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大和一統〜農民の俺が侍に!?〜  作者: 灰谷 An
第2章・仙道愛知家の家督相続 編
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019:負けられぬ戦い

 坂間 幸太郎の本陣では、伝令による細かい報告が行なわれていたのである。

 これは戦いに自信が無い幸太郎の性格が出ていた。

 普通の人間でも細かく報告を受けるのは、別に珍しいわけでは無い。しかしこの幸太郎に関しては、普通の人間の約3倍の人間が行き来しているのだ。



「どうなっておるのだ! こちらは兄上から1200もの兵を預かっておるのだぞ!」


「さ されど……向こうも死力を尽くしておりまする。それゆえ容易く勝てる相手では無いかと………」


「聞いている話と違うぞ! 秀蘭は大和一の大馬鹿者で、取るに足らん存在であると言っておったでは無いか! それが蓋を開けてみたら、最前線は崩壊しておる!」



 幸太郎の兄である俊膳から1200人の兵を預けて貰って大敗するなど、幸太郎には許されない。

 油断があったのは間違いないが、想定外の強さだったのも事実なのだろう。側近から秀蘭は、大和一の大馬鹿者だから簡単に勝てると聞かされていたのだ。

 それが蓋を開けてみたら、最前線の戦線が崩壊してしまっている。このままでは本陣まで、向かって来るのは時間の問題になりかねないのである。

 すると噂をしていたら、という感じで「報告いたしまする!」と伝令兵がやって来た。



「柴山 家貴の軍勢が、中央ら辺に差し迫っております! このままでは、本陣(ここ)に到着するのも時間の問題にございまする!」


「なんだと!? て 撤退だ! 撤退するのだ!」


「幸太郎さま!? そ それは無理にございまする!」


「ど どうしてだ! 城は後ろにあるだろうが!」


「撤退し城に戻ったところで目の前の軍勢に加え、蟹江城と七宝城の軍勢に取り囲まれて終わりにございまする。援軍を頼みに日吉城に向かおうにも、そこまでの道中で討ち取られてしまいまする」



 後ろに引こうにも、引いたところで挟み撃ちにあって負けるのは必定。庄内川の対岸にある日吉城に援軍を出して欲しいと頼みに行くにも、その前に目の前の軍勢に捕まってしまって、これも負けるのは必定。

 こんな残酷な現実を並べられた幸太郎は、側近に「ならば、どうしたら良いのだ!」と声を荒げて問う。

 問いに側近の男は「手は1つしかありませぬ」と苦虫を噛み潰したような表情をしながら言う。

 その側近の言葉に希望を持ったような表情を浮かべながら「なんだ?」と聞くのである。



「それは……目の前の敵を討ち滅ぼすのです」


「それでは状況が変わっておらぬだろうが!」



 結局のところは目の前の秀蘭軍を倒さなければ、この死地を乗り越える事はできないという結論が出た。

 これでは全くもって話が堂々巡りしているだろうと、幸太郎は床几を蹴り飛ばして動揺しているのが、目に見えてしまうのである。


 一方で吉丸は、家貴の騎馬隊に参加する事になった。

 もちろん会うのは、この戦のこの場所が初めてだ。

 だが秀斗の家臣であり、仙道愛知家の中でも最も武勇に優れている武将だと事は噂で聞いている。

 秀斗の家臣だというので警戒していたが、肌で感じるところでは「戦いを好む」ような人間であると感じた。

 しかし少年のような感じもする。



「何より……馬鹿みたいに強い!?」



 いろんな事を感じたが、家貴に最も感じたのは単純な武力の強さというところだ。

 まさしく武将というのに相応しいモノだ。

 秀蘭の家来の1人として、自分が遅れをとるわけにはいかないと吉丸は気合いを入れ直す。さらに敵兵をバッタバッタと倒して行くのである。


 幸太郎方は、どうにか戦線を元に戻したい。

 しかし時すでに遅しというのは、この事を言うのでは無いかと思うほどに状況が悪すぎる。これが最初から舐める事なくたたかっていれば、きっと戦況は真逆になっていたのは誰の目にも明らかだろう。

 だが、そうはいかなかったのだ。

 吉丸の孤軍奮闘と、家貴の死力を尽くす突撃によって幸太郎方の戦線は崩壊した。崩れたところを補強しようとしても掛け違えたボタンを、途中から直せないように手がつけられない状況へと追い詰められていた。



「幸太郎さま、もう限界にございまする……討ち取られる前に、腹をお切り下され!」


「な!? お前は主人に、なんて事を言うのだ!」



 幸太郎は追い込まれていた。

 いや、追い込まれていたというレベルでは無いのかもしれない。もはやここからの逆転は不可能であり、ただ討ち取られるくらいだったら切腹する方が良いというところまで来てしまっているのである。

 家臣に腹を切れと言われた幸太郎は、主君である自分にそんな事を言うなんてありえないと怒り散らかす。

 しかし家臣は幸太郎の事を考えての発言である。



「ならば! その首は、ただ敵方に渡す事になりまする。幸太郎さまは、それでよろしいのですか!?」


「くっ! もうここまでだと言うのか……」



 切腹する事を拒否しようとしている幸太郎に対し、その首をただ秀蘭たちに渡すのかと大きな声で問う。

 それを聞かされた幸太郎は、クッと歯を剥き出しにして悔しがるのである。本当に打つては無く、腹を切るしか無いのかと、どうにか生きる道を見つけようとした。

 しかしどれだけ頭で考えたところで、もはや答えが出るような問題では無いのである。



「分かった、ここまでだ……首を刎ねられる前に、自ら腹を切って勇敢な死を遂げる!」


「さすがにございまする! 私が介錯いたしまするゆえ、どうぞ気兼ねなく!」


「あぁ頼んだぞ」



 どうにか生き残る方法はないかと、必死になって模索したものの切腹の他に道は無いと悟る。

 ここは勇敢な死を遂げて後世に名を残す事を決めた。

 そんなタイミングで伝令兵が「急報! 急報!」と叫んでやって来る。しかしその続きを喋ろうとした瞬間、伝令兵は「う うぅ…」と苦しみ始めた。

 幸太郎たちは驚いて、ハッとするのである。

 伝令兵の背中に家貴の槍が突き刺さっていた。



「お主が坂間 幸太郎とお見受けする! この柴山 健五郎 家貴が、その首、頂戴いたす!」


「ま まさか!? もうここまで来たと言うのか!?」



 家貴が幸太郎方の本陣にやって来るまで、約1時間45分と数秒。戦にしては早い方の部類であり、まさかこんな時間で突破されるとは夢にも思っていなかった。

 幸太郎の家臣たちは、幸太郎の前に立って「幸太郎さまをお守りしろ!」と刀を抜いて構える。

 もう既に何人もの命を取っている家貴には、この敵兵たちは有象無象にしか見えない。



「勇敢な者たちよ! その勇敢さに敬意を称し、この柴山 健五郎 家貴が真っ向からお相手いたそう!」



 主君の為に命をかけるというのが、家貴は大の好物であり、その敵兵たちに敬意を称して全力で戦う。

 満面の笑みで馬を走らせ、幸太郎たちに向かって走り出すのである。

 考えてみて欲しい。満面の笑みで兵が、こちらに向かって来るのだ。幸太郎たちの恐怖心というのは、どれほどのものろうか。

 逃げ出したいところを、グッと我慢して突撃して来るのをジッと待っている。

 しかしそれでも予想通り、弾き飛ばされてしまう。まさしくボーリングのピンが弾けて行くように。



「その首いただいたぁ!」



 幸太郎の生首はスパーンッと天高く舞い上がり、家貴によって刎ねられたのである。

 これにより大治の戦いが決着となる。

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