表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/56

第10章──手がかりⅢ

 Ⅳ


 円満(えんまん)の城は天気流(てんきりゅう)を渡ったすぐ近くに存在する小さな古城(こじょう)で、金ピカなかざり物など一つもないお粗末(そまつ)な城だった。

 天気流を渡ってきた魂の中で、白く発光はっこうするはずの魂が点滅てんめつした場合、その魂はいったん円満の城に連れていかれる。錫もどうしたわけか点滅発光てんめつはっこうしてしまったので、例外(れいがい)なく円満の城で取り調べられることになった。がらんどうに近い簡素(かんそ)な大部屋に通された錫は、二体の鬼に監視(かんし)される中、言われるまま部屋の中央に立った。すると、それまで錫雅尊だった錫の姿が、本来の錫の姿へと戻ってしまった。内心驚くも、そのまま待っていると、どこからか金の装束(しょうぞく)(まと)った恰幅(かっぷく)のいい大きな男が現れた。手にしゃくを持ち、かんむりのような祭帽さいぼうかぶっている。燃えるような真っ赤な肌、大きく見開いたまなこ(かいこ)のような太い眉毛(まゆげ)たくわえたその大男が(けわ)しい表情で錫を上から(にら)むその(さま)は、どこかで見たような記憶があった。

 大男は錫の目の前にあった大きな木製のイスにどっかりと座ると、見た目とは違う落ち着きのない口調(くちょう)で話し出した。

「恐くないよ恐くないよ。かわいそうにね…お嬢ちゃんだったんだね…うんうん。後で鬼たちを(しか)っておくからね…うんうん…」と、こんな調子(ちょうし)だ。「おじさんは顔は恐いけど優しいからねぇ、うん…。これでもここの大王様だったりしてねぇ~…お嬢ちゃん、ぐふふふ」拍子抜(ひょうしぬ)けして恐怖心のなくなった錫は、思い切ってこっちから質問してみた。

「私はこれからどうなるんですか?」

「ごめんねお嬢ちゃん、先に終わらせようか?…ね、ね」大王は手に持っていた帳面(ちょうめん)を錫に向けて一振りした。すると、錫の心の中である物語が始まった──。


 錫は貧乏(びんぼう)な家庭で育った娘だった。もうすぐ誕生日を迎える父親に(あたた)かい服を買ってやりたいが、家にはそんな余裕(よゆう)はない…。ある日金持ちの知人宅に(まね)かれて遊びに行くが、階段の(おど)り場でお札を一枚拾う──錫には大金だった。だが錫は拾ったお札を正直に知人に手渡した。

 次に錫はいつも自分をイジメていた友人が、逆にイジメに()うという場面をむかえる。錫は友人から受けた(むご)仕打(しうち)ちをすべて水に流し、その友人に手を差し()べた。そこで錫の物語は終わった──。

 大王は手ぬぐいを片手に、目を真っ赤にして泣いていた。

「はい!お嬢ちゃん合格、お嬢ちゃん合格…。なんにもない…なんにも出てこない、んーんー…」大王は一人で納得(なっとく)しているが、錫にはちんぷんかんぷんだ。どうなっているのかと(たず)ねてみると、大王は側近(そっきん)の鬼に説明するよう命じた。

 鬼の説明によると、被験者(ひけんしゃ)に何かしらの物語を与え、その結果によって、天国か地獄かに分けられる──所謂(いわゆる)(さば)きだ。心の(ゆが)んだ魂は、拾ったお札を必ず自分の(ふところ)に入れようとするし、イジメられた人間には、ここぞとばかりに何倍にもして復讐(ふくしゅう)しようとするらしい。ここは公平(こうへい)円満(えんまん)に裁きを()(おこ)うところから──円満の城と名が付いていた。

「お嬢ちゃんは心がきれいきれい。白の国に行っていいからね…うん」()()()()と優しい大王は、錫が黒の国に行きたいと言いだすと驚いて止めにかかった。それでも錫が(ゆず)らないので、大王は(あきら)めてこう言った。「お嬢ちゃんの魂はきれいだから問題ないのよ…。その点滅は、おそらくお嬢ちゃんに助けてほしい憑物が(ひそ)んでいるからだと思うの。でもお嬢ちゃんが黒の国に行くんなら、わざわざ取り出す必要もないから(ほう)っておきましょう。はい、もう解放(かいほう)よ、お嬢ちゃん」


「と…こんな調子だったの…」

「理解できたわ。大王様が言ってた憑物って矢羽走彦だったのね?」

「うん、そういうことよ。私の中にいたなんて、ちょっと気持ち悪いけどね…」

「本当です…。矢羽走彦の奴、許さんですけん」いしはかなりご立腹(りっぷく)だ。

「とっておきはね、大王様の最後の一言なの…『お嬢ちゃん、私はここでは円満(えんまん)大王(だいおう)だけど、人間界では閻魔(えんま)大王(だいおう)と呼ばれて恐れられているのよ』だって。ね、おかしいでしょ!?」これには智信枝栄もお腹を(かか)えて笑った。

「エンマンの大王がいつしかエンマ大王になったのね?うふふふ…」

「しかも顔は閻魔大王なのに、イメージは(まった)く違うんだよ。きゃはは」いしは楽し気な二人を(あたた)かく見守っていが、綿は相変(あいか)わらず我関(われかん)せずだった。


 それから智信枝栄は浩子の体が恋しくなったと笑いながら帰っていった。錫は部屋の(すみ)ですましている綿に声をかけた。

「ねぇ綿…信枝の様子(ようす)を見に行ってくれない?綿も気になってるんでしょ?」

「……はい、分かりました。だったら、ちょっとだけ信枝殿と話してきてもいいですか?」

「どうぞどうぞ。ご自由に」そこへいしが割り込んできた。

「また余計(よけい)なことを吹き込むなよ!」綿はムッとした。

()()()の悪いこと言わないでくれる!」

「お生憎(あいにく)だが、わたくしは()()だ」綿はまたまたムッとした。

「…………ふんっ!」綿は(おこ)って尻尾(しっぽ)をぴんぴんと()ると、とっとと部屋から出ていった。

「もう…いしってば!ダメでしょ…喧嘩(けんか)ばっかりして」

「すみません…。あの雌狛(めすこま)…どうも鼻についてしまって…」

「女の子をイジメちゃダメだよ」

「イジメられてるのはこっちですけん…」

「あのねぇいし…よく聞きなさいよ…」

 トントン──。ノックの音で話は打ち切りになった。いしはお小言(こごと)(まぬが)れてホッとした。

「あたしだよ錫…」ドアの向こうからミツの声がした。

「あっ、おばあちゃん!ちょっと待ってね…」錫は大急ぎでドアを開けた。

「わーい、おばあちゃん……お帰りなさーい!」錫は思い切りミツに抱きついた。

「あ~……そんなにきつく抱きついたら…あばらが折れる…」ボキッ──!

「いててて…」。「えっ!?……お、おばあちゃん…」

「ははは……ウソだよ!これだよ、これ…」ミツはそう言いながら悪戯(いたずら)っぽく手に握っている物を見せた。

「へっ、()(ばし)!?」

「部屋で弁当を食べててね…割りばしを持ったままここへ来ちゃったんだよ。あんたが強く抱きつくもんだから、からかって手で折ったんだ。あっはっはっは…」

「もう、おばあちゃんたら…のっけから冗談きついよ!」


 ミツは()れ立てのコーヒーを一緒に飲もうと、錫を自分の部屋に誘い、ひと息吐()いたところで錫に尋ねた。

「ところで…あんたどこへ行ってたんだい?」

「………………地獄」錫はコーヒーを一口すすってから答えた。

「ふぅ~ん……そうだったのかい…」。「驚かないの!?」冷静(れいせい)なミツに錫の方が驚いた。

「あんたは生きたまま天国に行った英雄(ヒーロー)じゃないか!今更(いまさら)何を驚くんだい?」ケロッとして答えるミツに、錫は〝腹の()わった婆さんだ〟と(あらた)めて感服(かんぷく)した。

「それで…何しにそんな()()()な場所に行ったんだい?」

「へんぴって……その表現かなり違和感(いわかん)あるよ」くすくす笑いながら、錫はあらかたの経緯(いきさつ)をミツに説明した。

「相変わらずあんたって子は……まるで冒険物語を聞いてるみたいだよ…」

「ニコニコしながら聞いているおばあちゃんの方がスゴいわ!」

「あんたの話だと、地獄行きの表向(おもてむ)きの目的は〝なんとかの玉〟を見つけることだけど、本当は(いち)さんを助ける手がかりがほしかったってことだね?」

「そう。それにパパを助けられれば乾丸先生も助かるでしょうからね」

「うーん……私はそこがどうも引っかかるんだがね…」

「ちょっとおばあちゃん、何が引っかかるの?」

「んむ……ちょっと私も調べてみたんだけどね…。どうも一さんの呪いは(みょう)なんだ…」

「どうして…?どうして妙なのおばあちゃん?」

「今はなんとも言えないよ…ただ私がそう思っているだけだからね…」ミツはそれ以上のことは語らなかった。




 Ⅴ


 身体を休めて霊気を存分(ぞんぶん)(たくわ)えた錫は、白龍に乗って、一人須勢理毘売(すせりびめ)の住む白の国へと急いだ。

 須勢理毘売の住んでいる場所は、錫の記憶にしっかり残っている。白の国は足元一面を白い(もや)雲海(うんかい)(ごと)(おお)っているので入り口は見えないが、ある地点から先は、地下へと続く(ゆる)やかなスロープになっている。完全に地面の下に(もぐ)ると、四方(しほう)すべてが(もや)(かこ)まれたトンネルが現れて、その突き当たりには、やはり靄でできた(とびら)がある。これを一気に突き抜けると、広いドーム型の空間が待っている。その中央にある小さな“かまくら”型の部屋が須勢理毘売の住まいだ。

 錫は自分の記憶に満足しながら、ぽっこりとした須勢理毘売の部屋まで辿(たど)り着いた。少し(きん)(ちょう)()()にそっと中を(のぞ)きかけると、須勢理毘売はとっくに錫の気配(けはい)を感じ取っていたらしく先に声をかけた。

「わざわざ私を訪ねて来るとは…何かあったのですね?さぁ、()()で疲れたでしょう…中にお入りなさい…錫」(あった)かい須勢理毘売の言葉にほっこりした錫は、木札を片手に今までの経緯(いきさつ)()()まんで説明した。須勢理毘売は、錫が話し終わるまで(いっ)(さい)口を(はさ)まなかった。

「……どうしてもこういうことに関わってしまうのですねぇ…あなたは…」

「そうみたい……だからね、須勢理毘売様お願い。なんでもいいから教えて!」

「わざわざ訪ねて来てくれたのです…私の知っていることをお話ししましょう」

「やったー!」錫は両方の親指を立てて喜んだ。


「まず(ほこら)(かぎ)ってのことですが、堕羅の大門の門番は、代々(だいだい)共通(きょうつう)してあそこに玉を隠します。理由は祠の魔物が玉を守ってくれるからに(ほか)なりません。残りの二つの玉は門番次第(しだい)です。もっと詳しく説明しましょう…」錫は一言も聞き()らすまいと、しっかり両耳を立てた。「二つの短文〝地獄からムカデの鬼が来る〟〝ひらひら散る木の実は鬼様も飛びつく実〟この二つの短文は、門番が隠した玉の在処(ありか)(しめ)したものに違いありません。なぜなら〝大門の赤鬼は(ほこら)(いずみ)()んで襲われる〟──この短文が、歴代(れきだい)の門番が玉を隠してきた在処を示しているからです。ここまでの説明は分かりますか?」

「うんうん…分かる。一つの短文が堕羅の玉を示しているということは、残る二つの短文も堕羅の玉を示していると考えて間違いないということでしょ?」

「さすが錫です。もし玉の在処を示すヒントがなければ、三つの玉を見つけ出すことなど不可能(ふかのう)です。虎慈(こじ)(さま)は玉の在処をこの短文に(たく)したのです。答えに辿り着けば玉が見つかるように…」

「答えに辿り着けば……か…。それが(むずか)しいのよねぇ」

「そうでもありませんよ。運の良いことに、ムカデとくればこの神というお方がいます──須佐之男(すさのおの)(みこと)です!」

「ひゃ~!あの須佐之男命!?須勢理毘売様のお父様!?」

「うふふふ……それは神話(しんわ)でのお話──実際は親子などではありません。神話に登場する神々(かみがみ)の多くは、霊能力者や特殊(とくしゅ)技能(ぎのう)を持った人たちがモデルになっています。あまりにも事実と違いすぎて驚いてしまうこともしばしばあります。須佐之男命などはまさにそれかもしれません…」

「……そ、そうなのぉ!?」

百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)()かず──直接会いに行ってみるといいです…」

「会えるの!?──会います会います!どこに行けば会えるの?」

「白の国の最南端(さいなんたん)に堕羅と同じように、その一画(いっかく)だけ仕切られた広い世界があります。けれどそこは堕羅のように固く閉ざされてはいません。頼めば門番がいつでも開け閉めしてくれます。門の(わき)には祠がありますから、そこを(のぞ)いてごらんなさい」

「ありがとう須勢理毘売様。すぐ行ってみます!……でもその前にこれだけ教えて。最初に説明したように、須勢理毘売様を訪ねてきたのは由真乃(ゆまの)()(どり)(ひめ)様の居所(いどころ)が知りたかったからなの。門番だったおじいちゃんが無になってしまった今、その前の門番だった由真乃美鳥姫様は重要(じゅうよう)なカギになるかもなの…。もし推測(すいそく)どおり須勢理毘売様が由真乃美鳥姫様に領巾(ひれ)を貸したなら、お二人は知り合いだということなる…」

「残念だけどあなたの推測はみごとに〝ハズレ〟です…」

「にゃっ…」今まで期待していたものが一気に(くず)れて瓦礫(がれき)と化した。

「ポッキーのおじさんの言っていた蛇やムカデを追い払う道具は領巾ではなかったってこと?」

「いいえ、領巾に間違いないわ。それに私と由真乃美鳥姫との関係も、そして彼女の居所もすべて分かります」

「ホントに!?けどそこまで分かっているのに知り合いじゃないの?」

「えぇ…知り合いなどではありません。…ねぇ錫…私がどうしてこんなに堕羅のことに詳しいと思いますか?」

「……ん~っと……おじいちゃんに聞いたから!?」

「残念…違います。それはね──────私が由真乃美鳥姫だからです」

「……………へっ!?」錫の頭脳(ずのう)回路(かいろ)故障(こしょう)寸前(すんぜん)だ──。「ど、同一人物(どういつじんぶつ)…?」

「はい!由真乃美鳥姫は私が以前人間界で修行していた時の名前です。とっても気に入っていたので、白の国に帰った後もその名前を使っていました」

「…ちょっと待って……つ、つまりそれっておじいちゃんの前の門番が須勢理毘売様ってことよね…?」保鬼の言っていた門番が須勢理毘売だったことで、錫はいっぺんに視界(しかい)が広がったような気がした。「だから堕羅の大門のことをそんなに詳しく…。ねぇ、須勢理毘売様…他にも堕羅の大門の秘密を知ってるなら教えて…」

「錫…よく聞きなさい。本当は私が門番だったということも話してはならないのです。門番には(きび)しい守秘(しゅひ)義務(ぎむ)があります──門番から(やと)われた者たちが多くを語らないのも、その門番から厳しく口止(くちど)めされているからに他なりません。けれど、(わず)かずつでも情報を()てゆけば徐々(じょじょ)に形になりましょう」

「……そ、そんなぁ~…」せっかく大きな収穫(しゅうかく)を得られると思った錫は、肩透(かたす)かしをらってがっくりと項垂(うなだ)れた。

「これだけは教えて差し上げましょう──過去の門番は、もう門番ではありません。ですから私はもう祠には入ることができません」それを聞いて、ますます錫は肩を落とした。

「そんなに気を落とさずに…あなたは生きた人間の魂でありながら、破天荒(はてんこう)(こころ)みで白の国を救った英雄ですよ。自分を信じて前に進みなさい!」

「そ、そうね…私が(あきら)めてはいけないんだった──私が諦めない限り、必ず道はあるはずだもんね」

「分かったら、須佐之男命に会いに行きなさい。……そして、人間界に帰ったら、そのままお待ちなさい。私からあなたのもとに出向(でむ)きますから…」

「えっ…須勢理毘売様が…?」錫は須勢理毘売が出向いてくる理由が分からなかったが、とりあえず礼を言うとその場を立ち去った。


可哀想(かわいそう)な錫……それだけの手がかりで何を得られましょう…。たとえ私の知っていることを(すべ)てあなたに話したとしても、この先必ず大きな壁に突き当たるでしょう…。堕羅の大門の本当の秘密を……あなたはまだ知らないのですから……」須勢理毘売は、顔を(くも)らせて静かに(つぶや)いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 錫に言葉に勇気付けられてばかりです。 「諦めない限り必ず道はあるはず!」 ありがとう、錫ちゃん!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ