表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/59

狩りの修行と教会へのお裾分け

「……んじゃ、行ってくるわ」


そう言い残して、師匠――ガロンおじさんは、でっかい荷物を担いで村を出ていった。


(街に売りに行くんだってさ。魔石や毛皮、いろんな素材をまとめて)


行商人に売ると安く買い叩かれるから、直で街に売りに行くらしい。おまけに昔馴染みにも会うってことで、戻ってくるのは……一ヶ月か二ヶ月後。


「冬までには帰るさ」


そう笑ってたけど、師匠がいないあいだは完全に俺ひとり。


(いやぁ~、自由っていえば自由だけど……ちょっと寂しいかも)


でも、その代わり。狩りの許可はもらった。トレーニングのメニューも教えてもらった。


ただし――


「やりすぎんなよ。鳥系だけにしとけ。獣は数が減ると冬に困る」


だってさ。自然との付き合いってやつも、大事らしい。


で、もうひとつ頼まれごと。


「薬師のばあさん、腰を悪くしてな。いま孫が手伝ってんだと」


師匠いわく、どうせ山に入るなら薬草採りも手伝ってやれ、とのこと。


(め、めんどくせぇぇ……!)


って思った瞬間、


「薬草はな、金になるぞ。獲物がいない時の小遣い稼ぎにもちょうどいい」


そのひと言で俺の目がキラーンと光る。


(まじで!?)


さらに師匠が続ける。


「痺れ薬にしたり、香にして獲物を誘き寄せたり、矢に塗って使ったり――応用が効くんだ」


(……使えるじゃん!)


そして、極めつけにこう言った。


「それにな。孫娘はお前と年が近い。友達にでもなってやれ」


(……なにそれ、ちょっと気になる)


てなわけで――


次のミッションは、「狩り」と「薬草採取」、それと「孫娘」ってわけだ。


(さて、どうなることやら)


「さて、許可も出たし……一人で狩りに行ってみますか!」



そう言いながら、俺は弓を背負って山に足を踏み入れた。


登山道なんか使わない。身体強化で脚に魔力を込めて――


ヒュッ!


岩を蹴り、崖をスイスイと登っていく。


(へっへーん。崖登りも今やお手のもんだ)


昔はヒィヒィ言ってた崖道も、今じゃ近道扱い。師匠のスパルタ訓練の成果ってやつだな。


山を越え、静かな森へ。


(……さて、獲物はどこだ)


静かに、足音を殺して歩く。


すると――いた。少し大きめの鳥。尾が長く、羽根は青みがかった銀色。たぶん、師匠が言ってた“カライドバード”だ。


(よし、あれにしよう)


弓を構える前に、まずは“気配を消す”のが先だ。


師匠の教えを思い出す。


「動物は賢い。音だけじゃなく、匂い、気配、思考……全部感じとる」「森に溶けるようにしろ。そうすりゃ、気づかれねぇ」


気配を消すとは、ただ音を出さないってだけじゃない。呼吸を整え、体の筋肉をゆるめ、心の波も静かにすること。


弓を構え、矢を引く。


――とにかく、頭であれこれ考えるとダメらしい。「打てるか?外すかも?」って思った瞬間、もうアウトなんだと。


オカルトみたいな話だけど……実際そうなんだよな。


俺が矢を離そうと思った瞬間――


バサッ!


(くっ……!)


逃げた。さっきのカライドバード、まさに矢を放とうとした直前に。


構えてる間はじっとしてたのに……。“打つ”って意思を持った瞬間、逃げられた。


(なんでだよ……見えてたのか? それとも……感じ取ったのか?)


師匠の言葉が脳裏に響く。


「“狩り”ってのはな、力でも技術は前提だが。実際は“気配”の勝負なんだよ、ルクス」


(……気配、か)


森に溶ける。ただ静かに、ただ無になる。


頭の中を空っぽにして、風の一部になるように。


――そんなことが、俺にできるのか?


(でも、やってみるしかない。できるようになったら……あの鳥も、仕留められる)


狙うは、森の警戒心MAXな鳥。俺のソロ狩り修行が始まった。



「はー……見つけられなかった」


森を出た俺は、肩を落としてぼやいた。今日の成果は――野うさぎ、一匹。


(カライドバードは見つけたけど……結局、逃げられた)


そんでもって、問題はもう一つ。


(……師匠の言いつけ、破っちまった)


鳥系以外は獲るなって言われてたのに――見つけた瞬間、反射的に矢を放ってた。


(……でもよ、仕方ねぇだろ。獲物がいたら手が動いちまうんだよ)


捕ったからには責任は取る。丁寧に血抜きして、毛をはいで、肉と皮を分けた。


あったかいうちに塩を振って、薪火でジュウッと炙る。


じゅわっと肉汁が滲んで、焦げ目がついた頃――かぶりついた。


「んまっ……!」


捌きたてのうさぎは、弾力があって柔らかくて……腹ペコの体に染み渡る。


(やっぱ獲物ってのは、獲りたてに限るな)


残りの肉はどうしようか。


肉を見つめながら、ふと思う。


(……教会に持ってってみるか)


うち、貧乏で大したお布施もしてないし。いつも教会の人たちにはお世話になってるし――


(まあ、お布施の代わりってことで。お裾分けだな)


肉は抗菌作用のある“リードバ葉”ってやつで包んだ。水気を吸ってくれるし、しばらくは傷まない優れものだ。


(とりあえず、まずは師匠んとこに置いてくか)


うさぎの皮はよく乾かして保存。肉の一部を包んで師匠の家に向かう。


とりあえず、置いておくだけ置いておこう。


「さて……教会行く前に、着替えてくか」


山で汗かいたし、土まみれの格好じゃ行けない。着替えを済ませて、うさぎの肉をリードバ葉で二重に包み――


俺は、教会へと足を向けた。



この村――名を「ルレイ村」と言う。


前世的な感覚でいえば、特に大きいわけでもない。ただの小さな山村だ。


……なんだけど。


(それにしては、教会だけはやけに立派なんだよな)


石造りの高い建物。屋根の先端には“十字架”……じゃなくて、“三角”が掲げられている。この世界では、三角は**「調和」**を意味する神聖な形らしい。


教会ってのは、ただ祈るだけの場所じゃない。医療を受けたり、読み書きを習ったり、いろんな学びの場でもある。


つまり、村の中でもけっこう重要なポジションってわけだ。


(……だから、お布施ってのも、けっこうガチなやつなんだよな)


でも――うちは貧乏だから、あんまり払えてない。母さんも何度か頭を下げてたのを見たことがある。


(でも、ちゃんと面倒は見てくれてる。最低限だけど、薬ももらえるし)


たぶん、教会の“慈悲”ってやつなんだろう。


俺の家はお布施をまともに払えてないから、教会での授業には参加できていない。


まあ、前世の記憶があるおかげで、計算くらいは問題ない。けど――


(読み書きができないってのは、やっぱ致命的だよな)


文字が読めないと、地図も読めないし、本も読めない。薬草の知識も限定されるし、契約書なんか見たこともない。


(いつかちゃんとお布施して、教会で勉強できるようになりたいな)


特に困るのが地理と歴史。近隣の村や街の名前すら、あやふやなままだ。


(今はいいけど……そのうち、村の外で本格的に動くとき、確実に困るやつだ)


この村じゃ、農家の子どもってのはだいたいそんなもんだ。


長男は家を継ぐために教会で勉強させてもらえることが多いけど、次男三男になると、畑仕事に駆り出されてそのままってのが普通。


俺もその“普通”のひとりだ。


でも――だからって、諦めたくはない。


(俺は、“欲望のまま”に生きるって決めたんだ)


学びたいって思ったなら、学ぶ。知りたいと思ったなら、知る努力をする。


そういうふうに、この世界では生きていくんだ。


そう思いながら、教会の木の扉をコンコンと叩いた。


「こんにちはー」


扉が開いて、出てきたのは――


「……あ」


気になってたあの子。見習いシスターのフィリアだった。


「どうしたの?」


優しく首をかしげる姿に、ちょっとだけ胸がドキッとする。


俺は少し緊張しながら、リードバ葉で包んだ肉を差し出した。


「あの……野うさぎが獲れたので。ちょっとだけど、お裾分けにと思って……」


フィリアは目を丸くしたあと、ぱっと笑った。


「うれしい……! 教会のごはんって、いつも質素で……お肉なんて、ほんとに特別なんです」


その笑顔があんまり柔らかくて、俺もなんか嬉しくなった。


――と、そのとき。


中から、どっしりした足音と共に、年配の女性が現れた。


「おや、ルクスくんじゃないの」


教会の司教様……というより、“司教のおばちゃん”って感じの人だ。


俺は軽く頭を下げて、事情を説明した。


「えっと、お布施みたいなものです。少しだけですけど……みんなで食べてください」


司教様は一瞬、悲しそうな目をして――それから、ゆっくり首を横に振った。


「……無理しなくていいのよ」


でも、俺は首を横に振り返す。


「大丈夫です。師匠から、一人で山に入る許可ももらいました。ちゃんと獲ったんです」


すると司教様は、少し驚いたように目を開いて、それからふっと笑った。


「そう……ルクスくん、すごいのね」


肉を受け取ると、にっこりと微笑んだ。


「ありがとう。では、ありがたくいただきますね」


「うん。みんなで美味しく食べてください」


短いやりとりだったけど、心が少しだけ軽くなった気がした。


教会を出ようとしたとき――


「またね!」


フィリアが、手を振って見送ってくれた。


その姿を振り返りながら、俺はそっと笑った。


「うん。また来るよ!」


そう声をかけて、俺は家路についた。

【ステータス】

名前:ルクス

年齢:8歳

種族:人間(村人)

職業:狩人 New!


■ガロンおじさん(本名:ガロン・バスク)

村一番の狩人。元・王都の衛兵。

ぶっきらぼうだが面倒見がよく、ルクスに狩りや身体強化を叩き込んだスパルタ師匠。

豪快な性格で、肉と酒と焚き火が好き。

現在は魔石や毛皮を売るために街へ出ており、冬前に戻る予定。

出身:ユレリ村

現在の欲望:カライドバードを狩れるようになる

スキル:弓術 、解体術、矢製作、身体強化、精密射撃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ