表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/59

いやマジで死ぬかと思ったけど?

俺が目を覚ましたって噂は、すぐに村中に広まったらしい。

その日の昼過ぎ、教会の部屋に――あの二人がやってきた。


「ルクス……っ!」


 最初に飛び込んできたのは、レティだった。

 目は真っ赤に腫れて、まぶたがぽってりしてる。明らかに泣きはらした顔だった。


「ほんとに……ほんとに、生きてて……よかった……!」


 俺の手をぎゅっと握って、ぐしぐし涙を拭きながら、顔をくしゃっと歪めて笑ってる。

 その泣き笑いが、なんだかもう反則だった。


(……なんか、こっちが泣きそうなんだけど)


 あのとき、もし俺がほんとに死んでたら――絶対後悔させるとこだったな。


 少し遅れて、ドアの向こうからひょっこり現れたのは――


「おう、思ってたより元気そうじゃねぇか」


 ガロンおじさん。いつも通りの軽い調子で言いながら、部屋に入ってきた。

 でも、その足取りには、ほんの少しだけ、安堵がにじんでた。


「フィリアのおかげで元気になりました。天国に観光に行きそこねましたよ」


 軽口を返すと、ガロンはふっと笑い、そして急に真面目な顔になった。

 そのまま俺のベッドのそばに腰を下ろすと、低い声で言った。


「……お前が、立派に洞窟の入口を守ってくれたおかげで助かったよ」

「あの時――外で何があったか聞かせてくれ」


 俺はこくりと頷いて、あの日の出来事を順番に話していった。



 俺は、少しだけ目を閉じて、頭の中を整理する。


(……あれはマジで、地獄だったな)


「んー……まず最初すごくヒマだったんだよ」


「……は?」


「いや、だってさ。レティと師匠が洞窟ん中に入ってくじゃん?

 俺は外で待機って言われてさ。最初の五分くらいは“戦いの前の静けさ”とか思ってたけど……あとはずっと、“ヒマ”だった」


「……」


「でもね、やっと来たんだよ。ホワイトゴブリンが2体、雪を蹴って戻ってきた。

 そんで、軽くひねってやった。鼻歌まじりで」


「調子のってたら――なんか、光った」


「光った?」


「そう、地面の石がね。五つ並んでて、順番にピカピカと。

 “おっ、オシャレなイルミネーションか?”って思った次の瞬間、ゴブリンがね……」


「……出たのか」


「出た。ホブゴブリン、しかも――12体」


「っ……!」


「目、合っちゃってさ。

 “あ、やべぇ”って顔してたら、あっちも“あ、いた”って感じでさ」


「で、当然襲ってきたから、矢をとりあえずブッ放して。2体くらい倒せたかな?

 だけど……数が多すぎて」


「距離取らなきゃヤバいって思って、身体強化で一気に後ろ下がった。

 そしたら、めちゃくちゃ追ってくる」


「で、よく見るとさ、あの群れの中に……妙に腹がでかい、ゴブリンのメスが一体混じってたんだよ」


「なんか……他のやつらが、そいつの前に立つように動いててさ。

 妙だなって思って、ちょっと観察したんだ」


「で、ピンと来た。あれ、多分――“次のマザー候補”だ」


「つまり、あのメスを守りきれれば、群れとして再建できる。だから、あいつらは本能的に庇ってた」


「でさ、そのメスが……こっちじゃなくて、洞窟の方向に動き出したの」


「そのとき、ゾッとしたよ。洞窟には師匠たちがいる。

 そっちに誘導されたら、俺は外、師匠たちは中で、挟み撃ち――終わりじゃん」


「だからもう、迷ってる場合じゃなかった。

 あいつを逃がすわけにはいかねぇって判断して、矢を集中させた」


「庇われながらも、距離を詰めて、狙って狙って……最後の一本でようやく倒した」


「そしたら、キレた。ゴブリンどもが全員、捨て身で突っ込んできて――」


「矢はもうなし。弓も捨てて、地面に転がってた棍棒拾って応戦」


「……近接、互角だった。普通に絶望した」


「で、他のやつらも走ってきて、囲まれそうになったから――使った」


「オリジナル魔法。名付けて、“空気圧砲エアバースト”。風魔法の応用版ね。

 ドカンとぶっ放して、何体か吹っ飛ばした」


「でも……あの時点で、もう魔力が限界だった」


「そこからは、身体強化だけでゴリ押し。が、当然ボコられた。

 棍棒で頭ぶたれ、腹引っかかれ、もう死ぬってなったけど……なぜか立ってた。気合と根性で」


「で、そっから先は……気づいたら布団の上でした。ちゃんちゃん」


 話し終えたあと、室内はしばし沈黙。

 ガロンが腕を組み、ぽつりと呟いた。


「……よく頑張ったな」


「お褒めの言葉、ありがとうございます」


「いやマジで……よう生きてたな、お前……」


 その声には、呆れと、ちょっとだけ――尊敬が混じってた。



 すべてを語り終えたあと――ガロンはしばらく黙っていたが、ぽつりと口を開いた。


「……お前が言ってた石あれは間違いなく魔物を転送する魔道具だ」


(やっぱりな。ああいうのは“転移魔術”って相場が決まってる)


 五つの石が順番に光って、魔物が出てくる――

 前世だったら、あれは確実に「壊せ」って合図だ。


 でも、ふと考える。


(ああいうのってさ、だいたい“魔王の幹部”とかがやるもんだろ)

(でも、それならさ――わざわざゴブリンを送るっての、なんかショボくないか?)

(もっとヤバいやつ……火吹く獣とか、でっかい虫とか、なんなら幹部本人が乗り込んでくるパターンもあるだろ)

(……まあ、ほんとに出てきてたら、俺もう死んでたけどな)

(にしては、妙に中途半端なんだよな……)

(……ていうか、そもそもこの世界に“魔王”とかいるのか? 誰か聞いたことある? 俺はない)


 考えてもよくわからんが、とりあえず――今回はギリギリ助かった。それだけは事実だ。


 そして、ガロンはふっと息を吐いて、真っ直ぐに俺を見た。


「……ルクス、お前はこの地方を守った英雄だよ」


「……え?」


「最近、魔物がちょいちょい湧くって話はあったが……理由がわからなかった」


「けど、お前が見つけたあの転送陣――あれが原因だったと考えて間違いねぇ。

 あれがまだ動いてたら……この村も、隣の集落も、もっと被害が出てた」


「誰も気づけなかった中で、お前が気づけたおかげで止められたんだ。あの状況で、よくやったよ」


 その言葉が、まっすぐ胸に突き刺さった。


(……俺が、英雄?)


 一瞬、胸がぐわっと熱くなる。

 実感は、まだあんまりない。でも――言われて、嬉しかった。


「へへっ……そんな大げさな……って思いたいけど、うん、正直ちょっと嬉しいかも」


 顔がニヤけてくるのを、どう頑張っても止められない。


 その俺の顔を見て、レティがくすっと笑った。


(……うん、悪くない。いや、めっちゃ嬉しい)


 静かで、あったかくて――どこかくすぐったいような時間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ