死にかけ後のボーナスタイム
――ポカポカ。
太陽の光が、やけにあたたかかった。
頬に射す陽光が、じんわり肌をくすぐる。
外はまだ冬のはずなのに、なんだこの心地よさ。布団もぬくぬくで、今なら余裕で世界を救える気がする。
(……はー、しあわせ)
こういう日は――そう、2度寝に限る。訓練?仕事? あとにしてくれ。俺は今、“ぬくぬくの精霊”と契約中なんだ。
「おやすみー……すやすや……」
――ガチャリ。
ドアが開く音で、ほんの少しだけ意識が戻る。
まぶたを薄く開けると、そこにいたのは――フィリアだった。
(……フィリア? え、なんで)
ぼんやりしながら上体を起こすと、フィリアがぴたりと動きを止めた。
そのまま、ゆっくり、ゆっくり顔が歪んでいって――
「……よ、よかったぁ……ほんとに……っ」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、フィリアが俺に抱きついてきた。
細い肩が震えてる。あったかくて、ちょっと甘い匂いがした。
(……うへへへ……ここって……お触りOKなキャバクラでしたっけ?)
「んん~、フィリア~……泣かせてごめんね~……あ、でもこういうの、嫌いじゃないよ?」
つい調子に乗って、鼻の下がぐいっと伸びてしまった、そのときだった。
――バタンッ!
今度は、勢いよく開かれる扉。
「……っ!?」
セラが立っていた。フィリアにしがみつかれてる俺を見て、目を見開く。
そして、一瞬で顔がキリッと引き締まる。
「フィリア様……っ、はしたない真似はおやめください!」
ピシャリとした声が部屋に響く。
「いくらご心配とはいえ、異性としての節度を――っ」
「ひゃっ……!」
フィリアがびくっと震え、慌ててルクスから身を引いた。
頬は真っ赤で、耳までほんのり染まっている。
目を逸らしながら、もじもじと指先をいじって、まるで怒られた小動物のようだった。
(……か、かわいい)
「俺のあったかフィリア充電が……もうちょいで全快だったのに……」
「……ば、ばかですか……ほんとに……」
セラは呆れたようにため息をつく。
セラはそのままフィリアに軽く一礼して、俺のベッドの傍に来た。
「……フィリア様が、夜通し、回復魔法をかけてくださいました」
「……え?」
「……あなたが命を取り留めたのは、奇跡ではありません。努力と献身の結果です」
その声は、怒ってるというより――諭すような、静かな強さがあった。
「一生のご恩として、しっかり感謝なさい。最低でも、十年はフィリア様に頭が上がらないつもりで」
「……そんなにか……」
と、ぼやきつつも――その言葉で、ふと我に返った。
(……あ、そういや俺……死にかけてたんだった)
まるで夢でも見てたみたいに、体が軽くて、痛みもほとんどない。
ゆっくりと布団の上から、腹に手を当てる。
(あいつに、爪で斬られたの……たしかこのへんだったよな)
傷は、ない。肌は――つるりと綺麗だった。
(……うそだろ、あの傷が……)
ゆっくり視線を横にやる。
そこに、涙でまつ毛を濡らしたフィリアがいた。
さっきまで甘えてくる子どもみたいだったのに――その瞳には、確かに“誰かを助けた人の強さ”があった。
「……ありがとう、フィリア」
今度はちゃんと、言葉にした。
フィリアは、驚いたようにぱちくりと瞬きをして――それから、ふわっと微笑んだ。
「……ふふっ、どういたしまして」
その声は、まるで春の風みたいにあたたかくて、やさしかった。
(……回復魔法、使えたんだな。しかも、こんなにちゃんと)
思ってたよりずっとすごい。
いや、もしかして俺が知らなかっただけで――
(さすが、フィリア……だな)
それが、なんか嬉しかった。
(……なにこの朝。最高か?)
……ま、セラの怒気がなければ、完璧だったけどな




