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日常が壊れる日

見事に教会の屋根の風見鶏を撃ち抜いたあと、

……そのあと、こっぴどく怒られた。


「誰も怪我をしなかったからいいようなものの……! まったく、あなたという子は!!」


司教様、マジで鬼だった。

普段は“優しさの精霊”みたいな笑顔してるのに、怒ると“雷撃の大精霊”にクラスチェンジする。


領主様も隣で一緒に正座してたのはちょっとウケた。

まぁやれと言ったのはヴェイル・エルトネス子爵なのでしょうがない。

撃ち抜いたのは俺なので申し訳ないけど……ちょっと面白い。


(ってか領主様、ここの住人扱いなんか?)


妙に村人たちとフレンドリーだし、知り合いも多いし。

この村、案外“身内感”強めの集落なのかもな。

……フランクだ。いや、フランクフルトではない。


(うん、今のは流そう。スベった。黙っとこ)


そんなこんなで、教会に来たので知り合いの様子を見に行ったんだが――


「フィリア? ……体調、崩してるって?」


聞いた瞬間、胸の奥がちょっとだけヒュッてなった。

あの子が寝込むなんて珍しい。


……というか、笑顔のかわいいあの子が寝込んでるだけで、なんか世界が曇る気がするのはなんでだろう。


セラさんも、こっちはこっちで疲れた顔をしてた。

あのクールビューティー代表みたいな顔でポーカーフェイス決めてても、俺くらいになるとわかるのだ。


(いや〜、俺の観察眼、冴えわたってんな)


そして、レティも風見鶏を俺が撃ち落としてからちょっとイライラしながら家に帰った。

俺も同じ気持ちだったからわかる。すまん。落ち込んでないか心配だ。


……ということで、久しぶりの“ひとり時間”だ。


領主様たちは転送の魔道具についてその後すぐに調査に行かれた。

村の中も、なんとなく静か。


――いや、静かすぎる気もする。


(……なんか、嵐の前ってこういう空気じゃなかったっけ)


ま、いっか。

今日はこのまま、のんびり過ごそう。

たまにはこんな日も悪くない。



次の日、教会学校の隅っこで俺は魔法の本を開いてた。

分厚くて埃っぽいけど、中身はちゃんと読める。


最近は「飲み水を作る」生活魔法の練習をしてて、こっそり庭で試してる。

最初はバシャッと顔に水ぶっかけたりしたけど、まぁそれも含めて実験だ。


(……にしても)


フィリア、やっぱり心配だよな。


元々病弱だったって聞いたことあるけど何かの病気なのだろうか。

でも回復魔法が使えるから……

でも病気には効かないのかなぁ、なんてことを考える。


(……会いたいなぁ)


ふと、視線を窓の外に向けると――


ん?


銀の鎧が光った。

教会裏の扉の前に、騎士団っぽい連中が立ってる。


(遠征に行ってるんじゃなかったのか? ……居残り組か?)


首をかしげてる間に、そのうちの数人が扉を開けて中へ入っていった。


(……なんだ? 忘れもんでもしたのか?)


ページを閉じて、長いため息をひとつ。


「はー……フィリアに会いてぇなー……」


思わず口から出た声が、空しく天井に吸い込まれていく。


弓は持ってきている。

だったら、いっそ山に入って鳥でも狩ってくるか。

動いてた方が気が紛れるし、水魔法の練習にもなるし。


そう思って扉を開け、外に出た――その瞬間。


「――待て、何をしている!」


教会の中から怒鳴り声が響いた。

同時に、扉の奥からバタバタと人が走る音。


(……騒がしい、なんだ?)


女性の悲鳴が聞こえた。

教会の中で何かが起きている。


(何かあったのか?……フィリア!?)


背中に冷たい汗が流れる。

鳥なんて狩ってる場合じゃないかもしれない……。


(……嫌な予感がする)



――金属のぶつかる音が、教会の奥から響いてくる。


ジャリィン! ギン! ギャリィン!!


剣戟けんげきの音……!?)


俺は駆ける。靴音を響かせながら、教会の石畳を踏みしめて。


扉は開いている。

そっと覗き込むと――


「セラさん……!」


セラさんがいた。

長い髪を振り乱し、黒衣をひるがえしながら、三人の剣士と激しく斬り結んでいる。

その動きは、まるで死神みたいだった。速くて鋭い、でも――一人で三人は、さすがに分が悪い。


(助けなきゃ……!)


俺は素早く顔を引っ込め死角へ移動する。

教会の外壁、敵の視界に入らない位置――ここなら見つからない。


息を整える。

胸の奥の音がうるさい。心臓が跳ねるみたいに暴れてる。


(落ち着け……)


弓を構えたまま、扉の死角でじっと息を潜める。


(……3)

足に力を込める。


(2)

肩の位置を調整し、矢を番える指に集中を込める。


(1)


スッ――と、入口正面に飛び出した。


敵がこちらに気づくより先に、俺は照準を定めていた。


視界に入ったのは、三人のうち、もっとも距離の離れた一人。

その男だけ、頭に兜を被っていない。


(……ヤレる!)


弓を――引き絞る。

張り詰めた空気ごと、矢に込めて――


放つ。


ピシュン!!


放った矢は、風を切って一直線に突き進む――


ガツッ!


敵のこめかみに突き刺さった。

そいつは前のめりに倒れる。


「……!」


残った二人がこちらを振り向く。

一人が忌々しそうに俺を睨んだ。


(……ヤバ)


敵はセラさんと俺に挟まれる形になっていた。

一人がこっちを標的にして走ってくる。


「チッ……!」


俺はすぐに後退。身体強化を発動し、一気に教会から飛び出す。

敵の視覚外に出る。

そして、弓を構えて相手が出てくるのを待つ。


(出てこい……)


――そして。


バッと音を立てて、剣士が出てきた瞬間――


ピシュッ!!


矢がうなりを上げて飛ぶ。


ドスッ!!


ギザトロンの弓が放った一矢は、胴体の鎧を貫通し、腹に突き刺さった。

敵は呻きながらその場に膝をつく。


即座にもう一矢を番える。

今度は――頭を狙う。


シュッ。

ヒュッ! ガンッ!!


――倒れた。

それで、二人目。


弓を構えたまま、慎重に教会内へ戻る。

すると――


「……終わったか」


セラさんが、最後の一人を斬り伏せるところだった。


「セラさんっ!」


俺は駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


セラさんは肩で息をしながら、でも柔らかく微笑んでくれた。


「ルクスくんのおかげで……助かりました」


ホッとする間もなく、俺の視界に入ったのは――

矢が刺さった頭。


俺が、撃ったやつ。


(……これ、俺が……殺したんだ)


胸がギュッとなる。

喉が詰まって、呼吸ができない。


死体の目が、俺を見ている。

動かないはずなのに、見てくる。


「……はっ、はっ……う、うっ……!」


肩が震える。視界がにじむ。


(やばい、息が、できない……!)

(過呼吸てやつだ、く、苦しい)


「ルクスくん!!」


セラさんの声が、耳元で響いた。

その腕が、俺を抱きしめてくる。

温かくて、いい匂いがする。視界を塞いでくれて、恐怖から少し遠ざけてくれた。


「落ち着いて……大丈夫……息をして、ゆっくり、ね?」


その声に、導かれるように、俺は――


スー……ハー……



何分経ったかわからない。

でも――


(……あ、呼吸、できる……)


俺は、ようやく落ち着きを取り戻していた。


(……これが、“命を奪う”ってことか)


彼女の柔らかな香りと鼓動が、俺の荒れた呼吸を少しずつ整えていく。

その胸元に顔をうずめると、不思議と胸のざわつきも、痛みも――全部、少しずつほどけていった。


(……ここだけ、世界の安全地帯だと思えた)

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