冬の贈りもの1(レティシア)
ガロン師匠が旅立って、もう二ヶ月以上が経った。
……まだ、帰ってこない。
(いやまあ、生きてるとは思うけどさ……)
でも、心配だ。
だって、今は真冬。雪もどっさり積もってる。吹雪の日なんか、外に出たら鼻が取れそうになるレベルだ。
まぁ師匠なら大丈夫だろ。
あとさー
(……たまには狩り行きたい……)
最近はずっと教会と訓練場と食堂の往復で、まともに山にも入ってない。
干し肉と塩漬け肉ばっかりの食生活に、心も胃袋も限界が近い。
(生肉が、食いてぇ……じゅわって焼いたやつ、あれが……)
そんなことを思いながら、俺は天井をぼーっと見上げていた。
ちなみに、今日は教会の鐘がもうすぐ鳴る時間。
あの音を聞くと、なぜか背筋が凍るのは――
全部、セラさんのせいである。
彼女は、スパルタだ。
前世で俺が働いてた某ブラック企業に比べればまだ人間らしいけど、それでも――
一回も、休みの日がないんだ。
思い切って「ちょっと休みとか……」とお願いしたら、こう返ってきた。
「冬が明けても、教えられるかわかりませんよ? 教会から移動になる可能性もありますから」
(え、それ……もう何も言えなくなるやつじゃん……)
絶望しながらも、毎日頑張ってる俺。褒めて。いやほんとに。
でも、今日は――なんか、外が騒がしい。
窓の外をのぞくと、村の広場に人だかり。
雪を蹴って走る犬ぞり。そして、乗ってるのは……!
「行商人だーーーっ!!!」
よっしゃあああ! 久々の文明の匂い!!
俺は師匠からもらったへそくりを握りしめ、すぐさま広場へ向かった。
売ってるものは多種多様。
調味料、布、アクセサリー、小物、干し果物、毛糸の靴下まで。おじさんから子どもまで、みんな目を輝かせてる。
(砂糖……高っ!)
一瞬手を伸ばしかけたけど、財布と相談して即断念。
たしかに買える。でもそれ、何かの終わりを意味する額。
その代わりに、目に入ったのが――可愛い感じのブレスレット、髪留め、ネックレス。
(……これ、プレゼントに良くない?)
俺、女の子にちゃんとしたプレゼントってあげたことないんだよな。
お礼とか感謝とか、あと、こう……ほら。モテたいし。
というわけで、俺は決めた。
フィリアには、繊細な小花の髪留め。
レティには、クールな色味のネックレス。
セラさんには、銀でできた細めのブレスレット。
三人それぞれ、似合いそうなやつを選んで――お値段、合計三万円。
俺の財産がバッサリと減る音が聞こえた。いや、実際財布の中、スカスカになった。
(でもこういうの、たぶん一生のうちに何回もないイベントだし……)
隣でおじさんが「うちの嫁にひとつ」って言ってるのを聞いて、なんかちょっと大人になった気がした。
「お兄ちゃん、金持ちだねぇ」
と、店主の親父さんに言われてしまった。
「いや、まあ……一応、現金あるだけマシって感じっすよね」
この村じゃ、基本は物々交換。
こうやってちゃんと“貨幣”で買い物できるだけで、ちょっと珍しいらしい。
ついでに、俺は持ってた干し肉をいくつか売った。
けっこういい値段になった。干し肉、侮れない。
あと、師匠に頼まれてた“塩”もちゃんと購入。これは前渡しでもらってたお金だから、別枠扱い。
最終的に――俺の所持金、13700円。うん、ギリギリ生きてる。
(でも、楽しかった。これ、絶対喜んでくれる……よな?)
冬の空は寒いけど、心はちょっとぽかぽかしてた。
――問題は、このあと訓練があるかどうか、である。
頼む、今日は“プレゼント効果”で免除されててくれ……!
◇
教会に入ると――中はすっかり「行商人トーク」の嵐だった。
「ねえねえ、みたー可愛いネックレス売ってたよー」
「ねー可愛かった、でも私は干し果物が食べたい」
「お砂糖も売ってたんだよ!」
子どもたちは目を輝かせながら、あれこれ話している。
冬の魔法みたいな空気に包まれて、教会の中はほんのりあったかかった。
(いいな……こういうの)
みんな、「家に帰ったら何かあるかな」って期待に満ちた顔をしている。
(わかる。俺だって、そんな風に誰かを喜ばせてみたい)
そんなタイミングで、扉がバタンと開いて――
「おーい、ルクスー!」
元気な声が響く。振り返れば――レティが来た。
手を振りながら小走りにこっちへ向かってくる。
雪の中を駆けてきたんだろう、肩にちょっとだけ白い粉雪が残っていた。
(……こいつには、ほんと一番世話になってるよな)
ここでの暮らしを支えてくれてるのは、間違いなくレティだ。
強いし、頼れるし、なんだかんだで隣にいてくれる。
(……もう、幼馴染って言っていいんじゃね?)
なんか、いい響きだよな“幼馴染”。
しかも――
(美人系で、かわいいらしい)
そのまま渡されたら照れるかもだけど、今日はちゃんと“プレゼント”として渡すんだ。
そう思ったら、ちょっとドキドキしてきた。
(……喜んでくれるかな)
俺の胸の中には、ちょっとだけ――サンタっぽい気持ちが芽生えていた。
◇
レティが近づいてきたのを見て、俺は……ちょっとだけ、足がすくんだ。
なんか、こういうの、緊張するな。プレゼントとか。
「……なぁ、レティ」
「ん? なーに?」
「今日さ、行商人……来たじゃん」
「あ、うんうん! 見たよ! すごかったよね~。
聞いたら、今日はこの村に泊まって、明日の朝には出発するって。
だからさ、明日いっしょに見に行こうよ!」
その言葉に、ビクッとなった。
(……しまった! そうか、一緒に見て回るって選択肢もあったのか!)
そういうイベント、王道すぎて抜けてた!
(くっそ……なにしてんだ俺……)
「え、どうかした?」
「い、いや! なーんでもない!」
(今は集中だ……!)
覚悟を決めて、ポケットの中から、小さな包みを取り出す。
「……その、これ。お前に、渡したいやつ」
「え?」
レティの目がぱちくりする。
「その……いつも世話になってるし、感謝とか……なんか、そういう……意味で、だな」
しどろもどろになりながらも、差し出す。
レティはしばらく見つめて――
「……えっ、ほんとに? わたしに?」
「う、うん。似合うと思って……選んだ」
その瞬間、レティの頬がふわっと赤く染まった。
「わ……嬉しい……ありがとう、ルクス!」
包みを開けて、中から取り出されたネックレスが、手のひらの上できらりと揺れた。
「ねえ、つけていい? 今!」
「お、おう、もちろん」
レティはその場で髪をかき上げて、ネックレスを胸元にかける。
ぱちんと留め具を止めて、くるっと回って――
「どう? 似合ってる?」
眩しいくらいの笑顔。
(ああ、もう……その笑顔の破壊力、反則だろ……)
「……うん。すげぇ、似合ってる」
それを聞いたレティは、また少し頬を染めて――
ふいに、つま先立ちで近づいてきた。
そして、ちゅっ。
軽く、俺の頬にキスを落とす。
「なっ……!?」
顔が一気に真っ赤になる。
「な、なに……!?」
レティはちょっとだけプイッと顔を逸らしながら――
「……家臣に褒美を与えるのも、主の務めだからね」
なんて、ちょっぴり意地悪な笑顔で、そう言った。
(……こ、これは、ビクトリーなのでは!)
心臓がバクバク鳴ってる。
(……あげてよかった)
【ステータス】
名前:ルクス
年齢:9歳
種族:人間(村人)
職業:狩人
出身:ユレリ村
金銭:13700円
現在の欲望:
・魔法を覚える
スキル:
・弓術 Lv2
・解体術
・矢製作
・身体強化
・精密射撃 Lv2
・隠密
・薬草学
・薬草調合
装備:
・ギザロドンの弓
魔法:
★風魔法
・風除け:「我は求む、風の精霊よ――(我が身、矢、彼の者)を、風から守れ」
・空気圧縮砲「我は求む、風の精霊よ――この地の空気を圧縮せよ。そして、“解放の時”を待て」




