女子会再び
マイさん主催の女子会が始まる。
街はクリスマスツリーが輝いている。
駅前広場に飾り付けられたイルミネーションが、急ぎ足の人も楽しませている。
でも一つ困ったことが起きた。
すっかり女装に木暮君が嵌まってしまったのだ。
「今後はもっと上手くやるから又手伝わせてくれ」
木暮君はそう言いながら俺達にウインクした。
「なぁ、また女子会に潜入しようよ」
木暮君が瑞穂の耳元で囁く。
「でも学校に知れたら大変だぞ」
瑞穂はさも知り尽くしたように言っている。
それは瑞穂の本音だ。校則の厳しい瑞穂が通っている高校なら、女装してアルバイトをやってるなんてバレたら一発で退学だろう。でもそれをしなければいけない時もあるんだ。だから俺は『骨は俺が拾う』って言ってる。
本当は瑞穂には余計な負担を掛けたくはない。きっと姉貴もそんなつもりで遊びによこしてる訳ではないのだから……
木暮君を見ると、相変わらず妻のワンピースに目を輝かせていた。
「女装なんて、仕事だけで充分だ」
瑞穂はそう言いながらも楽しそうな木暮君とワンピースを見ていた。
瑞穂と木暮君の優しさが俺の身体を熱くさせた。
妻の形見のワンピースにそっと触れると、思い出が溢れ出した。それと同時に未だに犯人を捕まえられないもどかしさが俺の心を打ちのめす。
(待ってろよ。必ず犯人を探して出してみせるから)
不覚にも俺は泣いていた。そっと二人を見ると貰い泣きをしてくれている。
その途端。
心がジンジンと疼き、新たな闘志に掻き乱さられていく。
俺は改めて、事件解決を誓っていた。
そんなある日。
マイさんから女子会への招待状がイワキ探偵事務所に届いた。
マイさんは俺達を女装をさせて楽しもうとしていたのだ。
ま、木暮君はすっかりうつつを抜かせていたけどね。
「今後はもっと上手くやるから、なあ瑞穂一緒に行こうよー」
「お前解っているのか? 主催するのはマイさんなんだそ。お前の兄貴の奥さんだった人だぞ」
「うん。解ってる。それが何だって言うんだ」
木暮君はすかっり我を忘れて、女装出来る喜びに浮かれていた。
「瑞穂の叔父様、お願いしますね」
木暮君はそう言いながら俺にウインクした。
「又お仕事お手伝い致しますので……」
その発言にドキンとしたのは誰ならぬ瑞穂だった。肩が跳ね上がったので肝でも潰したのかと思った。
それは瑞穂のエースになるという夢が遠退くことを意味していた。
「なぁ、また女装しようよ」
木暮君が瑞穂の耳元で囁く。
「やだ。絶対にやだ」
マイさんに弄ばれことが解っているらしい。
「『あっ、すいません。話しは変わりますが、あのことは内緒にしておいてくださいませんか?』」
瑞穂は突然、しゃべり出した。それはどうやらマイさんとの会話らしい。
「『ええ、良いわよ。でも一つだけ条件があるの。ねえ、あの時君の隣にいた可愛い子を紹介してくれたらね』って言われた」
「えっ!?」
「ごめん木暮。俺『えっ、木暮をですか!?』って言っちまってた。そしたらマイさん『えっ、木暮って。えっー!? もしかしたらあの娘悠哉君?』って……」
「何だよ瑞穂。勝手に俺の秘密ばらすなよ」
「そう思って『すいません。もうさせませんので忘れてやってください』って、頷きながらも言ってしまったら『もしかしたら記憶から消せと?』って言うから『そうしていただきましたら幸いです』って言っておいた」
「マイさんは何て?」
「『そんな勿体無い』って」
「勿体無い?」
「おっ、俺と同じ反応。マイさんは『そりゃ、そうでしょ。義理の弟なのよ。たっぷり可愛がって、時々眺めていたいわ』って含み笑いをしながら俺を見た」
「何かヤバそう」
「うん、ヤバかった。もし、何だったら……』って、だから『何だったら?』って聞いたら『ううん、何でもない。解ったわ。そのかわり、私の隣で可愛いカッコしてくれたらね。だって君って、霊感の強い探偵でしかも女装させたら天下一品だもの。弟と一緒に可愛がってあげる』って言われた」
「だから女装すれば男性の参加出来る女子会の招待状来たのか?」
「そうだと思う。マイさんは語尾を少し上げて微笑んだ」
「瑞穂のバカが、そんな発言するからこんな目に合うんだ。そうだよ。だからこんな招待状が来るんだ」
俺は軽はずみな瑞穂を妬ましく思った。
瑞穂は突っぱねようとしているようで、何か口実でもないかと招待状を良く見ている。
「あれっ、これ叔父さんも一緒に。ってことだ」
「どれどれ」
木暮君は瑞穂が見ていた招待状を強引に奪い取った。
「あっ、本当だ。俺達なら解るけど、似合わねえ」
木暮は腹を抱えて笑い出した。
「そう言えば叔父さん。女装したことあったね」
「えっ、何時だ?」
「ほら、水村さんの……。ま、あの時は俺だけが女装する羽目になったけど」
瑞穂はそう言いながら腕組みをしながら考えていた。
「結局、水村さんは自首してくれなかったな」
と言った。
「あ、水村さんなら引っ越したよ。瑞穂によろしくって伝言されていたんだ。今回のこともあって、すっかり忘れていた」
「えっ、そうなの?」
「あっ、水村さんって例の?」
「そうだよ。俺も叔父さんも、罪状通りに和也さんが警察官を殺した真犯人だと思いたかったんだ」
「完全犯罪だな? って瑞穂は言っていたけど結局、その通りだったな」
「いいや、きっと自首してくれるさ」
瑞穂は強気だった。
「瑞穂の女装はあの時が最初だったな」
「だって、叔父さんがワンピースを着ようとしていたから見るにみかねてだ」
「えっー!? 俺も見たかったー」
木暮君は又笑い出した。
「瑞穂のお陰で真相は把握出来たけど……」
「だったら俺も手伝う」
木暮君が手を出して三人の手を組ませた。
その行為が嬉しくて思わず涙腺が弱くなった。
その時、俺達は同士と言う絆で結ばれている。そう感じた。
結局俺も女装することになった。
それはそれは抱腹絶倒の女子会になるはずだった。
聞いた話によると、男性も女装さえすれば会場には入れるそうだ。
でもカフェに入る前に事は起こった。
それは突然だった。
「あっ!?」
瑞穂はみずほちゃんのコンパクトをポケットから取り出した。俺が確認すると、それは熱を帯びていた。
それと同時に瑞穂はワクワクし始めた。
原因不明の挙動不審状態に瑞穂は陥ったのだ。
何かに締め付けられているような感覚なのか、瑞穂は胸を抑えた。
俺は瑞穂の態度に異変を感じて辺りを見回しすと、見知った顔に出会した。
それは俺が長年探していたラジオと呼んでいた人だった。
「この人は叔母さんを殺した犯人じゃないって俺の深部が反応したんだ。叔母さんのワンピースがその人を懐かしがっていた。だからワクワクしたんだ」
瑞穂はそう言った。
「自分を殺した容疑者だとされた人なんだよ。もし本当に殺られていたのならこんな風には感じられないはずだ」
瑞穂は俺にそっと目配せをして耳打ちした。
つまり、瑞穂の霊感が真犯人ではないと告げたのだ。
俺は目を白黒させながらそいつを見た。ラジオと呼んだそいつは、目の前にいる女性が俺だと気付くはずもなく立ち去っていた。ま、女性と言うより、オカマバーのママとでも言うべきか……
それでも俺はホッとしていた。女装なんて本当はイヤでイヤで堪らなかったんだ。
でもそのお陰で、誤解が解けたのだ。それは瑞穂の霊感を信じればこそ出来たのだ。
二人の関係を修復出来ないとは思っているけど、少しでも心が軽くなったのではないのかと感じていた。
結局、女子会は大成功のうちに幕を下ろした。
マイさんが何故女装した男性も良しとしたのか?
それはクリスマスイヴに、家族立ち合いの元で結婚式を挙げるためだった。お相手は勿論、あのロックミュージシャンだ。
「やっぱりロック好きだね」
「それも、相当のパンクだな」
俺は瑞穂に目配せした。俺の視線の先には、瑞穂の両親もいた。
マイさんはヘアーメイクアーチストの力をフルに発揮して、其処にいた男性全員をビジュアル系に仕立てたのだ。
でも瑞穂の父親はヘビメタに相当近かったのだ。
「義兄貴の格好……」
自分のことは棚に上げて、俺は堪らずに笑い出した。
「お前の親とは思えないほどのゴツさだな」
「うん。ねぇ叔父さん知ってる。母はそのゴツさ、じゃぁない男らしさに惚れたんだって」
瑞穂は姉貴の秘密を暴露していた。
「勿論だ。あの頃、サッカーのエースを目指して猛特訓をしていた姿に……あっ」
「えっ!? そうだったの? だから俺に教えてくれたのかな? 父は何も語らず黙々とボールを蹴ってくれていた」
瑞穂は義兄貴との思い出を語り始めた。
「そうか? だから俺のそんな姿にみずほも惚れてくれたのか?」
瑞穂の言葉を聞いた途端に胸が張り裂けそうになった。
恋人になって以来、初めてみずほちゃんの居ないクリスマス……
その哀しさにこれから押し潰されそうになるはずだからだ。
俺と同じに又クローゼットの中で泣く羽目になる。
それは瑞穂の精一杯の親孝行だ。
俺の真似をするつもりはないけれど、心配を掛けたくないんだ。そう思った。
二人は幸せになれるのだろうか?




