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女子会潜入

いよいよ女子会へ潜入します。

 「叔父さん悪い。警察に行って!!」

車をカフェに横付けした途端に乗り込んで来た瑞穂は声を張り上げた。

その態度から衝撃的な何かがあったのではないのかと勘ぐった。それでも冷静に対象しなければならないと思った。



「そんな格好で行ける訳ないだろう!! それとも退学になりたいんか!?」

それなのに事情が解らず俺は怒鳴ってしまった。でも興奮している瑞穂が気の毒になった。



「彼処には知り合いもいるんだ。少しは冷静になれ。瑞穂、今は駄目だ。一旦家に帰ろう」

その後で俺は瑞穂を諭した。でも、聞く耳を持たずに瑞穂は暴れ続けた。



「木暮君、何をしてる。瑞穂を押さえろ!」

仕方なく木暮君は瑞穂の体を抱き締めた。その瞬間瑞穂は木暮君に抱き付いた。



(えっ!? 何なんだ?)

俺は瑞穂が木暮君に惚れたのかとも思った。そんなことは絶対にないことだけどね。



「気持ちワルー」

木暮君が頭を振っている。それでも、しっかり瑞穂を抱いていてくれていた。

木暮君に申し訳ないと思った。いくら女装に興味があったとしても、俺が頼まなければイヤな思いをさせることはなかったのだ。

それにしてもあのカフェの中で何があったのだろう。

俺は瑞穂を気遣いながらアパートを目指した。

比較的あのカフェは近い。でも熊谷の駅前通りは一方通行が多くて遠回りしなければならなかったのだ。





 アパートの小さな風呂の中で瑞穂は泣いている。俺は一緒に入ってくれるように木暮君を諭した。

勿論木暮君は嫌がった。きっと車の中での出来事を思い出したのだと思った。

それでも俺が心配そうに覗き込むと背中合わせに入ったバスタブから湯が溢れていた。



(ありがとう木暮君)

少しずつだけど瑞穂の表情が変わっていく。どうやら気持ちが解たようだ。

小窓からは月が照らしていた。

それを見て又涙が瑞穂の頬を伝わった。

その恐怖が何なのか、俺に判るはずがない。

それでも、幾つかの要素がそれらが交互に瑞穂を襲っているのだと判断した。





 瑞穂が風呂から上がって事務所に来る。

俺は、原田守さんの告別式にいた刑事を呼んでいた。



「コイツは俺の知り合いで県警の刑事桜井だ」

そう紹介した。



「あっ、どうも」

瑞穂はそう言うのがやっとだったみたいだ。

まだ恐怖から覚めていないと確信した。それと同時に不審者として連行されたことが脳裏を掠めたはずなのだ。

それでも出来る限りの誠意をみせている。俺は瑞穂が愛しくなった。





 瑞穂はまず、録音したテープをその桜井刑事に聴かせた。



『ところでさー。原っぱって此処出身だったっけ?』



『違うと思うよ』



『確か此方に母親が住んで居るとか居ないとか?』



『どっちなのよ』



『うーん、解らない』



『でも情けない無いね、あんなチョンボで死ぬなんて』



『チョンボ?』



『そうだよ、大チョンボ。電車降りる時に何かが挟まって引き摺られたってことらしいよ』



『へー、知らなかった。私全く興味なかったからね。でも一体誰から聞いたの?』



『確かマイだった。そうよねマイ?』



『えっ、何の話?』




『さっきから何の話してるの?』



『だからさー、原っぱがどんな死に様かってことよ』



『止めようよ、そんな話。お酒が不味くなる』



『あら、いいの? 確かマイって原っぱの彼女じゃなかったっけ?』



『変なこと言わないで、彼が気を悪くするわ。もしかしたらあんた達ね。デタラメな噂流したのは?』



『デタラメねぇ』



『そう言えばマイ? 仕事は大丈夫なの?』



『あっ、大丈夫よ。母が行ってくれてるから』



『やっぱり美容師は良いわよね。マイのとこ親子二代だから、試験も簡単だったんじゃないの』



『まあね、だって小さい時から叩き込まれていたからね。私の夢も知っていたから応援したくなったんだって』



『だから彼に尽くせる訳か? 東京の美容院も盛況らしいし……』



『うん。でも元彼の方が本当は良かったみたい』



『元彼って原っぱ?』



『違うよ。全くもうー』



『あっ、あっー!?』



『えっ何? 何!?』



『今の何!?』



『ちょっと待って』



『あっ!?』



『叔父さん悪い。警察に行って!!』

瑞穂は其処でテープを止めた。






 「これは?」

桜井刑事が言った。



「彼女達の会話を無断で録音しました。証拠にはなりませんが、参考になるかと思いまして……」

この手の類いは裁判での証拠採用には程遠い。瑞穂だってそれくらい知っている。それでも聴いてもらいたかったのだ。



「思い出したのです。ボンドー原っぱが、あの日言った言葉を。彼は『気が付いたらこんな頭になっていた』と言っていました。その瞬間、美容師だったらスキンヘッドに出来ると思ったのです」

瑞穂はやっと言いたいことを言った。




「だから『あっ、あっー!?』って男の声がしたのか?」

刑事の質問に頷いた。



「名前はマイ。美容師で、多分この地域で母親が開業していたはずです。それとこれ言って良いのか判らないのですが、そのマイさんはコイツの兄貴の奥さんだった人です」



「容疑者はこの人だと言いたいのかな?」

刑事の言葉に瑞穂は首を振った。まだ其処までの確信はもてないようだ。そりゃそうだ。いくら何でも本人のいる前で家族を疑っているとは言えなかったのだ。



「兄貴の奥さんを疑いたくないけど、コイツの霊感が何かを察したのだとしたら……」

木暮君も歯切れが悪い。それは全て瑞穂を思ってのことだろうと思った。



「俺達を連行したこと覚えてますか? 瑞穂が兄貴とボンドー原っぱを殺したゴールドスカルのペンダントヘッドをした男性を見つけたって言うから、俺は彼処へ行ったんだ。それは……、もう犠牲者を出したくなかったからだよ。それなのに……」

木暮は泣いていた。



「彼はきっとロックグループのボーカル。彼がスキンヘッドになったら、その時が危ない。又人が死ぬかも知れない。だからそうなる前に助けてやってほしいんです」

瑞穂は桜井刑事に懇願した。勿論鵜呑みにするはずなないとは思えないが、よろしくとの意味合いもあって桜井刑事の手をそっと握った。





 瑞穂はやっと冷静になった。

そしてカフェで何があったのかを語り始めた。



「勢い良く出掛けたままなら良かったけど、カフェに入った途端急に木暮が色気付いたんだ。初めての女装での外出、しかもあちこち可愛い娘だらけ……。日頃女っ気の全くない木暮は舞い上がってしまったのだ」

瑞穂の話を聞きながら木暮君を見ると、何だか照れているように感じた。



「そうだった。俺は肝心なことを忘れていた。木暮の高校は男子校だったのだ。俺はそんな木暮を精一杯フォローしながら、何とか彼女達の隣の席に着いた」



「馴れていないんだからしょうがないだろう」

ふてくされるように木暮君が言った。



「俺は聞き耳を立てながらレコーダーのスイッチを入れたんだ。これでひとまず終了。後は真っ赤になっている木暮をなだめなくてはいけない。俺は小さくため息をついた」



「おい、瑞穂。俺ってそんなに無様だったんか?」

木暮君の質問に瑞穂は頷いた。



「何だよ。瑞穂だってさっきまで震えていたくせに」

木暮君の言葉は瑞穂の心臓をえぐったようだ。



「あれは……」

何か言い訳でもするのかと思って瑞穂を見たら、固まっていた。





 「木暮の兄貴の奥さんが美容師だと気付いて鳥肌が立った。何故あんな声を上げたのか判らない。だって、俺は元々マイさんの実家が美容院だって知っていたのに……」



「本当だね」

木暮君がしんみり言う。それは瑞穂に対する思い遣りだと思った。





 「店の前で叔父の車を探した。急いで其処から離れたかったのだ。でもこんな時に限って見つからない。俺は途方に暮れて地べたに座り込んだ。其処へやっと叔父の車がやって来た。俺はガタガタ震えながら車に乗り込んだ」



「俺が悪かった。駐車違反にならないようにアチコチ移動していたからな」



「本当だよ。もし彼処までマイさんに追い掛けられていたら、警察沙汰だったになったかも知れない。もう取り調べ室はごめんだ」

あの時あじわった何事にも喩えられない恐怖が瑞穂を捉えて放さなかったみたいだ。




 「『実は俺の彼女、原田の恋人だったらしいんだ。何だか気になってさ。だから君達が何か知っているのかなと思ってさ』一週間前、彼処でそう言ってたマイさんの彼氏。噂の出所はやはり彼女達の誰かなんだろうか?」



「兄貴の奥さんがボンドー原っぱの恋人だなんて言うはずないと思うんだけどね」



「そりゃそうだけど。でもあの時俺は知っていると思った。ボンドー原っぱの彼女が誰なのかと言うことを……。それは此処にいるマイと名乗る女性だと思った。でも、あれっ、本当にそうなのか? 証拠はあの写真だけだ。そうだ、ボンドー原っぱの言葉を鵜呑みにしただけかも知れない? それに気付いて俺は急に意気消沈したんだ」



「結局、真相は解らず仕舞いだったのか?」

俺の質問に瑞穂は頷いた。





結局何も得られず仕舞いになってしまった。

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