表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/56

第18章──封印

 封印(ふういん)




 Ⅰ


 錫がゆっくりと目を開けると、ミツが心配そうにのぞき込んでいた。

「気がついたかい…?」

「あれ?……私…なにがどうなったんだっけ?たしか乾丸先生と越知(おち)さんを助けて…」

「それから乾丸婦人が、(どく)(おか)されて眠ったあんたの霊体をここに連れて来たんだ。そして聖水(せいすい)とやらを肉体のあんたの(ひたい)にかけた──すると霊体があんたの肉体に戻って、こうして目を覚ましたっていうわけさ。もっとも聖水をかけたのは今から三日も前の話だけどねぇ…」それを聞いて錫はベッドから飛び起きた。

「大変…パパの呪いを()かなきゃ」錫は(あわ)てて龍門の寝室へと急いだ。


「パパ…。ごめんね、遅くなって…」錫は自分の考えが正しいことを祈った。あのとき鬼は絶対に龍門を捕獲(ほかく)する(かま)えだった。戦いを()け、尚且(なおか)つ鬼が手出しできない安全な場所はあの(ほこら)以外になかった。龍門の毒気が消えてなくなれば、拘束(こうそく)されていない霊体はここに戻って来れるはずだと錫は()んだのだ。

 ──「神様、私の予想(よそう)的中(てきちゅう)しますように…」錫は(みにく)いウロコの皮膚(ひふ)と化した龍門の額に聖水を〝ぽたぽた〟と()らした。

「………どうだい?」あとを追いかけてきたミツが(おそ)る恐る錫に尋ねた。

「…おかしい……戻らない。乾丸先生も越知さんもみるみる元の肌に戻ったのに…」錫の(ほほ)余裕(よゆう)のない(けわ)しい顔つきに変わった。

「やっぱり…」ミツは(ふく)みのある物言(ものい)いで〝ぽそり〟と(つぶや)いた。

「えっ?おばあちゃん…やっぱりって?」

(かく)たるものはないんだよ…。ただね…私は(いち)さんが呪われた理由がどうしても()に落ちないだけなんだ…。どうして一さんだったのかがね…。もしかすると一さんは、乾丸よりもっとやっかいな奴に呪われたのかもしれないよ…」顔を(しか)めているミツを見て、錫の不安は(つの)(いっ)(ぽう)だった。

 こうなれば祠に引き返して龍門を連れて帰るしかない。取る物も取りあえず部屋に戻って肉体から離脱(りだつ)した錫だったが、もう一つやり残していたことに、はたと気がついた。

 ──「いけない…信枝と綿のことをすっかり忘れてた」黒の国に向かいかけた錫は、一旦行き先を変更(へんこう)して、信枝の家へと急いだのだった。




 Ⅱ


 錫は信枝の部屋へそっと入り込んだ。純和風(じゅんわふう)の信枝の部屋には、一般的な女の子が好みそうな物は一切(いっさい)()いていなかった。部屋の(すみ)に置いてある(たけ)の低いタンスの上には空手道大会で勝ち取った豪華(ごうか)なトロフィーが窮屈(きゅうくつ)(なら)べられてあった。壁を見てもアイドルのポスターなどは張られていない。その代わりヌンチャクやトンファ、棍棒(こんぼう)などの武器が(かざ)られ、その少し上には優勝、準優勝の賞状(しょうじょう)がズラリと(がく)(おさ)めて並べられていた。

 信枝のことだから、もし錫雅尊の写真でもあれば、等身大(とうしんだい)に引き伸ばして壁にベタベタと張っていたことだろう。いやそれではまだ()らずに天井(てんじょう)まで錫雅尊だらけにするに違いない──と錫は勝手に想像するのだった。


 信枝は枕を()いて熟睡(じゅくすい)していた。錫は時間のことをすっかり忘れていたが、今は人間の世界では真夜中だ。

 ──「すっごい寝ぞう…。そういえば旅行の時も、信枝におもいっきり頭を()られたっけ…」錫は心の中でクスクス笑った。それからゆっくりと信枝の横に座ると、念を送って綿に声をかけた。

「綿…綿…聞こえる……?」

「はい…聞こえてますよ!こんな時間にどうなさったのです?しかも錫様のお姿のままで…」

「あ…これ?離脱(りだつ)していない信枝には私の姿は見えないと思って」軽くウインクして錫は話を続けた。「解毒(げどく)する聖水(せいすい)を手に入れたのよ。これであんたも自由になれるわ」

「………はい…」どこか返事に元気がない。

「どうしたの?(うれ)しくないの?」

「い、いいえ…嬉しいに決まってます…。ただ…信枝殿の中もまあまあ悪くないかなぁ~っと…」

 ──「ふふ…そういうことか…分かりやすい。強がりなところは信枝と一緒ね…」

「またいつでも一つになれるわよ。信枝だって綿と一緒にいて悪い気はしなかったと思うけど?」

「そ、そうでしょうか!?………い、いや…あたいは誰にも(したが)いませんが…」

「はいっはいっ!とにかく聖水をかけるわよ」錫は信枝の手にポタポタと聖水を垂らした。

「うん!これでよし!じき信枝から出られるよ。じゃ、私は急ぐから信枝によろしくね…」

「あ、あの…錫雅様はどこへ?」

「またまた地獄よ…パパを助けに行かなくちゃ!」

「あっ、あぁ…はい…。ありがとうございました…」

 錫は天から黒龍を呼び出すと、今度こそ黒の国へと旅立って行った。


 


 ★


「よいな…奴は必ず現れる。そしたら一気(いっき)にたたみかけろ!」堕羅の亡霊たちは蚣妖魎蛇(しょうようりょうじゃ)の言葉に(したが)った。亡霊といっても、その容姿(ようし)(へび)(むかで)だ。人間として生まれながら、どうして死した後このような姿に(なり)を変えたのか──それは彼ら自身も知らぬことだった。

 堕羅の大門の入り口では、何百もの亡者たちが大門の封印を阻止(そし)しようと()(かま)えている。この場所がもうじき戦場となるのは明らかだった。その(いくさ)の火付け役となる堕羅の大門の門番は、何も知らずにこの場所へ向かおうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ