女子会の前に
身辺調査が始まる。
瑞穂は彼女の身辺を捜査することにした。
勿論俺が頼んでやらせたことなのだ。
スキンヘッド男性の依頼がまだ生きていたせいもあったからだ。
『なぁ瑞穂どうする? 手打ち金貰っちゃったよ。返さなくちゃダメかな?』
あの時の俺の言葉を瑞穂は真剣に受け止めてくれた。
そのお金で事件の真相を掴もうよ』
だから瑞穂はそう言って、俺を説得したんだ。
とりあえず、女子会潜入するまでには何らかの結論を出したいと思ったのだ。
それには今動かないといけないと俺達は考えた。
サッカー部の練習を無難にこなして、瑞穂木暮君のお兄さんの奥さんが住んでいたという美容師へ足を運ぶことになっていた。
でも其処にはいるはずもなかったのだ。瑞穂が語ってくれた木暮君のお母さんの話で、引っ越したと言っていたからだ。
木暮君のお兄さんの奥さんはヘアーメイクアーチストだったから大変だった。
仕事場が東京なのだ。
まさか高校を休ませてまで瑞穂やらせる訳にはいかない。
それこそ、校則違反だと追求されることだろう。
女子会までには何と結果を出したい。
瑞穂のそんな思いが空回りしていた。本当は何が起こるかも知れないから女子会だけはスルーしたかったらしいのだ。
そんな時、原田学さんの葬儀に出席していた彼を見つけたと瑞穂から連絡があった。
首にはまだあのゴールドスカルのペンダントヘッドをしているらしかった。
(まだ本当の持ち主がだれなのか知らないのかな?)
俺はそれが気掛かりだった。又事件にならなければいいと思っているからだ。
木暮君のお兄さんはそのチェーンで首を落とされ、原田学さんは電車にゴールドスカルのペンダントヘッドの部分が引っ掛かり吊られた状態になって亡くなった。その事実を知らないのだと思った。
もっとも知っていて首に掛けていたのなら恐怖そのものだけど……
瑞穂は彼の後を着けることにしたようだ。
「何があるか判らないから慎重に行動しろよ」
『うん、解った』
瑞穂はそう言った。
着いた場所は音楽スタジオだった。
瑞穂は俺に見習って、茂みに隠れることにしたようだ。
やっぱりロックのミュージシャンだな。こんな場で練習しているんだ。一度中に入ってみたいな。
瑞穂は普通にそう思って、ミーハーな気分になっていたそうだ。
――今何処?――
その時木暮君からメートが来た。
――良く解らないけど、駅の近くの音楽スタジオ――
瑞穂はそう返した。
――其処で何をしているの?――
――ゴールドスカルの――
其処で終わった。
『其処で何をしているんだ』
突然背後から声を掛けられた。。きっと変質者に間違えられたんだ。と思った瑞穂は恐る恐る声のする方を振り向いた。
『あれっ、磐城君か?』
其処にいたのはあの刑事だったようだ。
『なあんだ、刑事さんだったのですか?』
瑞穂はホッと胸を撫で下ろした。
でもことはそれでは済みそうもない雰囲気だった。
『説明してもらうよ』
刑事は凄味を効かせたようだ。
それはヤバいと思った。俺は何時も慎重に行動しろと言っていたのだ。さっき瑞穂は『うん、解った』って言ったばかりだった。
『瑞穂お待たせ』
その声に驚いて振り向く。
『駅の近くの音楽スタジオで待っていてくれと言っただろう? 何でこんな所にいるんだ?』
それは木暮君だった。
木暮君が助け船を出してくれたのた。
(助かった!!)
本気でそう思っていた。
「だからあれほど行動は慎重にと言ったんだ」
俺は警察の取調室に運ばれた瑞穂の身元を引き取ってから言った。
「アイツは俺の同僚だったから今回は大目に見てくれたけど……」
「俺、口惜しいです。幾ら彼処で待ち合わせたって言ったって全然聞いてくれなかった。警察って、そう言う所なんですか?」
木暮君は今にも泣きそうだった。
無理はない。
瑞穂を警察に連行したのがボンドー原っぱの葬儀会場にいた刑事だったからだ。
俺だってショックだ。
瑞穂のことを高くかって、信頼していると思っていたからだ。
瑞穂は木暮に救われたと思っていた。
でも現実は厳しかった。
「ああ、そうだよ。被害者がいるんだよ。まずその人を守らなければいけないんだよ」
「被害者って?」
「詳しいことは解らないけど、どうやらストーカーのようだ」
「ストーカー!?」
瑞穂の霊感が何かを察知した。
瑞穂は慌ててみずほのコンパクトを握り絞めた。
「みずほが泣いてる」
「あのコンパクトか?」
瑞穂は頷きながら、それを開けた。
「確かに熱いな。これって?」
「木暮の兄貴の意識を感じた時もそうだった。木暮はみずほの幼馴染みだろ? だからきっと……」
瑞穂は皆の見ている前で泣き出した。
「ストーカーって? あの男性にかな?」
やっと泣き止んでから聞いた。
「そりゃ、どう言う意味だ?」
「いや、実はコイツの兄貴の奥さんもストーカー被害に会っていたらしいんだ」
「そんなことがあったんか?」
俺は木暮君を見ながら聞いた。
「いや、そんな話聞いたこともない」
木暮君は頭を振りながら答えた。
「ごめん。それもこの、みずほのコンパクトが見せてくれたんだ。木暮の兄貴の意識の中では、確かに存在していた。帽子を目深に被った鋭い目をした男性が……」
「男性だったのか?」
「そうだよ。ソイツは木暮の奥さんのストーカーだった。だからソイツから奥さんを守ろうとして、木暮の兄貴はあのゴールドスカルのペンダントヘッドに憑依したんだよ」
瑞穂はまだ言ってなかった木暮君のお兄さんの愛を語っていた。
「兄貴……」
木暮君はコンパクトの《死ね》の文字を見つめながら呟いた。
「みずほだって、瑞穂にこんなに愛されている。だから信頼して、真実を伝えてくれたんだな」
木暮君の優しい言葉が瑞穂にはこそばゆいみたいだ。
瑞穂は照れ隠しに、台所に行った。
「叔父さん。俺、あのラーメンが食いたい」
「そう言えばお腹が空いたな? よっしゃー腕を振るうか?」
「腕って? インスタントラーメンでしょ?」
「それを言われたら、元も子もない」
「木暮、叔父さんの作るラーメンは奥さん直伝の絶品なんだよ」
「何だ瑞穂。さっきコケにしたかと思ったら今度は持ち上げか?」
俺は笑いながら台所に向かった。
「奥さんはこの人に殺された可能性が高いんだ」
俺が台所に立っている間に携帯に保存した画像を見せることにした瑞穂。
何処で、ラジオに出会すかも知れないからだ。
「あのワンピースの持ち主だった人でしょう? 随分若い時に殺されたんだね」
「そうだね。このアパートがまだ新しかった頃だった。叔父さんの結婚式に出席して驚いたんだ。警察には結婚式に正装の式服をレンタルしてくれる仕組みがあるんだって」
「えっ、正装の式服? そりゃ格好いいね」
「でも暫くして奥さんは殺された。その時、近所の人が目撃したのがこの人なんだ。だから叔父さんはこの人を追っているんだ。本当は犯人ではないことを信じながら……」
「瑞穂と同じように叔父さんも辛い人生を送ってきたんだな」
木暮君の言葉が胸に染みる。
「はい、出来たよ」
俺は幾重にも折った新聞紙の上に鍋を乗せた。
「磐城家特製、ごちゃ混ぜラーメン」
「何だそりゃ?」
「奥さんが間違えて二種類のラーメンを買って来たんだって。叔父さんはそんな奥さんが大好きなんだよ」
瑞穂の説明に木暮君は吹き出した。
「別々に茹でれば良いだけだな」
「それを言っちゃ叔父さんが可哀想だ。大切な想い出なんだから……」
瑞穂の言葉を聞いて木暮君は俯いた。
俺達は鍋のラーメンを分け合って食べた。
「何だか同じ釜の飯って感じだね」
「そうだな。これで絆が深まれば嬉しいなー」
「こら、それは俺の玉子だ」
俺のしんみりとした言葉を聞きながらも、容赦ない具の奪い合いが勃発しようとしていた。
「お前ら、相棒なんだろう!?」
俺は呆れたように言った。
瑞穂は木暮君のお兄さんの奥さんが一週間後にカフェ主催の女子会に現れると予想した。
勿論ゴールドスカルのペンダントヘッドを着けていた男性はあの店に入れないこと確かだった。
瑞穂達のように女装すれば別だけど……
きっと木暮君のお兄さんの奥さん達は原田学のことも話題にすることだろう。
あの男性の噂話が事実なら、原田学の恋人だと言われているのだ。
俺も瑞穂もそれを知りたい。
そして原田学さんを殺した犯人も確かめたかったのだ。
だから瑞穂は女装してから二人分予約しておいたのだ。
今回限りの相棒となった木暮君は、女装に馴れるために部活終了後にイワキ探偵事務所に寄るようになった。
元々女性と間違われていた木暮君はどんどん可愛くなっていく。
『うん。何処から見ても完璧だ』
俺は太鼓判を押した。
でも木暮君は面白がって瑞穂にちょっかいを出す。
みずほちゃんのことを良く知っている木暮だからこそ出来る様々な誘惑方法を使って……
恋と言う名の海に沈んでいる瑞穂を浮き上がらせようとしている。
瑞穂にとったら本当は有り難迷惑だと思うだけど、木暮君の優しさに救われていると感じた。
結局俺が身辺を捜査をすることになった。情報社会だから売れっ子のヘアーメイクアップアーチストだからネットですぐ解るからだ。
だから瑞穂は、あのペンダントヘッドをしていた男性に密着出来るのだ。
それでも遠巻きに見張るくらいしか打つ手はない。
警察に又連行されることもあり得るからだ。
そしてとうとうカフェ主催の女子会の当日になっていた。
何故このようにしてまで女子会に潜入するのか?
答えはきっと其処に集まる女性達が証してくれるはずだ。
俺達は男性抜きになった時の本音を聞きたくて危険を承知で挑むことにしたのだ。
何時ものように妻んの三面境の前で、二人は女装した。
実はそれは木暮君が言い出したことだった。
『叔母さんの力も借りよう』
って――。
『今でも叔父さんは奥さんを愛しているんだろう? 今は叔父さんの危機でもあるんだから、きっと助けてもらえるはずだ』
木暮君は強気だった。
『この前も言ったけど、女子会って、一度行ってみたいと思っていたんだ』
結びにそう言った。
瑞穂はあの日、原田学さんから許可をもらって携帯に入れた画像をチェックした。
この前、カフェで会ったのが本当に彼女だったか確かめるためだった。
念には念を入れる。それが俺ポリシーだ。
だから瑞穂も見習いたかったみたいだ。
一応仕事だと言うことで、俺の車で送って行くことになった。
俺も駐車違反にならない程度に移動しながら見守ることにした。
瑞穂はそれだけでも心強いはずだ。
「此処かい、千穂ちゃんの会話を録音したカフェって?」
俺が聞くと瑞穂は黙って頷いた。それがどんなに悲しい思い出なのかも俺は知っている。だから本当は悪いことをしたと思った。
俺はそれを棚に上げて二人にあれこれ注意をした。
傍にいて録音するだけ、深入りは絶対に禁物。
肝心なのはそんなとこだ。
瑞穂は適当に頷いていた。
もし何かしらの録音出来たとしても、証拠能力はなかった。
それでも俺達は原田学と木暮君のお兄さんのために遣りたかったのだ。
「よし、行くか」
瑞穂達は女子会の始まる五分前に車から降りた。
女子会に上手く潜入出来るのだろうか?




