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第19章──閉門Ⅱ

 Ⅲ


恵栄文(めぐみさかあや)女之(めの)(みこと)よ…智信枝栄は見つかったか?」

「天甦霊主様…それが…お姉様が黒の国に行ったのは間違いないようなのですが…。あっ、偵察(ていさつ)の者が帰って来たようです。──どうであった?」

「見つかりました。なんと智信枝栄様は鬼たちに捕らえられ牢獄に放り込まれておりました」

「牢獄に?」天甦霊主様が驚いて聞き返した。

「はい。ですがたった今錫雅様によって助けられてございます」

「な、なんだと?錫雅尊が助けたと申すか?」

「どうかされましたか天甦霊主様?何時(いつ)になく動揺(どうよう)されておられるようですが…?」

「うむ……このまま知られずに元に収めるつもりだったが…そう上手くはいかぬか…。これは(ひと)波瀾(はらん)()きそうだ。またしてもこの私が(みずか)()()かねばなるまい…」




 Ⅳ


「ねぇ母さん……この人ずっとこのままだったらどうしよう?」

「なんだね…鈴子(りんこ)にしちゃ弱気(よわき)だね。大丈夫、必ずあの子が答えを見つけてくれるさ」

「…母さん、私はあの子が心配…。どんどん危険な事に巻き込まれていくようで…」

「鈴子…錫はあんたの子だ。そして私の孫だ。可愛いに決まってる。危険なことに首を突っ込んでほしくない気持ちも分かる。それが親心(おやごころ)ってもんだ。だけどね、人には()けて通れない運命(さだめ)ってもんがあるんだ。生まれて来た限り、どうしても通らないといけない道ってものがね…」

「頭ではよく分かっているつもりだけど……けど…」

「あの子も一人の人間なんだよ。決して親の持ち物じゃない…分かるだろ?」

「はい…」

「生きている者にはね、一つ一つ違う魂が与えられているんだ。それぞれが違う生き方をして当然なんだよ」

「じゃ、母さんはあの子が危険な目に()っても(だま)って(ゆび)をくわえて見ていろと…」

「止めたって聞きゃしないさ…。それに誰かが力づくで止めたって本人が後悔(こうかい)するだけだよ」

「………」鈴子は黙って目を(うる)ませた。

「あの子はね…必死でみんなを助けようとしてくれているんだ。私たちが心配することも知ってて遠慮(えんりょ)しながらね…。あんたの心配も腹立たしさも全部祈りに変えておやり」

「祈り?」

「そうだよ!私たちにはできない(つと)めを無事に果たせるように、あの子のことを祈っておやりよ…。親にできることはそれくらい……ばあさんにできることはそれくらいだよ」

「はい…分かりました!錫の大好きなごちそうをたくさん作って待っててやります。…といってもあの子は何でも好きだけど…ふふふ」

「そうだね…あの子は霊力以上に()()()()()()けてるからねぇ…ふっふふふ」




 Ⅴ



「智信枝栄殿…それに、いしまで…。────り、龍門殿…本当にこの者たちがあなたをさらったのか?何かの間違いでは?」錫は驚くばかりで頭の整理ができなかった。

「間違いなどではない。私は確かにこの者たちに連れてこられた!」

 ──「どうして浩子といしがパパを…?何がどうなっているの?」

「すみません…本当にすみません錫雅様…」智信枝栄は顔を下げたまま()びるばかりだ。

「ご主人様…お許しください…いしは…このいしは…ずっとご主人様をダマしておりました…」いしも下を向いたまま泣いてばかりいる。

「そ、そのようだな…。だがまったく意味が分からん…」すぐにでもすべての真相(しんそう)を聞きたい錫だったが、人間界に帰るまで辛抱(しんぼう)することにした。龍門も信枝も一緒では、何かと(さわ)りがあると配慮(はいりょ)してのことだった。

「あの~~、門番様…もしかして親方様とお知り合いで…?────でしたら、是非(ぜひ)ともあっしらの(つみ)が軽くなるようにお口添(くちぞ)え願えませんかねぇ…?」それを聞いて口を開いたのは智信枝栄だった。

「安心しなさい…最初からお前たちに責任を()わせるつもりはありませんでした」

「へっ…?ではあの約束は?」

「こちらにおられる龍門様をしっかりお守りしてほしかったので、少しばかり(おど)しておいただけです。お前たちはよくやってくれました。間もなく人間界に行けるよう(はか)らってあげますから」

「ほ、本当ですか?小鬼稚…やったぜやった!」。「兄鬼~…」

 ──「いったい全体、何がどうなってるんだろう…?差し当たり浩子に悪意(あくい)は無いということは(さっ)しがつくけど…」気にはなりつつも、錫は最後の大仕事にかかることにした。

「この話は長くなりそうなので、一旦(いったん)()いておこう…。私はこれから堕羅の大門を封印せねばならないのだ」そう言って錫は、みんなを引き連れ堕羅の大門まで引き返し、今は霊気が張られてる大門と対峙(たいじ)した。

 それから水晶(すいしょう)のような透明(とうめい)の玉を(おもむろ)に三つとも取り出すと、手のひらに霊気を溜め始めた。すると三つだった玉はみるみる一つに融合(ゆうごう)され、大きさは(たが)わねど驚くばかりの霊力を秘めた玉へと変化した。

「これが堕羅の大門の鍵…」赤い霊気の(とばり)(おお)われた大門の中央下部に、ちょうど玉と同じ程度の大きさの穴がある。錫はそこに大門の玉をそっと()め込んでみた。

 果たして玉に込められていた強い霊気はどんどん放出され、帳全体が深い紫色(むらさきいろ)へと変化すると、填め込んでいた玉は再び三つに分かれて飛び出し、無造作(むぞうさ)に転がり落ちたのだった。

「これで終わりか?いやに呆気(あっけ)ないなぁ…」

「ですがこれこそ元の堕羅の大門に違いありませんぜ」

「そうなのか…?」

「はい、この近づきがたい霊気の帳は間違いなく以前の堕羅の大門そのものです」

「ならば堕羅の大門の門番としての役目は果たせたのだな…。それでは引き上げるとしようか…」錫は一気に力が抜ける思いがした。兄鬼と小鬼稚に別れを告げると、皆を引き連れて人間界へと戻ったのだった。


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