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ラジオとの遭遇

ラジオを目撃した場所へ足繁く通った結果……

 クリスマスイヴの日、妻のワンピースを着た瑞穂がラジオが近くにいることを教えてくれた。

その日は事件を解決させた瑞穂へのお礼も兼ねた女子会だった。

話せば長くなるが、瑞穂の霊感は覚醒されていたのだ。



瑞穂は恋人であるみずほちゃんを、クラスメートに殺されていたのだ。

その犯人の一人は双子の妹のような存在だった千穂ちゃんだった。



千穂ちゃんは瑞穂に恋をしていたんだ。

でも瑞穂はみずほちゃんに夢中だった。

振り向いてほしくて町田百合子の立てた殺人計画に加担してしまったのだった。

それは邪悪な占いゲームの一種キューピッド様だった。



キューピッド様。

聞こえは良いが、ようするに狐狗狸さんだ。

狐に天狗に狸。

軽い気持ちで始めたのだろうが、本当は危険な遊びだったのだ。





 集団心理ゲームのようだったと瑞穂は言った。

瑞穂にはその場面が見えていたのだ。

みずほちゃんに心を込めて贈ったコンパクトが見せてくれたのだ。



《岩城みずほが自殺する》

町田百合子が恋焦がれる、瑞穂の小学生からのライバルをレギュラーにしようと流した噂。それはあっという間広まった。

瑞穂がサッカーの交流戦で隣町のグランドへ出発した後、クラスの中に情報が錯綜する。

そうなんだ。

瑞穂が居なくなる頃をみはかってそれは仕掛けられたのだ。



成績優秀なみずほちゃんが居なくなる。

自分から死んでくれる。

クラスメートが、特にライバル達が浮き足立つ。

そして……

みずほちゃんは追い詰められた。

遺体にあった掌サイズの痣。

それは屋上から突き落とされたされた時に付いた物だったのだ。





 急を聞いて瑞穂が駆け付けた時、みずほちゃんは校庭で倒れていた。

その時近くの花壇の中で初給料でプレゼントしたコンパクトを見つけたのだ。

それを開けてみた時、瑞穂は愕然とした。

鏡面に赤い口紅で『死ね』って書いてあったからだった。





 そのコンパクトは木暮君のお兄さんの事件も解決させた。

木暮君のお兄さんはロック歌手だったのだ。



デビューシングルがいきなりヒットして、そのお礼と第二段シングルの発売も兼ねてデパートでライブパフォーマンスする予定だっけのだ。

そのイベント会場へ向かう従業員用のエレベーターの前で、木暮君のお兄さんは首を落とされたのだ。

それが、マネージャーの仕業だとあのコンパクトが知らせてくれたのだ。

瑞穂はみずほちゃんのお陰で、霊感探偵として俺の相棒になってくれたのだ。






 そのコンパクトが今度は、ラジオが妻を殺した犯人ではないと知らせてくれたのだ。

確認した訳ではないけど、嬉しかった。

本当はアイツを信じていたんだ。

アイツの無実を証明した妻を殺しす訳がないと……



木暮君のお兄さんの奥さんだったヘアーメイクアーチストのマイさんの主催した女子会に向かう途中だっけ。

マイさんは俺達を女装をさせて楽しもうとしていたのだ。

瑞穂の両親も一緒だった。



『今後はもっと上手くやるから、なあ瑞穂一緒に行こうよー』



『お前解っているのか? 主催するのはマイさんなんだそ。お前の兄貴の奥さんだった人だぞ』



『うん。解ってる。それが何だって言うんだ』



『瑞穂の叔父様、お願いしますね』

すっかり女装づいた木暮君はそう言いながら俺にウインクした。

瑞穂だけではなく、木暮君まで引き摺り込んでしまったのだった。

でもそのお陰で俺はラジオが無実だったと知らされたのだ。

妻のワンピースがラジオを懐かしがっていたと知ったからだった。





 俺は瑞穂の発言で、ラジオが又来ると想像した。

だから仕事の合間にカフェの近くで待ち伏せしていた。



相も変わらずペット捜しの依頼や浮気調査が多かった。

だから暇な時に聞き取り調査も抜かりなくやっていた。



元刑事だったとは言え、警察官の振りなどは出来ない。

何事にも慎重に対処していた。





 そんなある日、遂に俺はラジオと遭遇した。

ラジオは老けた俺の顔に気付く気配はなかった。



そう……いつの間にか十年以上の年月が経過していたのだ。

俺だけではなく、ラジオの顔もシワが増えていた。



(俺のせいで苦労させたな)

労いに一言でも掛けてやりたかった。

でも出来るはずがない。

アイツを傷付けたのは間違いなく俺なのだから……





 俺はアイツの後を付けてみようかと思った。

妻が何時も気に掛けていたアイツの奥さんの様子が知りたかったのだ。

俺がこの街で今暮らしているのは、アイツの奥さんを見守ることに決めた妻のためだった。

妻は本当にアイツ等が心配だっけのだ。

だから俺も此処に住もうと決めたのだ。

アイツが服役を終えて出てくるまで、妻と一緒に……

勿論家族寮が空くまでの話だったけど。







 俺はこっそりラジオの後を付けることにした。

今何処で何をしているのか知りたかったからだ。

その結果、ラジオの奥さんも確認出来た。

二人は仲睦まじく生活していたのだった。



(良かった。無事で良かった)

妻の死で気が回らなかった。

アイツの奥さんを気遣うこともしないで犯人逮捕するためにラジオを追っていた。

俺はラジオを妻殺しの重要参考人だと思っていたのだ。



だから……

アリバイがあるから犯行は不可能だと同僚の刑事に言われてカーッと頭に血が上ったのだ。

俺は刑事にあるまじき行為をしてしまったのだ。



アイツが服役した事件は無実だってことを俺は知っている。

それなのに彼奴等ときたら、寄って集って犯人に仕立てた。

俺はその時はもう警察自体を信じられなくなっていたのだった。

だから俺は刑事を辞めたのだ。

それは本当はアイツを追うためだってことに先輩は気付いていた。

だから探偵の道もあると知らしめてくれたのだ。





 ラジオは相変わらず奥さんといた。

でも何故か違和感を覚えた。

何故だか解らないけど、以前会った時より小さくなっていたのだ。



(苦労したからかな?)

何気にそう思っていた。

でもそれだけでは何かが足りない。

第一、それだけのことであんなに痩せ細るだろうか?

出会った頃、奥さんはイキイキしていた。

でも今は見る影もない。



(何があったのだろう?)

とても心配になってきた。





 俺は変装をしてアイツの奥さんに近付いた。

俺の顔はバレバレだったから仕方ない。

でもまさか女装は出来なかった。

クリスマスイヴの女子会の時、瑞穂が抱腹絶倒したからだ。

女子会とは名ばかりで、男性も女装すれば参加出来るんだ。



其処にいた姉貴の旦那よりマシだと思ったけど、やはり俺には似合わないと感じたのだ。





 何時か瑞穂に示したらようにファミレスに誘おうとした。

それには取り置きした新聞広告が役に立つ。

郵便受けに格安チケットが付いたチラシを三つ折りにして入れるのだ。



案の定、その罠にアイツは引っ掛かった。

アイツは奥さんを慰めようとそのチラシを使ってくれたのだ。





 アイツはサラダバーに向かった。

サラダバーって言うのはカレーまでも食べ放題なコーナーだ。

でも奥さんにはチーズ入りのハンバーグを注文していた。







 ふと見覚えのあるワンピースが目に止まった。

それは姉貴が好んで着ていた柄に似ていた。

その瞬間俺は目を疑った。

傍にもう一人居たからだった。



(瑞穂!? それに木暮君!?)

きっと二人はアパートに鍵が掛かっていたから一旦家に帰って姉貴のワンピースを着てきたのだろう。



(余計なことを……)

本当は嬉しいくせに、素直じゃない。





 瑞穂は堂々と俺の横に座った。

でもまだ女装に不馴れな木暮君はもたついていた。



(何で来た?)

アイコンタクトで伝えようとした。

もし声で俺だと解ったら元も子もない。

瑞穂はそれを承知のはずなのに……



(まったく……お前ってヤツは)

愚痴の一つも言いたい。

でもグッと堪えた。



「ごめんなさい。どうしても心配で……」

瑞穂は囁くような声で言った。

又女っぷりを上げた瑞穂に探偵としての気構えを見た思いがした。

瑞穂は着実に俺の相棒へと進歩していたのだ。

本当はそれが嬉しくてにやけてしまいそうだった。



瑞穂がアパートへ来た時俺が出掛けた。

だから後を付けたのだ。

ファミレスに入ったのを確認してから自宅に戻り女装してからとんぼ返りしたそうだ。その時瑞穂は格安チケット付きのチラシも数枚入れて来たようだ。俺の目の前でそれを出して注文した。俺の真似をして瑞穂も取り置きしているようだ。



(流石相棒)

思わず笑みが零れる。

正規業務なら係った経費は戴ける。でも、だからと言って吹っ掛けられない。

だからなるべく低コストにしたいのだ。それが俺のポリシーだった。






 俺は瑞穂に録音機を渡した。

瑞穂はアイツの近くの席に座り直した後でそのスイッチを押した。

これが幾つ物事件を解決に導いてくれた。



正式な令状と本人の了解を得た訳でもないから、本当は証拠能力には欠ける。

だけど俺達はそれを得るために頑張ってきたんだ。





 瑞穂と木暮君に任せて此処を離れることにした。

ボロが出ることを怖れていた。

でも本音はアイツの奥さんを見ていられなくなかったのだ。

気の毒だと思っていた。

こんな男と付き合わなければ、こんな羽目になることはないと思っていたからだ。

その時俺は、ラジオを見下していただけだったと気付いたのだ。



(相談に乗る振りをして、優越感に浸っていただけなのかも知れない)

俺はやっとそれに気付いたのだ。



(アイツもそれが解っていて、だから俺が思わずラジオって言った時に怒りを顕にしたのか?)

アイツを怖いと感じたあの日の自分を反省しつつ俺はファミレスを後にした。






 その日、瑞穂達が持ち帰った証拠はあの日の事件のあらましだった。

アイツの奥さんは拉致監禁されていたのだ。



俺の妻が殺されてから十年以上経過した。それより長い時間二人は引き裂かれていたのだ。

その拉致犯人が俺の妻を手に掛けたかどうかは解らない。でも何らかに関与しているのでらないかと思えた。



(ラジオじゃなかったのか?)

俺はまだアイツをそう言っていた。



『心当たりを俺達も探してみるから……』

アイツが突然やって来た時、俺はそう言った。

でも妻を殺されてそれどころではなくなった。

アイツの奥さんを探そうともしないで、俺は犯人逮捕に躍起になっていたのだ。

そう言えば聞こえはいい。

本当はアイツを犯人だと思い込み、違反な捜査を繰り返していたのだ。





 アイツの奥さんは精神的に病んでいた。

その傷付いた心を癒すためにアイツは懸命だったのだ。

お袋が見た、車に引き摺り込まれた女性はやはりアイツの奥さんだったのだ。

その犯人が誰なのか?

俺は二人の会話から知ることが出来た。

それは警察がアイツを逮捕するために見逃した者だった。

アイツに共犯の罪を被せ、自分は執行猶予を勝ち取ったあの実行犯だったのだ。



警察が、俺の訴えたアイツのアリバイを信じてさえくれていれば起きなかった事件だったのかも知れない。

その上に起きた妻殺し。管轄は埼玉県警だ。幾ら俺が警視庁の刑事だとしても関与出来ない。ましてや、事件の関係者は蚊帳の外。それがもどかしくて、俺は警察を辞めたのだ。





 イワキ探偵事務所に戻って風呂に直行した二人は俺のスェットに着替えた。



「叔父さん」

俺は瑞穂の声で我に戻った。



「あっ、ごめん。ちょっと思い出していた」



「良かったって言うべきなのかな?」



「うん、良かったんだ。アイツが犯人じゃないと解って、物凄く嬉しい……」

こともあろうに俺は二人の前で泣いていた。





 「これを警察に持って行かなくちゃだね」



「証拠にはならないと思うけど、提出した方がいいのかな?」



「行かなければダメだよ。だってこの女性は警察の怠慢で拉致されたようなものだからね」



「瑞穂もそう思うか?」

俺の質問に瑞穂は頷いた。



以心伝心。

俺達は叔父と甥の域を越えて、本物の相棒になっていたのだ。





瑞穂が録音したテープは証拠となるのだろうか?

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