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ただ、放てばいい

朝靄の中、俺はまた山へ向かった。


(今日こそ……仕留めてやる)


狙うは、あのカライドバード。何度も逃げられた相手だ。


俺は弓を背負い、足元の草を踏みしめながら森の奥へ進んでいく。


見つけた。

枝の上で、まどろむように羽を休める鳥。


ゆっくりと矢をつがえ――


ヒュッ!


スカッ。


また外れた。


ちくしょうもう一回だ。


……そしてまた、外れた。


矢は木や岩に突き刺さるだけ。鳥は気配を察して飛び去ってしまう。


(くそ……なにがダメなんだ?)


ただ当てるだけじゃない。気配、集中、呼吸……いろいろ試してる。でも、なにかが足りない。


わからねぇ。わからなすぎて、力が抜けて――


ズルッ、と足が崩れて、地面に座り込んだ。


(……やっぱ、全然だめじゃん)


そのとき、ふと前世の記憶がよぎる。

修行モノの漫画で、主人公が“瞑想”して集中力を高めるシーンがあった。


(……アレ、やってみるか)


効果があればラッキー。なけりゃ寝るだけだ。


とにかく希望があればすぐ試す。それが今世の俺が大事にする生き方だ。


俺は膝を組んで、目を閉じて、深く深呼吸をした。


……暇だ。

考えるなって言われても、逆に考えてしまう。


(何がダメなんだ……どうすれば……あーだこーだ……)


頭の中は思考の嵐。でも、しばらくすると――


疲れてきた。


次第に思考が減っていき、なんとなく、ぼーっとしてきて……そのまま、意識が――


――スゥ……


...


...


...


「ハッ……!」


目が覚めた。


陽は少し高くなっている。


(やっべ……クマとか来てたら死んでたわ)


でも、そのとき思った。


(……寝てた時って、なーんにも考えてなかったよな)


矢を放つとき、あの感じでいけばいいんじゃないか?

つまり、“考えない”で、ただ“ちょうどいい”と思った瞬間に放つ。


寝起きで、変に力も入らない今なら――ちょうどいい。


俺は、木の幹に向かって矢をつがえた。

狙わない。計算しない。

ただ、手が「いまだ」って感じた瞬間――


スッ!


矢が飛び、的にスパンと突き刺さる。


(……今の、よかった)


もう一回。

また一回。


繰り返す。

考えずに、“ちょうどいい”で手を放すだけ。


――それが、妙にしっくりきた。


「……よし、なんか……行けそうな気がする!」


気配を整えて、森の奥へ進む。


だいぶ探したがなかなか見つからない。

そう思っていた時――いた。カライドバード。


深呼吸して、心を穏やかにする。


矢をつがえる。弓を引く。


「ふぅー」

心を落ち着ける。

ただ、“ちょうどいい”そう心が思えるまで。


そして――“ちょうどいい”がきた瞬間、指を離す。


スッ――ズシュッ!!


「……!」


矢は、まるで吸い込まれるように鳥の胴に突き刺さった。


バサバサバサッ――!

木から落ちる羽ばたきの音。そして、小さく、鳥の悲鳴。


ついに、やった。


「……よっしゃああああああああああ!!!」


その瞬間、視界の隅に光が浮かぶ。


《スキル獲得:隠密》

《弓術 Lv2 に上昇》


(やった……やったぞ俺……!)


森の中、ひとりガッツポーズを決める。


やっと、あの鳥を仕留められた。


また自分がカッコよくなれた気がする!

(俺は、まだまだ強くなれる……!)



「さて……捌きますか」


仕留めたばかりのカライドバードを前に、俺は手を鳴らす。


(見た目以上に美味いらしいし、師匠も『貴重だから丁寧に扱え』って言ってたな)


この鳥、なかなか仕留めるのが難しいらしい。反応が早くて警戒心も強く、しかも――


(山の高いとこにしか巣を作らねぇんだってさ。だから捕まえるのは超めんどくさい)


そのぶん価値は高い。特に、この銀青の羽根は縁起物。細工師や工芸屋が高く買ってくれるらしい。


俺は、その美しい翼を傷つけないように、一本一本、丁寧に抜いていく。


(……フィリアに一本あげたら、喜ぶかな)


全部取り終えたら、いつもの通りに血抜き。皮を剥いで、食える部分を切り出す。


(内臓は……わかんねぇし、今回は肉だけでいっか)


リードバ葉でくるんで、しっかり結ぶ。

これで準備完了。


「よし、いっちょ上がり!」



教会の前に立ち、扉をコンコンと軽く叩いた。


「こんにちはー。ルクスですー」


すぐに開いた扉の向こうには、やっぱりフィリアがいた。

俺の顔を見るなり、パァッと笑う。


「また来てくれたんですね!」


「うん。これ……この前言ってた鳥、カライドバード。羽、一本だけだけど、あげようと思って」


そう言って、綺麗にそろえた銀青の羽根を差し出す。


「わぁ……これがカライドバードの羽なんですね? 本当に、すごく綺麗……!」


フィリアは目をきらきらさせて、両手で大事そうに羽を受け取った。


「これ、大事にします!ありがとうございます、ルクスさんっ」


「本当はみんな分あげられたらよかったんだけど」


「じゅうぶんです。こんな立派な羽、はじめて見ました!」


そのとき、不意に――

フィリアが俺の手を、そっと包み込むように握ってきた。


(うおっ……)


ちょっとびっくりしつつも、心の中はふわっとあたたかい。


(えへへ....と鼻の下が緩む)


だけど、その空気をぶち壊すように――

奥から、ストッストッと足音が近づいてくる。


「……フィリア様、はしたないですよ」


現れたのは、きりっとした美人のシスター。目つきが鋭くて、言葉も冷たい。


(……あれ? あんな人、いたっけ?)


彼女はフィリアの手をやんわり、でもしっかりと引きはがした。

俺の方を見るその目は、なんというか――あからさまに睨んでる。


「あなたも、用が済んだのなら帰りなさいな」


「……あ、はい」


こっちが何も悪いことしてないのに、その言い方にはちょっとムカッときた。


でも、フィリアが申し訳なさそうに「ごめんなさい、ルクスさん……」と小さな声で言ってきて、グッとこらえる。


「うん、じゃあまたね」


そう言って、俺は教会を後にした。


(……なんだろうな、あの人。見たことなかったけど……)


ツリ目で、スタイルも良くて、目立つ美人――だけど、感じは最悪。


(あんまり関わりたくねータイプかも)


でも、なんとなく。

あの視線、ただの“規律”だけじゃない気がした。


(……ま、考えすぎか)


そう自分に言い聞かせながら、俺は教会の坂道を下っていった。

【ステータス】

名前:ルクス

年齢:8歳

種族:人間(村人)

職業:狩人

出身:ユレリ村

現在の欲望:薬師の金になる薬草の取り方を教えてもらう

スキル:

・弓術 Lv2 New!

・解体術

・矢製作

・身体強化

・精密射撃

・隠密 New!



■ フィリア

年齢:7歳/所属:ルレイ村 教会・見習いシスター


ルレイ村の教会で手伝いをしている、物腰やわらかな女の子。

「フィリアちゃん」と呼ばれ、村の人たちに親しまれている。


年のわりに言葉遣いや仕草に品があり、どこか育ちの良さを感じさせる不思議な存在。

おっとりしているが芯は強く、困っている人には自然と手を差し伸べるタイプ。


ルクスが持ってきた獲物や羽根の贈り物にも素直に感謝を伝える、素朴で優しい一面も。

けれど、彼女に対して“様”付けで接するシスターがいたりと、少しだけ謎めいた雰囲気もある。


気づけば目で追ってしまう――そんな、ちょっと気になる女の子。

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