第20章──真実Ⅰ
真実
Ⅰ
人間界に戻った錫は、それでもまだ落ち着くわけにはいかなかった。まず龍門には家で待っているように伝えると、智信枝栄と別れてから、いしを連れて信枝を家まで送っていった。その道中錫は信枝に一つだけあることを頼んだ。信枝は快くそれを引き受けたが、そのかわり必ずまた会いに来てくれという約束をちゃっかり取り付けたのだった。
錫は大急ぎで我が家へ引き返すと、真っ先に自分の肉体に戻り、浩子が来るのを手ぐすね引いて待ち構えた。いしはその間一言も口を開かず伏せたまま神妙にしていたが、錫が時々わざと怒ったふりをして睨みつけると、いしは慌てて視線をそらして大袈裟にため息を吐くのだった。
やがて浩子がやって来ると、錫は堰を切ったように早口で質問し始めた。
「浩子、いったいどうなってるの?いしもどうしてこんなことをしたの?パパはちゃんと元に戻るの?」
「スン…本当にごめんなさい…」浩子は両手で顔を覆って泣きはじめた。
「浩子…泣かないで……責めてるんじゃないの…。浩子がこんなことをしたのには理由があるはずでしょ?それを聞きたいだけ…。そしてパパを今すぐ戻してほしいだけよ」
「…そ、それは……今すぐには無理よ…。少しだけ…ほんの少しだけ時間をちょうだい。解毒薬を貰ってくるから…」
「それって違う誰かが解毒薬を持っているということだよね?まだ誰かが関わっているの?」
「それは…」
「いし…あんたも知ってるんでしょ?他に誰が関わっているの?」
「そ、それは…」
「言えないの?私の言うことも聞けないの?」いしが錫に厳しく問われてたじろいでいたその時、部屋のドアをノックして誰かが入ってきた。
「邪魔するよ…」のっそりと入ってきたのはミツだった。
「お、おばあちゃん…ごめん今取り込み中なの…」
「分かってるよ。だけど急な客人でね──どうしても今すぐ話があるらしいよ…。さぁ、お入りよ…」ミツに肩を押されて、遠慮がちに部屋に入ってきたのは、おとなしそうな初老の女性だった。
Ⅱ
「なんですって?錫が堕羅の大門の門番だったですって?虎慈様ではなかったのか?」須勢理毘売は入ってきた情報に驚いたが、どうしてそうなったのか考えてみて朧気ながら想像はついた。
──「おそらく虎慈様は人間界に行くことが決まったとき、堕羅の門番の役目を錫雅様に託したに違いない。けれど錫雅様も虎慈様の後を追って人間界に行くことになっていた───それなのにどうして錫雅様に門番を託したのか…?白の四天王の筆頭だった虎慈様は、おそらく人間界に行く前にその座を錫雅様に譲っていたに違いない。錫雅様のような霊神ならばそれは十分考えられる。──ん……もしそうだとすると堕羅の玉の在処を示した短文は虎慈様の意思で書いたものではないということになる…。錫雅様は玉の隠し場所を記した短文を自分で作り、それを先に人間界に行った虎慈様に書き残してもらっていたんだわ──万が一を想定して…。錫雅様の生まれ変わりである錫は、自分で作った短文だとも知らずにその答えを必死で探していた──考えてみれば滑稽な話だわ…。そして一番重要なこと────それは錫雅様が門番ならば、堕羅のもう一つの秘密を知っていたはず。…だとすると、同じようにあの霊具の隠し場所を記したものが必ず用意されているはずだわ…」




