エピローグ2
「クレハさんとご家族が決めたのなら私は何も言いません」
ソウヤからしたら付き合わないでほしいと言いたいのだと察することはできた。
だがそれを口にしないところがソウヤの優しさだ。
ありがとうございます、も、ごめんなさい、も違う。
何を言っていいのかわからなかった。
ふっとソウヤが優しく微笑う。
「私に遠慮する必要はありませんよ。親戚ですからね、積み重ねた時間もあります」
申し訳なくなる。
ソウヤはクレハのためにそう言ってくれているのだ。
耳が垂れているのがわかる。
ソウヤにも気持ちはバレバレだろう。
「まあ、私は彼とは仲良くなれませんが、いいですよね?」
「あ、はい。もちろんです」
そこまで強制できるはずもない。
ソウヤからしたらガイルに全くいい印象は持っていないだろう。
それは仕方ない。
「申し訳なく思わなくていいですからね?」
一応告げておく。
ソウヤが微笑する。
「気を遣わせてしまいましたね。ありがとうございます。向こうも私のことは嫌いでしょうからお互い様です」
それは、そうなんだろう。
「お互いに相手に嫌われようと気にしませんからクレハさんも気にしないでください。顔を合わせた時に言い争いになったとしてもクレハさんはまたやっているって気にしないでいいですから」
「その時はソウヤさんの味方をします」
それはクレハの中で当然だった。
驚いたように目を見開いた後でソウヤは破顔する。
「ああ、それは、嬉しいですね」
親戚だからとガイルの味方をするとでも思ったのかもしれない。
「あの男の悔しそうな顔が目に浮かびます」
ガイルがそんな顔をするわけ、いやするかもしれない。
「だけど、その頃にはガイルも別の人を見つけているかもしれませんし」
「どうでしょうね。拗らせている人間はそう簡単に他に目を移しませんよ」
そういうものだろうか?
ソウヤは真面目な顔で続ける。
「機会があればクレハさんを狙ってくるに決まっています」
「え……」
まさかまた傷つけられるのだろうか?
顔色を悪くしたクレハにソウヤの耳の先が少し垂れる。
「怖がらせてしまいましたね。すいません。さすがにもう怪我をさせるようなことはしないと思いますよ。それが悪手だということには気づいたみたいですから」
そうであると願いたい。
ついでにガイルにも他にいい人を見つけてほしい。
彼にも幸せになってほしい。
それはクレハの本心だった。
「大丈夫です。クレハさんは渡しません」
「はい」
「今度こそ守ります」
「ありがとうございます。ですがきちんと守ってくれましたよ」
微笑を添えて告げた。
ソウヤがいてくれたからガイルとも向き合えたし、ソウヤが絶対に助けに来てくれると思ったから捕まっても冷静にいられたのだ。
本当にソウヤには助けられてばかりだ。
クレハは本当にそう思っていた。
ふっとソウヤの表情が消えた。
どうしたのだろう? とクレハは首を傾げる。
「一度だけ訊いてもいいですか?」
「はい。何でしょう?」
そんな改まって訊かれることって何だろう?
クレハは無意識に背筋を伸ばした。
「私といては、また、このような危ない目に遭うかもしれません。それがお嫌なら別れて……」
「別れません。あ、ソウヤさんが私といるのが嫌、と言うのなら、諦めますけど」
「そんなことはあり得ません。私は貴女のことが好きなのですから。それはもう狂おしいくらいに」
クレハの頬が真っ赤に染まる。
「私もソウヤさんが大好きです。今回は助けてもらったから信じられないかもしれませんが、私、これでも強いんですよ?」
「……クレハさんが強いことは知っていますよ」
「はい。だから大丈夫です」
「ですが、暴力なんて嫌いな可愛い女性だということもわかっています」
ソウヤの言う通りだ。
クレハは暴力は嫌いだった。
「確かに暴力は嫌いです」
「ならば、」
「ですが、ソウヤさん、そもそも暴力の世界に生きているわけではないですよね? 身の危険のある仕事をしているというだけで」
「それは、そうですが」
「それなら何の問題もありません。それに、私が自分の身を守れるほうがソウヤさんは安心なのではありませんか?」
「それは、そうですが……」
「やっぱり、別れたい、ですか?」
それなら仕方ない。
離れたほうがクレハが安全で、それをソウヤが望むなら。
クレハは無意識に息を詰めてソウヤの答えを待つ。
一度伏せた視線を上げてソウヤは真っ直ぐにクレハを見る。
「たぶん、これが最後のチャンスですよ。この先、もう離してあげられません」
「はい。離さないでください」
はっきりと告げる。
離さないでほしい。
じっと見つめる。
ふぅっとソウヤの身体から力が抜けた。
「はい。もう離しませんよ」
「はい!」
よかった。これからもソウヤといられる。
その気持ちから自然と笑顔になった。
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