金髪の嵐
師匠がいなくなって、もう十日目。
この十日間、俺は――
「ふーっ……やっぱ、この感じだな」
朝から晩まで、ひたすら弓を引き続けてる。
森の奥で木の幹に矢を打ち込んでは、拾って、また打ち込む。
(いやぁ、俺……なかなかやるじゃん)
自画自賛しながら、弓を構えてもう一射。
ヒュン、と空気を裂いて、スパンと木に突き刺さる。
「っしゃあ! キマった!」
最近は“曲射”の練習もしてる。弓を高く構えて、山なりに矢を飛ばす技。
(師匠に一回だけ見せてもらったやつ。実際に使うのは、戦争とか魔獣相手のときだけらしいけどな)
狩りじゃ使わない。無駄撃ちになるって、師匠は言ってた。
それでも、俺はやってみたいんだよ。
(いろんな技を覚えたい。いつかこの村を出るために)
師匠は昔、戦争に行ったらしいけど、あんまり話したがらない。
(思い出したくねーんだろうな)
俺は、将来――この村を出て、広い世界を見てみたい。
いろんな街を歩いて、知らない景色をこの目で見て。
で、最後に帰ってくればいい。そう思ってる。
(まあ、どっかで嫁さんでも見つけて、この村で人生終えるのもアリっちゃアリだけど)
それでもやっぱ、今はその“欲望”を抑えたくない。
「だから……今日もやるぞっ!」
弓を構えて気合を入れた、ちょうどその時――
――ガサガサッ
(……ん?)
音がした。俺はすぐさま振り向く。
そこにいたのは――
「……誰?」
金髪の、長い髪を揺らす女の子。
涼しげで整った顔立ち。姿勢もしゃんとしてて、妙に大人びた雰囲気。
(……な、なにこの子。めっちゃ美人)
視線が合った瞬間、ドクンと胸が鳴った。
(か、かわいい……っ!)
自分でもびっくりするくらい、ドギマギしてしまった。
「えーっと……こんにちは?」
俺が声をかけると、金髪の女の子はぴくりとまばたきして、少しだけ口元をゆるめた。
「……こんにちは」
お、ちゃんと返してくれた。
そのまま、俺は名乗る。
「俺、ルクス。君は――」
「……え?」
俺が声をかけると、彼女はちょっとだけ目を細めて返事をした。
「……あんたが、ルクス?」
「うん、そうだけど……って、え?」
彼女の顔が、あからさまにイヤそうに歪む。
「いつ来るのよ! うちのおばあちゃん、ずっと待ってんだけど! “手伝いに来る”って聞いたのに、ぜーんぜん来ないじゃん!」
「え、あ……ああっ!!」
(やっべ、薬師の手伝い……! 完全に忘れてた!!!)
「ご、ごめん、忘れてた!」
その瞬間――
――ズパァン!!
「ぶはっ!?」
目の前で女の子が消えたと思ったら、次の瞬間、顔面にドカッと衝撃。
地面に叩きつけられて、空がグルグル回る。
頬がジンジンする。思わず手で押さえると、そこにははっきりとした衝撃の余韻が残っていた。
(……これ、素手? いや、グーだろ。グーで殴られたよな、俺?)
痛みよりも先に来たのは、ただの驚きだった。
でも、数秒遅れて――じわじわと、怒りがこみ上げてくる。
「いてぇ……なにすんだよ!」
頬を押さえながら見上げると、
金髪の女の子が、腰に手を当てて睨んでいた。
「このバカッ!!」
そう叫んで、ズカズカと森の中を戻っていく。
(な、なんだったんだ……)
風に揺れる金髪を、ぼーっと見送りながら、俺は地面に座り込んでいた。
(ていうか、見えなかったぞ……今の動き)
痛みが引かない頬をさすりながら、俺は一つ確信した。
(あの子、普通じゃない。もしかして、すっげー速い……?)
その瞬間――
薬師の“孫娘”が、どんなヤツか分かった気がした。
ま、明日謝りに行くしかないな。
「いたー」
と頬をさするのであった。
■ レティシア
年齢: 10歳(ルクスより2歳年上)
髪色: 金髪(長く、陽光のように輝く)
居住: ルレイ村・薬師の祖母に預けられている




