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キーアイテム検証

瑞穂と事件を検証する。

 俺は事務所に戻りバッグからあの写真を取り出した。

それは資料作りにとどうしても必要だと言って、水村さんからさっき借りてきた物だ。



『これが何故玄関に落ちていたのかやっと解りました。私は見せしめのために上司がワザと残していったのだと思っておりました。探偵さんと甥子さんの優しさだったのですね』

水村さんは泣いていた。

俺は水村さんを救うべく、もう一度事件に向き合うことにした。





 『ロートエキス、ハシリドコロの入った目薬。今はない』

それは水村麗子さんのお腹にいた胎児の父親とされた上村さんから受け取った情報だ。

どうやらそれも、事件の謎を解くキーアイテムになるようだ。

俺はまだ和也さんの真犯人説には納得していないのだ。

勿論、水村さんでないことは祈っていたけど……





 「交番勤務の警察官を射殺した犯人は和也さんだと言われて納得してしまったけど、何か可笑しいと感じているんだ」

後日瑞穂がやって来たので、結論から話出した。



「でも、それが何だか解らないんでしょう?」

瑞穂は痛い所をつつく。



「そうなんだ。だから瑞穂の言ったキーアイテムをもう一度検証してみようと思うんだ」

俺はそう言いながら、探偵ノートと一緒にあの写真も取り出した。



「キーアイテムはこの写真と……」



「他に何がある?」



「キーアイテムか? ゲームならサイト検索すれば解るのに……」



「瑞穂! これはゲームなんかじゃないんだ」

俺は遂に怒りの言葉を浴びせていた。



「解っているよ。自分から聞いておいて何だよ」



「あっ、ごめん」



「謝って済めば警察はいらないよ」



「悪かった」

瑞穂の言葉にカチンときながらも冷静さを装う。

俺は探偵ノートに調べたことを箇条書きにした。



「ん!? 和也さんの荷物に拳銃を入れたのは速水さんだって!? 何だよこれ、知っていたのに隠していたの?」



「あれっ!? まだ言ってなかった?」



「叔父さん、ボケるのはまだ早いよ」



「何なんだ。そのボケるのって。俺はまだ……」

そう言いながら考えた。

瑞穂にしてみりゃ、俺は年だ。妻に先立たれ、やもめ暮らし。

痴呆症を心配も当たり前なのかも知れない。

だから俺には相棒が必要なんだ。

だから俺は瑞穂に言うんだ。



『サッカーなんか辞めて仕事を手伝ってくれ』

って――





 「実は和也さんの弁護士に会った帰りに上村さんのマンションへと向かったんだ。ブザーを押したら、速水さんが出てきた。でも、速水さんは俺のことを知らないはずなので初対面のような振りをした」



「確か俺が撮った写真で見ただけだったじゃなかった?」



「だから『イワキ探偵事務所の者です。上村さんは御在宅でしょうか?』って訊ねたら俺の名刺を見ながら首を振った。でもその時、後ろから足音が聞こえた」



「それが上村さん?」



「ところが、その後側には水村さんもいたんだ」



「容疑者が三人揃って……そりゃ驚いたでしょ?」



「でも犯人は予想外の人だった。俺も瑞穂も疑ってはいた人だ。でも……本当にその人があの警察官を殺していただなんて、思ってもいなかった」

俺はあの三人が完全犯罪を企てたのだと思っていた。でもその立証は不完全のままに終わったのだ。それは俺達が本当に望んでいたことだった。



「和也さんってこと? それだったら予想外じゃないよ」



「そりゃそうだけど」



「何だよ。叔父さんらしくないな」



「その後で、速水さんが荷物に拳銃を入れたかってことが解ったんだ」



「ああ、それがさっきのメモ?」



「まさかだった。よ」



「俺もさっき嘘だろ? って思った」



「いや。本人が言ってたから本当だ。速水さんは『実は、あの拳銃は私が荷物に入れたのです。勿論中身は知らずに……』って話してくれた」



「『中身は知らずに』か。知っていたら入れなかったってことだよね、きっと」



「そうだね」



「でも、本当は知っていたりして……」



「まさか」



「もし速水さんが知っていたとしたなら、警察官を殺したのは……」



「えっ、速水さんか!?」

俺は頭を抱えた。又振り出しに戻った気がしたからだ。




 「よし、もう一度検証しよう」



「こうなりゃ、トコトンやってみるか? 叔父さんさっきのノート見せて」

瑞穂の催促で、俺は改めてその中に証拠が隠されていると思っていた。

探偵にとってそれは単なるメモではなく、判断する上での大切な資料となるのだ。



「俺はこれに箇条書きしてみるよ」

瑞穂は鞄から出した自分のノートに書き出した。



「まずは水村さんが和也さんに送られて来た日だ」



「確かロートエキスのような得体の知れない何かを酒に入れられて泥酔していた」



「そして同じように泥酔した上村さんと……」



「でも水村さんは和也さんだと思っていた。それだけ強い薬だったのかな?」



「『誰が上村さんのマンションまで私を運んだのか解らなかった。でも、思い付いたのです。あの日のお酒と同じ味だったと』って水村さんは言っていた。以前誰かに聞いたけど睡眠薬を酒に混ぜたら意識が飛ぶそうだ」



「そうだよ。きっと和也さんはそれを使ったんだ」



「だったら、上村さんのマンションでも同じ物を使ったのか? 効き目が解っていたから警察官に襲わせた?」



「流産か……、俺今でもあの感覚があるんだ。だから、水村さんが可哀想なんだ」



「霊感があるって辛いことだなんだね。水村さんも気にしていたよ。『私が流産したことを言い当てたあの甥子さんもきっと私を犯人にしたくなくて……』って言ってた」



「『私を犯人にしたくなくて』って、まるで自分が犯人だって言ってみたいだ」

瑞穂の一言が沈黙を与える結果になった。




 「拳銃は本当に速水さんが入れたんだよね?」



「だと思うよ」



「もし中身を知ったていたとしたら、和也さんき罪を着せるためかな?」



「速水さんは上村さんが好きで、和也さんが上村さんを陥れたのを知っていとしたら? 」



「確か速水さんの父親に写真が送られて来たから破局させらたんだったよね?」



「ってことは和也さんを恨んでいたか? そんな汚い手を使う人と結婚させられたんだからな」



「その上、恋人だった水村さんと別れてるために上村さんを利用したのだからな」



「そんな人に人生を任せるなんてお先真っ暗だな」



「だから、もしかしたら速水さんが犯人じゃないのか? って考えたんだ」



「でも、何のために? 警察官を殺して和也さんに罪を着せたいのは水村さんの方が動機は強い」



「それを言うなら上村さんもありだな」



「動機としては一番か? 婚約者の速水さんと別れさせるために仕組まれた肉体関係だったのだから……」





 「瑞穂、これはやっぱり冤罪だ。和也さんは警察官殺しの犯人じゃない」



「そうだな。それしか考えてられない。確かにいけ好かない人だけど」



「ところで拳銃は誰が警察官から奪ったの? 高校生が見つけたスタンガンには和也さんの指紋が付いていたって知っているけどね」



「スタンガンは和也さんが買ったそうだ。弁護士が口を滑らせた」

俺も滑らせたのかも知れないけど、瑞穂は俺の大切なバディなのだから知る権利はあると思っていた。





 「誰が警察官から拳銃を奪ったのか?」


「でも、その拳銃にも和也さんの指紋の一部が付着していたそうだよ」


「だったら犯人は和也さんに決まりだろ? 叔父さん何を考えているの?」



「もしも、結婚式の前に和也さんの元に速水さんが訪ねていたら?」



「速水さんが和也の指紋を付けてから、拭きとった? 違った。拭き取ってから和也さんの指紋を付けたのかな? でもそんなこと本当に出来るの?」



「だって速水さんは拳銃を和也さんの中に入れたと認めているんだよ」

俺の一言で瑞穂は黙ってしまった。



結局、結論は出かなかった。

だけど、和也さんは人殺しなのだ。

まだ人となってはいなかった、水村さんの胎児を殺したのは間違いないのだから……



不完全な完全犯罪。

和也さん、水村さん、上村さん、速水さん。

この4人の中の誰かが警察官殺しの犯人には違いないのだ。



和也さんではないとしたら、一体誰なのだ。

もしかしたら残りの3人が仕組んだことなのかも知れない。

もし結論にたどり着いたとしても、俺は既に警察官ではない。

一探偵に過ぎないのだ。

それでも全て踏まえた上での、調査報告書だけは渡さなければいけないと思っている。



あの写真を見る限り、和也さんの用意周到さが解る。

上司の娘の婚約者を陥れて、自分がその立場になった。

和也さんにしたらしてやったりだ。

だから気が緩んだのかも知れない。

だからあの警察官に目をつけられたのだ。



俺は水村さんを警察官に献上した和也さんが許せない。

でもだからといって、犯人だと決めつけてはいけないのだ。






結局、堂々巡りになってしまった。

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