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フィリアと魔法のお勉強タイム1

本日も例のごとく、馬車を止めての“夜営”である。


村の明かりが遠くに見える場所で、馬車は道端の茂みに入って停車。

フィリアは昼頃から体調がわるくなってからまだ寝てる。

セラさんは焚き火の世話をしている。


俺は馬の干し草をほどよくほぐしながらぽつりと聞いてみた。


「今日も村には寄らないんすね」


するとセラさんは、焚き火の炎をじっと見つめたまま、真面目な口調で答えた。


「はい。理由はふたつあります」


「まず――村に入れば、どうしても目立ちます。

特に今の構成は“子供2人と女性1人”……行商人にしては目立ちすぎます」


「……まあ、確かに」


「そしてもうひとつ。

もし、追手がこの辺りまで来ていた場合――

村にそんな“目立つ旅商人一行”がいたと知られれば、

即座に私たちだとバレるでしょう」


「……なるほど」


(見た目と人数、組み合わせだけで身元がバレる可能性があるってことか)


「だからこそ、“ここを通った”という痕跡自体、

極力残さないようにしているんです」


セラさんの顔は、いつものクールビューティーより少し険しい。

そこに見えるのは、冷静な判断と――強い“守る意志”。


(……さすが、フィリアの護衛だな)


「……ご苦労様っす。セラさんがいなかったら、マジで詰んでますね」


「ふふ、光栄です」


そう言って、セラさんはふっと微笑んだ。


(さて……今夜もまた、“静かな夜”を守る番だな)



夜の森。焚き火の灯りがやわらかく揺れる中、

俺は馬車のそばで――フィリアと並んで座っていた。


フィリアは目を覚まし、俺の隣で嬉しそうに微笑んでいる。

セラさんはすでに就寝中である。


フィリアは寝過ぎてもう寝れないそうだ。だからおしゃべりしてる。


「えへへ……ずっと、ルクスくんと魔法のお話がしたかったんです」


「そりゃ光栄っすね、お姫さま」


「お、お姫さまって……ちがっ……わたし、ただのフィリアですから……!」


(※王女です)


そんなやりとりから始まって、自然と話は魔法の話題へ。


「最近はどんな魔法の練習をしてるんですか?」


「んー……今は水魔法の練習してるとこかな」


俺は手を前に出して、集中。

イメージは“静かな泉”。そして、水がそこから湧き出すように――


「我は求む、水の精霊よ。この手に水を満たせ」


――ボシュッ。


手のひらに、ふわっと透明な水が現れた。小さな水玉。


「ほら、こんな感じで。だいぶ安定して出せるようになってきたよ」


「でもさー、風魔法は感覚的にすぐ扱えたんだけど、水はちょっと苦手で」


「あと、魔法の本って、戦闘系の魔法ぜんぜん載ってないじゃん?

だから今のとこ“飲み水出すマシーン”で止まってるんだよね」


フィリアは少しだけ考えるように首をかしげて――


「……なら、ルクスくんが“使いたい魔法”、わたしが教えてあげますよ?」


「わたし魔法が得意みたいなんです」


「マジで!? やったー!」


「じゃあじゃあ、まずは――水魔法で“攻撃できるやつ”がいい!」


「ふふっ、男の子は攻撃魔法がすきですよね」


フィリアは小さく笑ってから、手を前に出し――そっと詠唱を始めた。


「我は求む、水の精霊よ、この手に水を満たし、我が敵に叩きつけたまえ!」


彼女の手の中に、水の球が現れ、ふわりと浮かんだ。

それが軽く振られた手の動きに合わせて、一直線に――


バシュッ!


木の幹に命中し、水しぶきを上げてはじける。


「おおぉ! 今の、結構な威力あるじゃん!」


「“水撃弾”って呼ばれてます。

大きな水を早く打ち出すことで、相手に衝撃を与える魔法なんです」


「なるほどね……重いから、ダメージも出るって感じか」


よっしゃ、俺もやってみるか。


「我は求む、水の精霊よ、この手に水を満たし、我が敵に叩きつけたまえ!」


手に現れた水玉をぶん、と前に振る。


――ボチャッ。


「……あっ、半分くらい途中で崩れた」


フィリアがくすくす笑う。


「でも、初めてにしてはすごいですよ? ちゃんと形になってます」


「ふふん、俺ってば“やればできる子”だからね」


「ふふ……もっと練習したら、きっとルクスくんならすごい水魔法使いになれます」


水撃弾を何発か試したあと、俺はぐったりと地面に座り込んだ。

手のひらからじんじんと疲労感が残ってる。


「……この魔法は魔力結構持ってかれるな」


フィリアは、まるで先生みたいに説明してくれた。


「それはですね……魔法には、大きく分けて二つの形があります」


焚き火の灯りに照らされたその横顔は、どこか神秘的だった。


「ひとつは、“自然から恵みを借りる”魔法。

もうひとつは、“存在しないものを、世界に一時的に投影する”魔法です」


「投影って?……幻影とかじゃなくて?」


「いいえ、“本当に存在するようにする”んです」


もっと詳しく、と頼むと、フィリアは地面に枝で図を描きながら丁寧に続けた。


「少量の水を出すような魔法なら、周囲の水分を集めて形にすることができます。

これは“自然からの借用”の範囲内です」


「ふむふむ、なるほど?」


「でも――それ以上の量になると、現実の自然現象では再現できない。

だから、世界の“法則”に一時的にねじ込み、

“今ここにある”ことにする……それが“投影”です」


「……ってことは、世界に“無理やり納得させてる”ってことか」


「そうです。そのぶん、魔力の消費も非常に激しくなります」


たしかに……


さっき木に当てた水撃弾、バシャっと弾けて水は出たけど、

木の表面は“湿ってる程度”だった。


(もし本当にあの量の水が飛んできてたら、もっとベシャベシャになるはずだよな)


「じゃあ、川の近くで使ったらどうなるんだろ?」


そう尋ねると、フィリアはぱっと笑顔になった。


「それ、すごく良い質問です!

実際、川や湖の近くでは“自然から水を借りる”力が強くなります」


「つまり、魔力の消費がぐんと抑えられますし――

大規模な魔法も、ずっと簡単に使えるようになるんですよ」


(おお、環境ボーナス的なやつだ)


「水魔法使うときは、川のそばを探すと効率的なのか」


「じゃあ……ここに水樽がありますから、少し実験してみましょうか?」


そう言ってフィリアが馬車の横へと歩いていく。

そこには、旅用の飲み水が入った大きな樽が積んである。


「えっと、桶……桶は……あ、ありましたっ」


少し大きめの桶を両手で抱え、どっこいしょと樽のふたを開ける。


――そして、ざばっと水をすくって、こぼさないように持ってくる姿が……


(たどたどしい……なんか可愛い)


足元を慎重に見ながら、ちょっとだけふらつきつつも――


「よいしょっ……ふー……」


と、笑顔でこっちに向かってくるフィリア。

正直、水よりも癒しを運んできている。


「では、ルクスくん。

さきほど使った“水撃弾”の詠唱に、“この水”を指定して使ってみてください」


「了解っす」


俺は水桶の前に立ち、集中して詠唱を口にする。


「我は求む、水の精霊よ、この手に“この水”を満たし、我が敵に叩きつけたまえ!」


――ボシュッ!


桶の水がふわっと持ち上がり、空中で球体となって形成される。

見事にまとまって、今にも弾け飛びそうな水球が、俺の手の前に浮かんでいた。


「おぉ……間違いなく、さっきより“軽い”」


魔力の消費が、段違いに少ない。


「これが“自然からの借用”ってやつか……

水がすでに存在してれば、それだけ楽になるってことか」


フィリアは嬉しそうにうなずいた。


「はい。そうして“存在するもの”を指定できれば、

魔力消費も抑えられますし、安定性も上がるんです」


「なるほどなぁ……これ、いろんな応用できそうだな」


“その場の水”を使えば節約。

逆に“存在しないもの”を出すには、魔力とセンスが要る。


(つまり、魔法ってのは――戦略次第で化ける)


「よし、覚えた。……フィリア先生、ありがと」


「えへへ……先生だなんて、ちょっと照れます」


そう言って、フィリアは嬉しそうに頬を染めた。


(……こういう勉強なら、毎晩やりたいかもしれん)



水球の魔法練習がうまくいって、ちょっと自信がついたところで――

フィリアが、ふと思い出したように話し始めた。


「そういえば……すごい水の魔法使いの話、知ってますか?」


「どんな?」


「昔――“湖の水”を丸ごと操って、“津波”を作り出して……

敵の軍勢を丸ごと、流してしまった人たちがいたんです」


「……やばすぎるね、それ」


(魔法ってそこまでいけるのかよ……!)

 

思わず目を見開く俺に、フィリアは小さく頷いた。


「でも、それは……“水魔法の熟練者”が、数人で協力して放った“大魔法”です。

個人で使えるような魔法じゃありません」


「そりゃそうか……」


「魔力量、魔力操作の精密さ、そして何より――“想像力”。

全部が揃って、やっと発動できる魔法なんです」


「へぇ……」


「その魔法は、実際に歴史の教科書にも載ってます。

だから“神話”じゃなくて、ちゃんと“記録”された本当の話なんです」


「まじか……」


「そういう人たちは、“国家魔法師”として登録されて、

国の監視下で管理されるようになります」


「管理……って、なんか怖い響きだな」


「ふふ……でも、そうしないと危険ですから。

国を滅ぼせるような魔法を使える人が、どこにいるか分からなかったら――

それこそ、恐ろしいですよね?」

 

「……まあ、確かに」


フィリアの言葉には、静かな現実味があった。


「だから、本に“攻撃魔法”が載ってないのも……そのためなんです」


「なるほどな……」


(つまり、ヤバい魔法をぽんぽん覚えて使われちゃ困るってわけか)

(つまり“危険分子を生まないための配慮”ってことね)


「……ってことはさ、もし俺がめちゃくちゃ強い魔法使えるようになったら――」


「はい。あまり見せびらかさない方が、いいと思います」


フィリアが、ちょっとだけ心配そうな目をした。


「そういう人って、すぐに“目”をつけられちゃうから……」


(なるほど、目立てばいいってもんじゃないんだな)


「了解。“陰の最強”目指します」


「ふふっ……それ、ちょっとかっこいいですね」


魔法の世界は広くて、深くて、ちょっと怖い。

でも――その分、学ぶ価値もある。


そして、誰かを守るためなら、きっと“強さ”も意味を持つはずだ。

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