冬の贈りもの2(フィリア)
歴史の授業が終わったあと、ふと気づいた。
(あれ、そういやフィリア、今日授業出てなかったな)
具合でも悪いのかと、少しだけ胸がざわつく。
教会の中を探して歩き回って――
いた。
フィリアは、大きなステンドグラスの前に膝をついていた。
両手を静かに組んで、そっと祈りを捧げている。
(……やっぱ、きれいだな)
その姿は、まるで光そのものだった。
「……フィリア」
呼びかけると、フィリアはふわっと振り向いた。
やさしい、柔らかな笑顔。
「ルクスくん。……こんにちは」
「ここにいたんだな。……何してたの?」
フィリアは、静かに目を伏せて――
「……お父様のことを、思っていました」
「どうか、健やかに過ごせていますようにって……」
(……ほんと、この子は優しいな)
「……フィリアは、ほんとにいい子だな。
きっと、神様もちゃんと見てるよ」
そう言うと、フィリアは小さく笑って――
「……そうだと、いいんですけど」
少しだけ首を傾げて、はにかむその横顔を見ながら、
俺はポケットの中に手を入れた。
(よし……ここで渡すしかない)
「……なあ、フィリア」
「……はい?」
「その……優しい子には、ちゃんとお礼したくて」
俺は、手のひらに包んでいた小さな髪留めをそっと差し出した。
「いつもありがとう。
……俺、フィリアの笑顔見ると、元気出るんだ」
フィリアは目を丸くして、それからゆっくりと――
その髪留めを両手で受け取った。
「……えっ……これ、わたしに?」
「うん。絶対似合うと思って」
フィリアは、手のひらの中で揺れる髪留めを見つめ――
「……つけてみても、いいですか?」
と、おそるおそる顔を上げた。
「もちろん」
言うと、フィリアは小さな鏡を取り出して、そっとこめかみのあたりに髪留めを添えた。
淡い花の形をした髪飾りが、陽の光にきらりと輝く。
つけた瞬間――
「……どう、ですか?」
はにかむように微笑むフィリア。
(……めっちゃ、似合ってる)
「最高。もう、花そのものって感じ」
そう言うと、フィリアの頬がぽっと染まった。
「……ふふっ、ありがとうございます。
ルクスくんが選んでくれたものだから……すごく、うれしいです」
その笑顔は、まるで春に咲く一輪の花みたいだった。
それから、少しだけ目をそらしながら――俺は、つぶやくように言った。
「……可愛くてさ。いつも目で追っちゃう」
その一言に、フィリアの頬がほんのり染まる。
けれど、逃げるようなそぶりは見せずに――
「……わたしも、です」
「ルクスくんのこと、気づくと……見ちゃってて」
フィリアは、恥ずかしそうに笑った。
「がんばってる姿が、なんていうか……
空に輝く、一等星みたいで……つい、目で追っちゃうんです」
「……!」
心臓が跳ねるような言葉に、俺も思わず顔が熱くなる。
二人して、顔を赤くしたまま黙り込んでしまった。
でも、その沈黙は――
どこまでも、やさしくて。
ほんの少し、距離が近づいた気がした。
そんな俺の心を見透かすように、フィリアがぽつりとつぶやいた。
「……わたし、魔法の勉強が得意なので……
今度、いっしょに勉強しませんか?」
「え?」
「ルクスくんも、新しい魔法を試したりしてるって言ってたから……
色々お話ししたいなーって、思ってて」
(……いや、待って、それデートのお誘いってことじゃない?)
即答だった。
「もちろん! ぜひぜひ! ぜひともよろしくお願いします!!」
フィリアが嬉しそうに、にこっ。
(ああ、その笑顔……破壊力エグい)
(お花の妖精? 笑顔の精霊? いや、もうなんでもいい)
(俺のハートは――完全に撃ち抜かれた)
(……次元大介もびっくりだよ、マジで)
そんな妄想をしていたところで――
――カン、カン、カン……
教会の鐘が鳴った。授業再開の合図。
「あ……また授業、ですね」
フィリアは名残惜しそうに言いながら、そっと立ち上がる。
「またあとで……がんばってくださいね、ルクスくん」
「う、うんそっちも……」
フィリアはくるりと振り返り、軽く手を振ってくれた。
淡いピンクの髪留めが、ふわりと揺れた。




