セラ式剣術ドリル3
いよいよ、ここまで来た。
レティとの組み手も、最近はようやく“ボコボコにされるだけの木人形”を卒業。
多少なりとも攻防が成立するようになってきた……気がする。
そして今、教わっているのは――
■【移動・間合い操作】
・詰める(Close-in):間合いを一気に詰める。
・下がる(Retreat):立て直しに使う後退。
・横にずれる(Side-step):直線攻撃をズラして回避。
・回り込む(Circle):死角、背後へ展開。
これが、風水流の“核”とも言える基本なんだそうだ。
「……これから、お手本を見せます」
セラさんがすっと構えた。
一瞬後――
ふっと、姿が揺れて。
……気づいたら、俺の懐に入り込んでた。
(は!? えっ、速っ!?)
最初の位置から、ほんの0.5秒くらいだろうか。
まばたきする暇もなかった。
そのまま、回り込み、ステップ、後退――
セラさんが静かに繰り出す一連の移動が、まるで“舞い”みたいに滑らかで。
(なんだよこれ……俺が知ってる“移動”じゃねぇ……)
「……これらをさらに発展させたものが、中級の“瞬閃構身法”です」
「しゅ、しゅんせんこうしんほう……?」
「《瞬閃構身法》――肉体のごく一部に魔力を一瞬だけ流し、爆発的な動作を引き出す技術です。風水流の中核といえるでしょう」
(うお、いきなり奥義名みたいな響き……!)
セラさんが再び構えを取る。
そして、静かに告げた。
「……始めます」
その瞬間。
「……ッ!」
まばたきした次の瞬間――
俺の目の前、視界いっぱいにセラさんの顔が飛び込んできた。
距離、約5センチ。
銀髪がかすかに揺れて、吐息が肌にかかる。
真正面から覗き込まれるような、深く、透き通る瞳。
(えっ、ちょ……近っっっっっ!!?)
「……っと。このようなことも、可能です」
いや、いやいや、いやいやいや。
さっき3メートルくらい離れてたよな!?
今の一歩、マジで見えなかったんだが!?
俺はその場に棒立ちのまま、心臓だけが全力疾走していた。
(ドクンドクンいってる……心臓がうるせぇ……)
そんな俺を見下ろしながら、セラさんがぽつりと。
「“初手の一歩”は、生死を分けることがあります」
妙に近い距離感で、妙にしっとりした声に聞こえる。
そう言って、すっと離れるセラさん。
《瞬閃構身法》――ただの技術じゃねぇ。
速さと緊張感と、あとドキドキも混ざってる。
息を呑んで見ていると――
セラさんがふと立ち止まり、こちらを振り返る。
恐ろしい技だ……ドキドキがとまらん。
◇
ということで、まずは――
セラさんと基本の“移動”練習からスタート。
「では、詰めてきてください」
「了解っす!」
一歩、二歩――踏み込みながら間合いを詰める。だが。
「……甘いです」
スッとセラさんの姿が横へズレる。
次の瞬間、俺の側面に剣が構えられていた。
「詰めるとき、視線が落ちました。軌道が読まれやすいです」
「くっ……!」
(この人、やっぱ人間じゃねぇ……!)
そのまま、「下がる」「回り込む」「横ずれ」など、基本動作を何度も反復。
「はい、いい感覚になってきました。では――」
セラさんの声がトーンを変える。
「ここからは、それを“使う”練習に入ります」
「“使う”? ……って、まさか――」
案の定、その“まさか”だった。
「攻撃、防御、そして逃走――移動を軸に、すべてを繋げる練習です」
「うわ、出た実戦形式……!」
セラさんが構えた。
俺も、急いで体勢を整える。
「始めます」
――カッ!
一歩踏み込めば、セラさんが“逸れる”。
斬り込めば、刃を“捌かれる”。
受けた瞬間、俺の背後へ“回り込まれる”。
(ああもう、なんで後ろにいんの!?)
「“移動”とは、ただ足を動かすことではありません。生きるための“布石”です」
攻めながら避けて、避けながら崩して、崩しながら逃げる――
セラさんの動きは、まるで風そのものだ。
俺も負けじと食らいつく。
(やれる、俺もやれる……! 前より確実に反応できてる!)
「――今の、よかったですね」
初めて、セラさんの口からそんな言葉が出た。
(……マジで!?)
その一言だけで、疲労がちょっと吹き飛ぶ。
けど。
「では次は、“移動を連続して使用する想定”で」
「……え、えっと、休憩は……?」
「ありません」
「デスヨネー!!!」
◇
そして――いよいよ仕上げの段階。
最後は、実戦形式での組み手。相手はもちろん、レティ。
「さあ、やろうか家臣くん。前回の借り、返せるかな?」
「ふふっ、今日の俺はひと味違うぜ?」
(この数週間……俺は戦士として生まれ変わったんだ……!)
レティが構える。
俺も深く腰を落とす。
「始め!」
――カン!
号令と同時に、レティの一撃が振り下ろされる。
真上から叩き割るような、剛力の一太刀。
(来る――!)
その刃を、俺は――
スッ、と横に身をずらした。
足を滑らせ、肩のラインを外す。
空気がヒュッと鳴って、木刀が俺の脇をかすめる。
(よし、外せた……!)
そのまま、ステップで半身の位置をキープ。
レティの横腹を狙うように、すかさず間合いを詰めて――
――フェイント、軽く逸らし。バランスを崩させる。
その隙に、構えを崩さず踏み込む!
(今だ……ッ!)
レティが体勢を立て直す前に、俺の木刀が前へ突き出される。
重心を肘で誘導し、最短軌道で突き込む――
“捌き”から“突き”への連携。
ピタリ。
木刀の先端が、レティの喉元に静かに触れた。
無駄のない線。狙い通りの深さ。完璧な一撃。
静寂のなか、セラさんの声が落ちる。
「――一本」
その瞬間――
「……え?」
レティが、ぽかんと目を見開いた。
自分の喉に触れた木刀を見て、それが“ルクスのもの”だと気づいたとき――
「……う、そ……!?」
レティの目がまんまるになる。
(……取った、取ったぞ!!)
「やった! やったーっ!! 俺、初めて“取った”ぞ!」
喜ぶ俺に、レティがふっと笑う。
「おめでとう、ルクス。ほんとに……成長したわね」
「へへっ、いやぁ~、まぁ? 努力のたまものというか?」
――レティの目が怪しく光。
「……じゃあ、もう一回やりましょうか♪」
(え? 今の笑顔……なんか、ちょっと怖くない?)
もう一度構え直すレティ。
そして始まる第二戦――
次の瞬間、ゴガッ!と音を立てて、俺の木刀がへし折られた。
「ぎゃっ!?」
吹っ飛ぶ木刀の先端。呆然と目が合う俺とレティ。
「……あはは、折っちゃった♪」
と笑ったその顔のまま――
ニコッ。
ゴン。
笑顔で頭に振り下ろされる、木刀。
「☆~*#……!!」
俺の頭の上に、星が舞う。
その様子を見て、セラさんはゆっくりと額を押さえた。
「……捌きができていません。初歩に戻りましょうか」
(あっ、これまた筋肉痛コースだ)
やれやれ――って顔のセラさんの声が、やけにリアルに響くのであった。
星が頭の上をくるくる回る中――
俺は、崩れ落ちながら床に倒れ込んだ。
(……脳が、震えてる……)
でも、そのときだった。
――《スキル獲得:風水流剣術・初級》
……アナウンスが、頭の中に響いた。
(……よっしゃーーー!)
倒れたまま、顔だけで笑う俺。
(ふふふ……ついに、俺も“流派持ち”だぜ……)
風水流・初級編、これにて終了。
……いや、“再履修”が始まるかもしれんけど。
【ステータス】
名前:ルクス
年齢:9歳
種族:人間(村人)
職業:狩人
出身:ユレリ村
金銭:13700円
現在の欲望:
・魔法を覚える
スキル:
・弓術 Lv2
・解体術
・矢製作
・身体強化
・精密射撃 Lv2
・隠密
・薬草学
・薬草調合
・風水流剣術:初級 New!
装備:
・ギザロドンの弓




