篝火の夜、眠りの前に
火が沈んで、街には篝火の明かりが灯り始めた。
ドレイザ・ハウンドは夜に現れる――だから、灯りを絶やさないようにって、村人たちが交代で火を見張ってる。
(火があれば、少しは安心ってことか……)
でも、実際は誰も安心なんてしてない。
この空気の張り詰め方――ひしひしと伝わってくる。教会に避難してる人たちの、震える声やため息。
(いつ来るかわからないってのが、一番キツいな……)
俺は今、レティと一緒に教会のすぐそばにある納屋で待機中だ。
武装してるとはいえ、休憩時間。いざって時に動けないと意味がないから、レティが言ってくれた。
「今は寝ておきなさい。休めるときに、しっかり休むの」
……なのに、本人は眠る気ゼロって顔して、隅のほうで剣の手入れをしている。
「なぁ、そう言うけど……お前も眠れないんだろ?」
「……まぁ、そうね」
ポツリと返ってきた声は、いつもの調子よりちょっとだけ柔らかかった。
「今日、現れないかもしれないし……でも、わからないもの」
その言葉が、妙に現実味を帯びてて。なんとなく聞いてみた。
「……なんで、お前、戦いに出るって言ったんだ?」
「弱きものを救うのが、騎士の勤めだからよ」
「……え、騎士になりたいのか?」
「違う。私は――騎士よ」
「……そ、そうっすか」
(……すなおに騎士になりたいって言えばいいのに)
でも、ふと頭をよぎった疑問をそのまま口にしてみた。
「でもさぁ、この前の猪狩りんとき……ビビってたじゃん?」
――ゴンッ!!
「いったぁっ!」
唐突に頭にゲンコツが飛んできて、俺は床に手をつく。
「人間相手は慣れてても、動物相手は初めてだったのよ」
レティがそっぽを向いて、ちょっとだけ頬を膨らませて言った。
「しかも、あのときは剣もなかったし……」
「……そっかぁ」
納得したように言って、あくびがひとつ。
あのとき、レティが震えてたのも――ちゃんと理由があったんだな。
だけど、そりゃそうだ。年上で、剣も使えて、口も達者で。
でも中身は……俺とそんなに変わらないのかもしれない。
たぶん、怖かったんだ。あのときも、今も。
それでも、剣を持って前に出ようとしてる。
(……レティはかっこいいよ)
気づけば、あれだけ張ってた神経が少し緩んで――まぶたが重くなる。
レティの声が、どこか遠くに響く。
「ルクス?」
「ん……ちょっとだけ……寝る……」
藁の上に横たわって、俺は静かに目を閉じた。
外では、パチパチと篝火の音。
――嵐の前の、静かな夜だった。




