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第6章──謎Ⅰ

 (なぞ)




 Ⅰ


 錫は自分の部屋のクッションの上に胡座(あぐら)をかいて必死で頭を(ひね)っていた。いしはそんな主人の姿を見ているだけで幸せだった。

「いし…これ見てくれる?」錫に呼ばれたいしは、目尻を下げて主人の(ひざ)の上にちょこんと座った。

「大きな木札が三枚と小さな木札が一枚…。大きな木札にはそれぞれ数字があるの…」木札の表側にはそれぞれ〝(いち)〟〝()〟〝(さん)〟と漢数字がふってある。錫は壱の数字が書かれた木札を裏返していしに見せた。

 《地獄からムカデの鬼が来る》

「これはどういう意味だと思う…?」

「……。ご主人様、弐の木札には何と?」錫は弐の札を裏返した。

 《ひらひら散る木の実は鬼様も飛びつく実》

「……すみませんがご主人様、参の木札も見せてください」錫は言われる参の木札も裏返した。

 《大門の赤鬼は祠泉(ほこらいずみ)飲んで襲われる》

「ご主人様、お気づきでしょう?この三つに共通しているものが何か…」

「〝鬼〟でしょ?」

「はい。鬼は地獄の獄卒(ごくそつ)とされています。ちなみに獄卒とは囚人(しゅうじん)を取り締まる下級の役人のことですけん」

「ふぅ~ん…。他にもいくつか堕羅に関する単語が(しる)されているわよ。ムカデとか大門とか…。これってやっぱり封印の玉を(しめ)すヒントかな?」

「その可能性が一番高いと思いますですはい。それでご主人様、小さな木札には何と?」

「ん~っと……これにはね表に〝(しるす)〟と書いてあるの…。そして…」錫はそう言うと木札を裏返した。

 《(けが)れなき器に清き泉をすくいて我にたらせよ》   

「ご主人様…いしにはどの木札の意味もさっぱり分かりません」

「私もちんぷんかんぷ~ん」錫は木札と木札をカチカチと鳴らして遊びだした。

「…こうなったら浩子に相談してみるしかないわね」早速浩子に連絡を取ってみると、浩子も錫に電話をしようと思っていた矢先だったという。二日後に会う約束を取り付けて電話を切ったが、だんだんとこの一件に(しば)られてゆく自分が恐くなってきた。できる事ならすべてが夢であってほしいと逃げ腰に考える錫だった。




 Ⅱ


 明日香(あすか)美鈴(みすず)の母、紗樹(さき)から連絡があったのは次の日の朝のことだった。錫はいしを(ともな)って急いで車を走らせた。

 今日も私だけで来ましたと恐る恐る錫が言うと、紗樹は(むし)巫女(みこ)さんが来るのを待っていたと喜んでくれた。

「ご主人様、たぶん綿の仕業(しわざ)ですよ。あの(めす)が紗樹さんの頭に細工(さいく)して、ご主人様に好意(こうい)を持つようにしたのでしょう」

「わぉ!やるじゃない綿」

「……」いしはいつでも綿に一歩先を越されているようで面白(おもしろ)くなかった──。


「ぐっ…うぅ…暗い…苦しい…。ここから出たい、ここから…畜生(ちくしょう)、ちくしょう~!」あぶら汗をかきながら叫んでいる美鈴と対面した錫は、(うった)えかけるように美鈴に話しかけた。

「ねぇ、私はあなたを助けに来たの…。刑務所で何かあったの?もしかして病死ではないの?」

「許さない…動けない…暗い、冷たい…」

 ──「だめね…これじゃ(らち)があかない…。一か八か晶晶白露を使ってみるか…」

「お母さん…また憑物がお母さんを襲うかもしれません。部屋の外で待っていてもらえませんか?」

「……はい。…分かりました」美鈴のことが心配でならない紗樹だったが、しぶしぶ部屋を出て行った。

 錫はチャクラを開いて憑物を見ようとしたが、やはりはっきりしなかった。

「いし、あんたはどう?憑物がちゃんと見える?」

「いいえ、わたくしにもぼんやりとしか見えんですけん」

「いしでさえダメか…。まぁ、ハッキリ見えなくても(まと)は分かるわ…」錫は晶晶白露を左手に持つと、慎重(しんちょう)に美鈴に近づいて行った。「そのままじっとしていてね…」そう言って晶晶白露を振り上げた途端、またも憑物は美鈴の肉体を抜け出し姿を(くら)ました。「やっぱりダメだ…」

 錫が(くや)しがっていたその時──キッチンから大きな音が聞こえた。

「行ってみましょうご主人様」。「うん!」顔を見合わせ大急ぎでキッチンへ足を運ぶと、紗樹が一足先にそこにいた。

「あっ、巫女さん。美鈴は大丈夫ですか?」

「憑物は美鈴さんの体から出て行きました。だけど、根本的な解決は残念ながらできなくて…申しわけありません…」

「追い出して下さっただけでも有り難いのですから謝らないでください。それはそうと、また缶ビールが転がり落ちました」

 ──「そうだった…。パパの一大事にかまけて、すっかり缶ビールのことを忘れてた」錫は聖霊師としての自覚(じかく)の無さを恥ずかしく思った。

「美鈴さんを助ける方法は必ず見つけ出します。それまで毎日西河(にしかわ)にビールを供えてあげてもらえますか?もしかしたら好物だったのかもしれませんから…」

「はい。言われたとおりにします」

「それと一つ聞きたいことが…。美鈴さんの部屋はもともとあの和室ですか?」

「いいえ、二階の南側にある日当たりの良い部屋が美鈴の部屋なのですが、あの子があそこを嫌うのです」

「嫌う?」

「はい…。何度も美鈴を部屋に戻しましたが、いつの間にか和室に()もってしまうのです」

「何かあるのかも。見せてくださいその部屋を…」


 階段を上がると部屋は四つあり、美鈴の部屋は紗樹が言うように日当たりが良く明るかった。

「下の和室よりこの部屋の方がずっと居心地が良いと思わない?」錫は口ではなく霊力を使っていしに尋ねてみた。

「はい。嫌な気もありませんし……ここなら文句なしですはい。でもそれは生きている人間にとっての話です…。憑物にとっては悪い環境かもしれんですけん」

「う~ん…。憑物がこの部屋を嫌うのは環境が良すぎるから……か…」もっともだが、どうもしっくりこないらしく、錫は左の人差し指の先で、頭をとんとん叩いて何かを考えていた。

「お母さん…美鈴さんは取り憑かれる前からあの和室が気に入っていましたか?」

「特に感じたことはありませんでしたが…」

「そうですか…。やっぱり二階の環境が嫌なのかな…」何か一つでも聖霊に繋がる手がかりがほしいところだ。

 このとき錫は、憑物と化した西河良之(にしかわよしゆき)の魂を聖霊すれば、この一件は落着だと考えていた。だが実は、聖霊だけでは解決できない問題が隠されていることを錫は知らずにいた──。



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