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大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第2章・仙道愛知家の家督相続 編
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023:大和一の兄弟喧嘩

 吉丸の渾身の演技で、秀斗方の家来から手を出したという風に仕立て上げる事に成功した。

 そしてその吉丸の猿芝居に、利恒が理解して乗る。

 気がつけば2人の男は、顔面がボコボコになって倒れていた。殴った張本人である利恒は「はぁはぁ」と息を荒立てており、明らかに自衛の域を超えている。

 しかし吉丸は「まぁ仕方ないか」と利恒を責めない。

 なんせ吉丸たちには、そんな事をしている時間が無い。



「急いで、この文をお館様に渡しに行こう! これは早く知らせた方が良い!」


「あぁ俺も、そう思う! さっさと馬のところに行くぞ」



 倒れている男たちに構っている暇は、吉丸たちには無いので男たちを無視して馬のところに走って戻る。

 そのまま「え? 馬って、こんなに速いの?」というくらいのスピードで上前津城に帰った。

 早く秀蘭の耳に入れた方が良いと思った吉丸は、小者である利恒の顔を使って急いで拝謁する。さっきは利恒が着いてくると面倒になりそうだと思ったが、こうなったら着いて来て貰って良かったと心の中で感謝した。

 そして秀蘭が2人の前に現れる。



「なんだ? 俺の耳に、早急に入れておく必要がある話だと聞いておるぞ?」


「は! お館様のご指示で、五郎殿のところに行って来たのですが……五郎殿のところに、秀斗さまがお手紙を出していたらしく」


「秀斗が五郎のところに手紙を? その手紙の内容は?」


「いえ! お手紙の内容に関しましては、そこまで重要なのではなく……」



 なんとも話しづらそうにしている吉丸に対し、話が前に進まないという事の苛立ちを秀蘭は募らせる。

 扇子で床を叩いて「簡潔に申せ!」と怒鳴られた。

 吉丸は懐から預かって来た秀斗の手紙を取り出し、秀蘭の前にススッと置く。そして「こちらを!」と言って、当主と書かれている部分に掌を差し出す。



「秀斗さまは、自らの事を仙道愛知家の当主であると自称しておられるご様子」


「アイツが当主を名乗っているだと? しかも俺の贔屓にしている男を奪おうとまでして……舐められたものだ」


「どういたしましょう? この様子では、各方面に当主であると触れ回っていると思われますが」



 あまりの驚きと怒りから秀斗の手紙を持って、その場にパッと立ち上がる。最初は驚きだったろうが、次第に怒りへと変わっていき、手紙を持つ手が震えている。

 この手紙を確認する限りでは、もはや各方面に自分が当主である旨の書状を多く出していると吉丸は進言した。こうなったら早めに手を打たなければいけない。

 どうするべきかと秀蘭の判断を仰ぐのである。



「直ぐに秀斗方の補給路を断て! そうすれば秀斗は俺に頭を下げるか、戦を仕掛けてくるのは確実だ。頭を下げてくれば良し、戦になれば捻り潰せば良し! どちらに転んでも、俺の勝利になるのは変わりなし」


「承知いたしました! 食料に関する補給路を断つのは、私が務めさせて頂きます。しかし武力による補給路を断つのは、足軽である私には不可能ですので、利恒さまにお任せいただけ無いでしょうか!」


「まぁそれが妥当なところだな。しかし利恒が1人でやるのは心配極まりない。同じ小者である恒虎、清政(きよまさ)と共にやってみろ!」


「は!」



 吉丸は補給路を断つのは自分がやるが、武力で援軍などを止めるのは分不相応であると進言した。その上で利恒にやらせて貰えないかと上奏。

 これは妥当であると認めた上で、利恒だけに任せるのは怖いと秀蘭は語る。ならば利恒と同じ小者である恒虎と、佐藤(さとう) 清政と共にやるように言い渡す。

 弟に負けるわけにはいかないから、絶対に失敗は許されないと秀蘭は2人に釘を刺すのである。


 吉丸は直ちに食料を、古森城に運んでいる農家や漁師に対して運ぶ事を禁止する御触れを出した。もちろん生活にかかってくるので、その全てを上前津城が買い取る。

 こういう時の為に無駄な金を洗い出すのだ。

 農民と漁師たちは秀蘭に逆らうわけにはいかないので、秀斗に食糧を送るのを取りやめた。

 これには古森城も怒り心頭である。



「お館様、こんな事をお許しになるおつもりですか! 古森城を受け継いだのは、お館様にございまする。仙道愛知家の当主をお名乗りになるのは、お館様こそが相応しいに間違いございませぬ!」


「五郎左衛門の言う通りにございまする! 秀蘭さまは、食料を独り占めにしようとしておりまする。それに秀斗さまの家臣が、我ら家来と揉めたとも聞きまする。あまりにも目に余る蛮行にございまする!」



 書き物をしている秀斗の背中に向けて、家臣である五郎左衛門と左近乃上が手を打つように上奏する。

 無視をしているかのように、カキカキッと書く手を止めずに書き進めている。

 シーンッとした空気が流れ、返答が返って来ないので五郎左衛門たちは「お館様さま?」と声をかける。そこでようやくピタッと動きを止めて、筆を筆置きに置いた。

 そしてゆっくりと五郎左衛門の方を向く。ようやく見てくれたので、改めて頭を下げた。



「なんだ? お前たちは私に、兄上と戦えと指示をしているのか? お前たちは、いつから私に指示できるほどに偉くなったというのだ?」


「い いえ! 決してそのような意図はございませぬ!」


「まぁお前たちの言いたい事も理解できぬわけじゃない。それこそ食糧を断たれたのは、凄まじく由々しき事態。何か手を打たなければいけないだろうな」



 一生懸命に説得ているタイミングで、自分は命令口調になっていたのかと、五郎左衛門たちは冷や汗をブワッとかいて深々と頭を下げ謝罪する。

 しかし別にそこまで怒っていたわけじゃなかったので、秀斗は食糧を断たれたのはマズイと話を戻す。どうにかして食糧を確保しなければ大変な事になる。



「ここは兄上に直接、私が頭を下げて謝罪する」


「そ それはなりませぬ! それでは秀蘭さまの風下に立ってしまう事になりまするぞ!」


「そもそも今は兄上と戦っている暇は無いのだ。今は大治仙道家と睨み合っている状態だ、そんな時に兄上と戦っている暇はありはせぬ! ここは兄上と共闘し、大治仙道家を討ち滅ぼすのが先決だ」



 秀斗が今の状況で決断したのは、自らが秀蘭のところに行って頭を下げ謝罪するという事を決めた。

 どうして秀斗が謝らなければいけないのかと、五郎左衛門たちは片膝を立ち上がらせて驚く。この2人は決して秀蘭が当主に相応しいと思ってはいないのだ。

 しかし秀斗の頭の中の優先事項として、秀蘭と戦うよりも大敵になり得る大治仙道家を叩き潰すのが最優先。

 こんなところで兄弟喧嘩をして兄弟共倒れとなり、大治仙道家が一人勝ちするような状況だけは避けなければいけない。そうこれだけは絶対に避けなければいけないのだ。



「直ぐに兄上へ、使者を送って話をしたいと伝えよ」


「しょ 承知いたしました、直ぐにそのように」



 この時から10日後、名古屋市内の久国寺で葬儀以来の兄弟対面が実現した。

 互いに暗殺を警戒し、護衛をガッチリと付けた上での話し合いとなるのである。

 兄弟の対面だというのに、2人の間には緊張感が走る。

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