛は、山本のいる野並城に間者を送って、離反の意思があるかを確認させた。
もしも山本に秀蘭を裏切って中林家に離反するつもりならば、それなりに隠れてやり取りをしているはず。ならば時間がかかるかと予想していた。
この吉丸の考えが外れる。
山本は隠す事なく中林家の家臣を、城の中に招いては夜会を開いていたのである。
「はぁ!? 離反するなら少しでも相手に、バレないようにするのが当たり前なんじゃないのか?」
「あぁ確かに普通ならバレたくないはずだ、それを周りに知らせるようにしていた……」
「つまり別の狙いがあるってわけか? でも、その狙いって何なんだよ?」
吉丸と利恒と虹直で今回の件について話していた。
吉丸と利恒は自分の頭で「うーん」と考えているが、虹直は2人の意見を聞くだけでピーナッツを食べている。
そこにツッコミを入れるのは面倒だと分かっている2人は、話を先に進めるのである。
どうして今回は離反しようとしているのを隠さず、堂々と中林家の家臣と親しげにしているのか。もしかしたら策があるかもしれないと2人は考える。
しかしその策というのが分からない。
「バラして得のある事というのが、とてもじゃないが分からないなぁ」
「攻撃させようとしているのか? ちょっと待てよ……もしかして」
「おっ! 何か気がついたんだな!」
色々と考えたところで吉丸は、攻めさせようとしているのかと1つの可能性を見出し、ある事に気がついた。
吉丸が何かに気がついたのを見て、利恒はどんな事を思いついたのか「聞かせてくれ!」と言うのだ。
まだまだ浅知恵ゆえに、可能性としては低いと吉丸は考えている。しかしそんな浅知恵で良いから、今はどんな可能性も考えたいと利恒は語る。虹直はどうでも良さそうにピーナッツを、まだ食していた。
「お館様に攻めさせるのが狙いだとすれば……目的は中林家との和睦を破らせること」
「た 確かに! 先代さまがお亡くなりになられる前に、中林家と和睦をしている!」
「そうだ! その和睦を破るのと破られるのとでは、全くもって周りの感じる印象が異なる!」
「全くその通りだ! 祥鳳は我らに和議を破らせようとしている。野並城を攻め込んだところで、大義名分を持って仙道愛知家に攻め込んで来るつもりだろう!」
先代の当主・秀昌は死ぬ直前に、中林家と和議を結んでいたのである。互いに互いの領地に攻め込まないという名目があったのだ。
つまり秀蘭を煽るだけ煽って、野並城に攻撃を仕掛けさせるのが狙い。まんまと秀蘭が攻め込んで来たところで、中林家が援軍としてやって来るというのがシナリオ。
大義名分を持って愛河を平定できると思っている。
「んー、何とも難しいところだな。このまま黙っていれば戦が起きるのは先だろうが、その代わりにお館様の品位が損なわれて周辺国から舐められてしまう」
「逆に攻め込めば、向こうの大軍が押し寄せて来る。つまり仙道愛知家と中林家の全面対決になる」
離反の意思が分かった今、戦いを仕掛ければ和議を破った事になり、中林家に大義名分を与える事になる。
しかし逆に攻撃を仕掛けなければ自由にさせ、撃退する度胸も無いとして周りから秀蘭が舐められる事になってしまう。どちらにしても握手になり得る。
これは中林家と和議を結んだ時点で、変える事もできない最悪な結果と言っても良い事態である。
「こうなってしまったら、もうお館様の決断に頼るほか道は無いだろうな」
「お館様の両肩に御家と、我らの命がかかっている。普通の人間なら、こんな決断はできないぞ」
もはや判断に関しては秀蘭の決定に委ねられている。
どちらに転んでも自分たちは、秀蘭について行くしか無いと吉丸たちは「うんうん」と頷く。
すると焦っているのが分かる足音が聞こえて来て、吉丸たちがいる部屋の方向に向かってやって来る。
部屋の前にやって来たところでピタッと止まった。
そしてその人間が利恒の配下の人間である事が分かる。
「お館様が、ご決断なさりました! なので、報告に参った所存です!」
「そうか……お館様が、ご決断なさったか。お館様は、どちらをご決断なさった?」
「は! お館様は……和議を破棄するよう配下に、お命じになられました!」
秀蘭は究極の2択を決断した。
どちらにしても地獄ならば侍として、漢として真っ向から戦ってやるというのが秀蘭の考えである。
この決定に吉丸たちは床に座っていたが、ガバッと立ち上がって「遂に…か」と言葉を溢す。
別にこの決定は、予想外というわけでは無い。
秀蘭の性格を考えれば、この事態を放置する方が考えづらかった。しかしそれを考えるのと、現実になるとでは明らかに心への衝撃度が違う。
吉丸は大軍勢が押し寄せて来る事への恐怖で、ドドドッと脈が早くなる。
死ぬかもしれないという恐怖の奥に、心が燃えるように激っている事に吉丸は気がついた。
和議が破棄された事で、祥鳳は立ち上がり「ただちに野並城を参加に加えよ!」と指示を出し、山本は直ぐに中林家に忠誠を誓って参加へと降った。
この決定を知った秀斗は動揺を隠せない。
敵対している秀斗でも、仙道愛知家が滅亡するかもしれないという事態は、全てを差し置いて別である。
「早く英明さまのところに使者を送れ! そして英明さまの指示を仰げ。このままでは愛河が占領されるどころか、大和から仙道家が滅亡するぞ……」
「は! 直ちに向かいまする!」
秀斗は爪を噛みながら、これからの立ち居振る舞いについて考える。
自分たちの間だけで考えるには、話が大きいので主君である英明のところに使者を送る。これからどうするべきかと、英明らの意見を乞う為だ。
「英明さま、秀蘭が勝手に和議を破棄いたしました。そしてその破棄を受けて、祥鳳は既に野並城を傘下に加えたとの事にございまする」
「うむ、あの東海の覇者と言われている祥鳳殿に弓を引くなど秀蘭は本当に大馬鹿者だ……俊膳、これはどうするべきだと思う?」
「このままでは愛河を巻き込んだ、愛河史上最も大きな戦になる可能性がありまする! それは絶対に避けなければいけませぬ、東愛河を失った我らに駿静と戦うだけの力などありませぬ」
英明を傀儡にしている俊膳は、これからどうするべきかを英明と話し合う。
愛河の国代である英明の振る舞いで、良元派の人間たちが息を吹き返す可能性が大いにあった。その為、この戦いに関しては俊膳派にとっても重要な戦いである。
もう既に俊膳の傀儡となっている英明に、こんな重要な事態を打破するだけの考えが出せるはずが無い。
「ここは秀蘭とは敵対しているというのを、駿静に伝えるというのはいかがでしょうか? さすれば駿静は、自分たちの敵を秀蘭だけに絞るはずです」
「その先はどうするのだ? このまま行けば駿静が、勝つのは必然であろう?」
「えぇ秀蘭に勝つ可能性など、万に1つもありませぬ」
「ならば、その後を考えなければいけなかろう? こっちに牙を向く可能性だってあるかもしれぬ」
「そうなったならば駿静に降る他、道はありませぬ。命あればこそにございまする」
やはり初めから俊膳たちには、駿静と戦うという考えが毛頭無いのである。
もしもの時は駿静に降伏する事を真っ先に考えた。
もちろん降伏するというのは悪い事では無い。兵の命も助けて貰う為には必要なものだ。
しかしこの男たちの降伏は、自分の命を最優先に考えた独善的なものと言えるだろう。




