027:美飛を満喫
吉丸と虹直が城下に行ったところで、忠信は嫡男・祥龍と朝安に加えて里見四天王と呼ばれる重臣を呼んだ。
里見四天王とは稲山 良鉄、岩安 守人、氏葉 雅直の3人に明松 朝安を加えた4人が里見四天王と呼ばれている。
「ワシの意見を率直に言うのならば、婿殿に会おうと思っている。この事について、お主らの意見が聞きたい」
「父上っ! 私は反対いたしまする!」
「ほぉ? 祥龍よ、どうして反対だと思う?」
「秀蘭という男は、昔から遊び歩いており大和で1番の大馬鹿者と呼ばれておりまする。それに加え本当ならば主君と仰がなければいけない、大治愛知家にも反旗を翻している。そんな人間に手を貸せば、父上の品位が落ちまする」
忠信は重臣たちに、秀蘭と会う事についての意見を聞くのである。本人としては会いたいと思っていた。
しかしその意見に嫡男である祥龍は大いに反対した。
大和で1番の大馬鹿者と呼ばれている上に、主君であるはずの大治仙道家に盾ついた事を指摘する。頭の堅い祥龍としては、こんなのは絶対に許せないのだ。
「お前は本当に、昔から頭が堅いなぁ……そんなカチカチな頭では、里見家の当主にはなれぬぞ」
「しかし父上っ! これは父上の品位に関わる問題です」
「良い加減に、そこまでにしろ。お前の声を聞いていたら頭が痛くなってくるわ」
「里見家の当主であられる父上の為にございまする! 放っておくわけには……」
「良い加減にしろと言っておるであろう! お前の話など聞きたくは無い、出ていけ!」
忠信は最初は冗談のように、祥龍に対して意見を聞くのを止めようとした。
しかしそれでも祥龍は「止めた方が良い!」という意見を曲げずに言い続けた。
その結果。忠信はブチギレて部屋から出るように言う。
間違った事は言っていないつもりだが、忠信がブチギレたら祥龍には、どうしようも無い。頭を深く下げ「失礼いたしまする」と言って部屋を出て行った。
部屋に残っている人間たちは、気まずい空気が流れる。
「はぁ、あの男はダメだな……お前たちの意見を聞かせてくれ。婿殿に会うのは、どう思う?」
「私の意見としましては、会っておくのは良い事かと思われます。姫君の婿であるというものありますが、なにより周りからは大和1の大馬鹿者と呼ばれていながら、格上相手に大勝利を収めた能力。とても気になります」
改めて忠信は会うのは、どう思うかと家臣に聞いた。
するとまずは良鉄が会うのが良いと答える。姫君の婿であるというのも大きいが、何よりも大治仙道家に勝ったという武士としての能力が気になると言うのだ。
この言葉に守人が「同意見でござる」と答え、後に続くように雅直も「私も異論なく」と会うのを支持した。
「朝安、お前はどう思っている?」
「は! 私の意見としては、愛河の猛獣と呼ばれた秀昌殿のお子が、どこまで強いのか……とても気になりまする」
「やはりそうであったか! ならば面会を行なうのは確定として、あとは日時と場所だ。これに関しては、お前たちの話し合いで決めろ」
『は! 承知いたしました!』
全員の意見が固まったところで、秀蘭と面会を行なう事が決定した。ここから先の面会の日時や場所については、重臣たちに任せると言って部屋を出る。
そのまま自室に戻っていくのである。
一方で城下にいる吉丸たちは、重臣・明松 朝安と同じ苗字の李光と対面していた。
苗字を聞いた時は、まだピンッと来ていなかった。
しかし次第に記憶が蘇ってきて、明松というのがさっきあった朝安と同じである事に気がつく。
「これは李光殿、失礼いたしました。李光殿は、朝安さまの若君にあられましたか」
「いやいや、朝安は私の叔父だ。父上は5年前に流行病で亡くなって、家督は一時叔父上が預かっているんだ」
「そ それは大変失礼いたしました! 配慮に欠けるような発言でございました、申し訳ありませぬ」
「気になさらないで下さい! 知らなければ分からないのは当然ですので!」
苗字が同じだったので、吉丸は李光と朝安を親子だと断定して話を進めてしまった。
失礼をしてしまったと吉丸たちは必死に謝る。別に李光は笑っており、気にしている様子は無かった。
李光と朝安は親子ではなく、叔父と甥の関係だった。父親は5年前に病気で亡くなってしまい、嫡男・李光が当主を継ぐのが筋。しかし李光は経験値が足りないから当主はやれないと辞退をしてしまった。
それでも明松家の当主をやれるのは李光だけだというのが周囲の総意であり、李光が納得するまで叔父の朝安が代理を務める形となったのである。
「さぁさぁそんなお暗い顔はせずに! そうだ、私が城下を案内いたしましょうか?」
「え? よろしいのですか?」
「えぇ今は暇ですので、ぜひとも案内させて下さい」
無神経に繊細なところを、突いてしまったと思った吉丸は暗い顔をしているのである。
そんな吉丸に李光は気にしないで欲しいと、吉丸の肩に手をポンッと置いて城下を案内してくれると言った。申し訳ないと思いながらも、ここまで言ってくれているので断るわけにはいかないと吉丸は思った。
吉丸は虹直の方を向いて「案内して貰いましょうか?」と聞いて「あぁ」と一言を虹直は返す。
すると李光は満面の笑みで「こちらにどうぞ!」と城下町の案内を始める。
「さぁさぁこちらにどうぞ! ここの支払いは、私がいたしまするので、お好きなのをお食べ下さい」
「いやぁ、さすがにそれは申し訳ないですよ……」
「良いですよ! 気にしないで下さい!」
吉丸たちは李光の奢りで飛騨牛のステーキを食した。
吉丸は貧乏だった故に、こんな食事を食べた事は無い。きっと虹直は食べた事があるだろうと思って、吉丸は興奮を抑えて食事をしていた。しかし実際は「美味い! 美味い!」と虹直はガッツいて食べている。
その食べっぷりに李光は笑いながら満足そうに見ているのである。この表情を見た吉丸は、きっと心根が優しい人なのだろうと思いながらパクパクッと食事を続ける。
この日は李光の案内で城下町を楽しむ。
忠信の重臣の甥というので、緊張して楽しめないかと思ったが、李光の人柄の良さもあって楽しめた。それどころの話では無いかもしれない。
吉丸と李光は想定以上に仲良くなって、夜遅くまで酒を飲みに行ったのである。先に虹直が城に帰ったが、虹直が帰った後でも2人でハシゴ酒をするのである。
そして翌日、9時半くらいに吉丸たちは大広間に改めて呼ばれた。虹直は二日酔いで集中できていないが、吉丸は二日酔いを感じさせない佇まいをしている。
「これより昨日の答えについて伝える。家臣らと話し合った結果……婿殿に会う事を決めた」
「はは! ありがとうございまする!」
「詳しい日時や場所については、この文に書かれている。しっかりと婿殿に届けよ」
「は! 承知いたしました!」
伝導奉行として初めての大仕事を見事にやり遂げた。
美飛の国代に面会の約束をさせたのだ。農民の出である吉丸からしたら、素晴らしい業績と言えるだろう。
しかし吉丸はまだ満足していない。もしかしたら帰る前に襲われるかもしれない。だから上前津城に帰るまでは、油断しないようにしようと考えていた。




