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第5章──伝説の待ち人Ⅱ

 伝説の待ち人Ⅱ



 Ⅱ


「天甦霊主様、お約束はお約束です。嘘偽(うそいつわ)りなくお話しくださいませ」

「…まさかそのような昔話とは…。そなたも、ちと冗談が過ぎますよ…」

「冗談ではありません天甦霊主様。スンから聞いた話なのですが、()羽走(ばしり)(ひこ)は天甦霊主様に(だま)されて(よう)(いん)の国に行き、白の国への抜け穴を封印(ふういん)したのだと話していたそうです。あくまでも矢羽走彦の話なので真実とは思えないとスンは言ってますが…」

「私が?矢羽走彦を騙す?」。「違うのですか?」

「………。錫が拗隠の国から邪身玉で戻って来たとき、私に邪悪の根元だった矢羽走彦を知っているかと尋ねてきたのです。私は答えに迷いましたが〝知らぬ〟と答えました。その事は錫から聞いたか?」

「いいえ、スンは余計なことを言う子ではありません…。それにしてもどうしてそのような嘘を?」

「矢羽走彦は無になったと聞かされていたからです…。分かりました…最初から話しましょう」

「ありがとうございます。天甦霊主様」約束どおり、天甦霊主の昔話が始まった──。



「その昔、矢羽走彦は白の国の四天王の一人でした。他に天翔虎(あまかけるとら)慈之(いつくしみの)(みこと)照陽(てらしはる)龍社(たつやしろ)王尊(のきみのみこと)がおりました。この二人のことは説明するまでもないですね…そなたも(のち)、この二人と共に四天王に加わるのですから」

「はい」智信枝栄はハッキリと返事をした。

「その四天王の中でも筆頭(ひっとう)だったのは泉坂(いずみさか)()(しずく)(ひめ)という霊神(れいじん)でした──〝霊力は(きわ)めて(こう)にして絶世(ぜっせい)の美女〟。あまりに非の打ち所がない霊神でしたので返って敬遠(けいえん)されるほどでした。矢羽走彦と照陽尊(てらしはるのみこと)は常に(かたき)同士……それも恋敵(こいがたき)…雫姫を巡っていつも(にら)み合いだったのです」

「恋敵……?天甦霊主様、それは白の国のご法度(はっと)…」

「そうなのです…白の国が(かか)える唯一(ゆいいつ)難点(なんてん)…。魂にも心がある限り愛することは()けられません。けれども一度(ひとたび)嫉妬(しっと)の念に()られると平和を害する元凶(げんきょう)にもなりかねない。(ゆえ)に〝何人(なんぴと)も愛してはならない〟…。愛することが元で白の国が瓦解(がかい)することを恐れて作られた(おきて)です…」

「想像の空間の中で望む物すべてが手に入る白の国でも、人の愛だけは代用がありませんから…。それ故に、愛する心は時に嫉妬になり(うら)みつらみに変わる。だからといって愛することを禁ずる掟を定めたとしても、湧き上がる感情を無理に(おさ)えることはできません──永遠に解決できない問題なのでは…?」

「そのとおりです。現にこの二人も霊神でありながら一人の女性を愛してしまったがために、嫉妬が生まれてしまったのです…」智信枝栄は錫雅尊に愛する気持ちを告白した時のことを思い出していた。

 愛することさえ許されないのに、告白までしてしまった自分に罪の意識は不思議となかった。あの時はもう無を覚悟していて、後悔(こうかい)だけはしたくないという思いに突き動かされての告白だった。けれども互いに生き残り、今は錫雅尊に気持ちを知られてしまった恥ずかしさだけが残っている。それが同時に錫であることが、智信枝栄を余計に恥ずかしくしているのだった。


雫姫(しずくひめ)を想う互いの気持ちは変わりませんでしたが、ある時矢羽走彦は人間界へと修行に出ました。何十年か後、矢羽走彦が修行を終えて帰って来た時、白の国は狡狗との(いくさ)の真っ最中だったのです。事態(じたい)を知った矢羽走彦も帰って来て早々参戦していましたが、暫くして忽然(こつぜん)と姿を消しました。そして拗隠の国の抜け穴が閉じたことで狡狗との戦も終わりを告げたのです。矢羽走彦は人間界から帰ったばかりの未回復な霊力で戦ったため、狡狗に捕まり無にされたと聞きました」

「それから暫くして後、錫雅様や私が現れるのですね?そして虎慈様(ひき)いる四天王が誕生する…」

「そうです」

「雫姫はどうなったのですか…?」

「雫姫も矢羽走彦が無になった後、どこかに姿を(くら)ましたのです」

「それが三角関係の幕切れですか…」

「錫から拗隠の国を牛耳(ぎゅうじ)っていたのが矢羽走彦だと聞いて耳を疑いました。無にされたとばかり思っていましたから…。まさかあんな場所で邪悪な霊神となっていたなどと聞かされて……正直に返答して良いのかどうか判らなかったのです…」

「それで嘘を?」

「そうです…。(やま)しいことがあって嘘をついたのではありません」

嘘偽(うそいつわ)りはないのですね…?」

「……?智信枝栄よ…まるで私は尋問されてるみたいではありませんか?」

「も、申しわけございません…そ、そんなつもりでは……」

「まぁよい……。それはそうとして、どうして矢羽走彦は私に騙されたと思っているのでしょう?」

「天甦霊主様がご存じないのに私には……。矢羽走彦から直接話を聞いたスンにお会いになったら如何(いかが)ですか?もっと(こま)かい情報を得られるかもしれません」

「そうですね…たまにはこちらから出向くとしましょうか…」




 Ⅲ


 仮にそれが自分だったとしたら、どうしてそう言われているのかを早く知りたい。錫は〝伝説の待ち人〟という言葉を初めて耳にしてから、さほど時間も経っていないのに、もう何日もほったらかしにされているような気分だった。

「その菓子箱に入っている古いノートには、親父が宇宙人さんと会った時の記録が細かく書かれてるんだ。その時の親父の心境(しんきょう)も事細かくなぁ…。だからわざわざ俺が話すこともねぇんだろうけど、一応説明するとな…」

「あんたぁ、そんな前置きはいいから…早く話しておやりよ!お嬢ちゃん早く聞きたくてそわそわしてるじゃないかぁ…」

「今からするんだ今から…まったく…」二人のやり取りを微笑(ほほえ)ましく感じていた錫だったが、吾郎の口からどんな話が飛び出すのか──大きな期待とわずかな恐さが、いつもより大きな鼓動(こどう)となって表れていた。



 男に完成したばかりの晶晶白露を手渡す時、泉治郎が言った言葉は〝自分の未熟さを見せつけられた〟──その一言だった。

 それ以外は(もく)したままで、自分から晶晶白露についても男の素性(すじょう)についても聞いたりはしなかった。

「いいや、素晴(すば)らしい出来映(できばえ)えだ!これならば晶晶白露の代用として充分役に立つ…」

「とても素晴らしい短刀とは思えないが…」

「素晴らしいのはそれだけではない。貴殿は余計なことを何も詮索(せんさく)しようとしない…人としても素晴らしい刀匠だ」

「刀作り以外の事を考えるのが億劫(おっくう)なだけだ」泉治郎は気取らずに答えた。

「そこでもう一つ、貴殿を信用して頼みたいことがある」

「わしもあんたを気に入った。できることは何でもするから言ってくれ」

「ありがたい。万が一だが、これから先…何年、いや何十年か先に晶晶白露のことを尋ねて来る者が現れるかもしれない。もしそれが私の血を引く者なら、晶晶白露について詳しく話をしてやってくれ」そう言って男は(ふう)もしていないごく普通の封筒(ふうとう)を差し出した。

「そして、あくまでも万に一つだが…そういうことがあれば…この封筒をその者に渡してやってほしいのだ」

「……承知した。預かっておこう…」



「そいつも菓子箱に入ってる………ほれ、その封筒だ」吾郎に言われて、錫はノートと一緒に収まっていた封筒を手に取ってみた。

「ほら…お嬢ちゃんの物だよ…」おかみさんが優しくそう言ってくれたので中を(のぞ)いてみると手紙のようなものが入っている。錫はそれを指でつまんで引っ張り出してみた。出てきたのは三つ折りにされた上質和紙だった。開いてみたが何も書かれていない。

 ──「何これ……?」理解できないでいると、いしが当たり前のように錫に(ささや)いた。

「ご主人様…どうして虎慈様はこんなものを書いたんでしょうね?」

「えっ!?………ここに何か書いてあるの?」

「あっ、はい……。あ~…たぶん霊気を強めればご主人様にも見えるはずですけん」いしの言うとおりにしてみると、たしかに白紙だった和紙に文字が浮かび上がってきた。


 もしもこれを読む者が、晶晶白露を探るためだけに訪れたならそれでいい。

 もしもこれを読む者が、晶晶白露の危機で訪れたならあるじに尋ねよ。


「なんじゃこりゃ……?」錫はますます意味が分からなくなった。

「ご主人様、旦那さんに尋ねてみられてはどうですか?」

「うん…そうする!」錫は手紙を握ったまま、吾郎の方へと向き直った。

「お嬢ちゃん…何て書いてあったね?」吾郎も気になるようだった。

「おじさん、私がここを訪ねて来たのは、晶晶白露がこの辺りで誕生したのを知ったからです。そして、それを知るきっかけになったのは…もう一本の晶晶白露が、歯の立たない相手と戦ったことなんです。こんな話を聞かされても何を言ってるのか分からないでしょうけど…とにかく…」

「お嬢ちゃん…ンなこたぁどうだっていいんだよ。(むずか)しいことは分かんねぇが…とにかく晶晶白露もお嬢ちゃんも危機なんだろ?…それで充分よ」

「かあちゃん…金庫から〝アレ〟………持って来てくれや!」

「あいよ!」待ってましたとばかりに、かみさんは金庫の場所へと飛んで行った。吾郎はその後ろ姿を見ながらにこにこと錫に語りかけた。

「もしも晶晶白露を知る者が何かに困ってここを訪ねて来たら、預かっている物を渡してやれと親父に言われていたんだよ…」

「だけど父さん…まさか本当に伝説の待ち人が来るなんて…。正直いうと、お爺によって生み出された虚構(きょこう)の伝説かと思ってた…」

「無理もねぇ…。俺だって目の前で見てなきゃそう思うだろうよ…」

「お待ちどうさん……ふぅ~」おかみさんは風呂敷(ふろしき)に包んだ何かを大事そうに抱えて戻って来た。「はい、これだよお嬢ちゃん。それにしても、本当にいたんだねぇ…。あたしゃ伝説の待ち人を見ないまま死んじまうのかと思ってたよ…」

大袈裟(おおげさ)なんだよ、おめえは」

「女はいつまでも夢を見たいもんなのさ。さっ、お嬢ちゃん風呂敷を開いてごらんよ」錫は次々差し出される謎の品々に期待半分戸惑い半分だった。そんな思いで風呂敷を開いてみると、長財布ほどの大きさの木札が三枚と、手のひらに収まるほどの小さな木札が一枚、それに今度はきちんと封をされている封筒が一つ収まっていた。おかみさんは小物入れからペーパーナイフを出してきて、さりげなく錫に渡した。「開けてごらんよ」

「ありがとうおばさん!」さり()ないおかみさんの気配(きくば)りを錫は嬉しく思った。封筒を開け中身を出してみると、さっきとまったく同じ和紙が一枚入っているだけだった。錫は少しだけチャクラを少し開いてみた。



 もしこれを読む者があれば、晶晶白露さえも(おびや)かす何者かが現れたということだ。

 万が一、それが堕羅と関わることなら木札を頼れ。

 記 燃える鍛冶                                     



 これを読んで平常心(へいじょうしん)でいられるはずがない。〝堕羅(だら)〟という字が目に飛び込んできた瞬間、錫はまたしても自分が大きな(うず)に巻き込まれたと感じた。

「お嬢ちゃん大丈夫かい?…何だか急に顔色が悪くなったようだが…」吾郎が心配して錫に声をかけた。

「少し休んでいくかい?」おかみさんも心配している様子だ。

「大丈夫です…。でも…どうやら伝説の待ち人って私に間違いなかったみたい…」

「そうだろうともよ。俺は一目見てそう感じたんだ…」

「おじさん、おばさん、これ頂いて帰っていいですか?」

「当たりめぇよ!そいつは預かってただけで、お嬢ちゃんに返すのが筋ってもんよ」

「これも何かの(えん)だからね…。必ずまた顔を見せておくれよ」

「ありがとうおじさん、おばさん。ありがとう亜良易さん」錫は何度も礼を言い、後ろ髪を引かれる思いで久間谷家を後にした。


「行っちまったなぁ……娘が生きてりゃ、あんな可愛らしい子になってたろうかなぁ…」

「亡くなったあの子が伝説の待ち人になって会いに来てくれたのかもしれませんよ…」

「僕もそんな気がするよ…」

「まぁ、あれだ…。訳ありげな子だ。娘だと思って無事を祈ってやろうじゃねえか!」


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