相棒誕生
瑞穂の報告の続きです。
「『ありがとう瑞穂。実は俺最近、兄貴の奥さんに会ってないんだ。母ちゃんは東京へ行ってたから結婚したことは知っていたけど……』って木暮が言った。だから『もしかして、結婚の報告前に亡くなったのか?』って聞いた。そしたら、『兄貴のメジャーデビューが決まってやっとって思っていたんだけど、マネージャーから口止めされていたから』って言った」
「口止め?」
「うん、そうなんだ。『マネージャーには兄貴を駄目にする存在だと映っていたのかも知れないな。そんなことないんだよ。だって二人は幼馴染みで、良く俺とも遊んでくれたんだ』って言ってた」
「幼なじみならあり得るな」
「うん。だから『お前、兄貴の後を付いて行ったのか?』って言ったら俺の質問に木暮は頷いた。その後『あっ、そうだ。金魚の糞だ』って言った。だから俺『なんだいきなり』って言ったんだ。そしたら、『思い出したよ、原っぱのこと。やはり兄貴の仲間だったって』って」
瑞穂はしんみりしていた。
「『だとしたらヤバかったんじゃないのか、あのカフェ。原っぱは兄貴の仲間だったんだろう? 兄貴の嫁さんがお前だと気付いたかも知れないだろう?』って言ったら木暮のやつ、俺の言葉に木暮は黙ってしまった」
そりゃそうだ。と思った。でも瑞穂は更に続けた。
「『大丈夫だよ。もう何年も経っているんだ。気付くもんか』って強気な発言をした」
その時、玄関先で物音がした。瑞穂を見ると何だか浮わついてる。俺はそれに気付いた。
「ところで木暮君は?」
俺の質問に瑞穂は事務所のドアを開けた。
(やはりだな)
察しの通り、其処には木暮君がいた。木暮君はさっきから痺れを切らしていたようだ。
「とりあえず今日得た情報を叔父に報告しようと木暮を同伴させてイワキ探偵事務所へ向かったんだ」
瑞穂はそう言いながら木暮君を招き入れた。
「『女子会には男子は行けないけど……』」
何だか瑞穂の歯切れが悪い。
「『一週間後か? 出来れば行っててみたいな』なんて木暮が妙なことを言い出したんだ。『えっ、女子会へか?』俺はひっくり返りそうになった」
「『もしかしたらお前。有美から何か聞いたのか?』って瑞穂も妙なことを言い出した」
「『何かって、何だ?』って木暮が聞くから『だから、俺が女装しているところを見かけたとか』って言っちまった。その後で気付いた。俺は自ら木暮に、女装していることを打ち明けてしまっていた」
「『えっ、えっーー!? へぇー、お前が女装をね。一体何でそんなことしてんの?』俺は吹き出しそうだった。そしたら瑞穂、『お、叔父さんの手伝いだよ。本当はイヤだけど、叔父さんに頼まれと断れないんだ』ってしどろもどろになっていた」
「だってさ。いくら親友でも弱味は見せたくなかったのだよ」
「『確か叔父さん、元警視庁の凄腕警察官だったよね。高校生にそんなことさせても良いかな?』って言ってやった」
コイツはヤバイと思った。木暮君の次の言葉次第で瑞穂が事務所に来なくなるかも知れないからだ。もしかしたら瑞穂の歯切れの悪い原因はそれなのかも知れない。
「俺の直感は図星だった。木暮は怖いことを言ってきた」
(ん!? 直感って何だ?)
「『俺が何であの高校に入らなかったのか知っているか?』って瑞穂に言うと『単なる偏差値の問題だろう? お前の高校の方がレベルが高いから……』って瑞穂言った。だから違う俺は言ってやった。『違うよ。俺は彼処の生徒達に聞いたんだ。彼処は校則が厳しいって言ってたよ。私立を落ちたヤツが大勢受験するだろう? いい加減な高校生活を送らせないためだとか』ってね」
こりゃ益々ヤバいと思った。
(木暮君お願いだから、これ以上瑞穂を刺激しないでくれ)
俺は熱い視線を木暮君に送った。
「木暮に痛い所を突かれ、俺は返す言葉がみつけられないほど落ち込んでいた。そして驚いた。あの校則はそんな意味もあったのかと」
「とりあえず叔父の了解をもらってからっことでイワキ探偵事務所の中に入ってもらうことにした」
それが木暮君がなかなか入って来なかった理由らしい。
俺は木暮君が何を言いたいのだろうかなどと、そんなことばかりを気にしていた。
「あの、爆裂お遊戯団の誕生秘話知ってる?」
木暮君の質問に首を振った。
「社長が安い半ズボンを見つけたかららしいんだ」
「半ズボン?」
「前、お母さんが時々行ってた店の系列だったみたい。その半ズボンが一枚10円だったから閃いたそうだよ」
何だか原田学さんが気の毒に思えていた。
原田学の霊を慰めるには犯人を見つけてやることだと思った。だから二人の言葉に真剣に耳を傾けたのだ。
でも瑞穂と木暮君は女子会潜入するって話になった。
女装するのは結局瑞穂だけ……
でもなかった。
若くてチビの、女装にうってつけなのがもう一人目の前にいた。
それは木暮君だった。
木暮君はスポーツマンには似合わない草食系で、良く女性と間違えられていたようだ。
木暮君は快諾した。
そこで、妻の三面境の前で、二人は女装してみることになった。
実はそれは木暮君が言い出したことだったようだ。
『女子会って確か、大分前になるけどの流行語だったよね。俺、一度行ってみたいと思っていたんだ』
木暮君はあっけらかんと言ったんだ。
俺は木暮君がチラシをポケットに入れたことが気になっていたのだ。
その理由はこれだったのかも知れない。
瑞穂は一人でもやるつもりだった。
だけど二人なら心強い。
「本当は、俺も一度女装してみたいなと思っていたんだ」
「もしかして、そのまま女子会……ううん、その辺を歩こうって言うんじゃないよね」
「当り。良く解ったね」
「えっー!?」
瑞穂は同時に言った。
それほど驚いたのだ。
瑞穂より少しだけ背の高い木暮の唇が瑞穂の耳元に迫ってくる。
瑞穂はその途端に固まった。
「よろしく相棒」
木暮君はそう言った。
二人はその時から相棒になったのだ。
勿論、この事件が解決するまでの話だ。
「高校生の女装探偵か? あぁー校則が……」
瑞穂は頭を抱えて事務所の椅子に凭れ込んだ。
「よっしゃー、瑞穂。その骨は俺が拾ってやる。思いっきりやってこい」
俺は発破をかけた。
『瑞穂、サッカーなんか辞めて此処を手伝ってくれ』
何時か俺の言ったことを思い出して瑞穂を見るとは震えていた。
解ってる。瑞穂からみずほちゃんとサッカーを取ったら何も残らない。
みずほちゃんが亡くなった今、瑞穂にはサッカーしかない。
それを知りながら……きっと瑞穂には目の前にいる俺と木暮君がが悪魔のように映っているのではないのかと思った。
ひょんなことから、瑞穂の相棒が誕生した。




