第97話〜少女セツナ・上編〜
今回のお話しは上、中、下の3編構成で1話となります。
白い空間がそこにはあった。
広く、地平線すらないその場所に、7本の石柱、その中央には白い円卓がひとつ置かれていた。
その中央の円卓にある7つの席のうちのひとつに座る人物は指の先でりんごをくるくると回していた。
???「お、戻ってきた」
その声のあと、頭上に光の輪が現れ、そこから黒いフードをまとった人物が円卓中央に舞い降りる。
着地後、右手に持つ剣から放たれたエメラルドグリーンの光の粒が淡く消えていき、立ち上がり様
剣を一振りすると剣はどこかへと消え去ってしまった。
???「おかえり、どうだった??」
その問いかけに円卓から地面に降り、黒いフードに手を掛け顔を出す。
???「相変わらず、うじうじしていたわ」
そう答えた人物の髪の毛は薄い緑色をしており、目は鋭く、首元から覗く鎖骨には
鍛錬の後が感じられる。
???「そうかいそうかい、彼女らしくて何よりだ」
その答えを聞き流しつつ、その少女は問われた人物とは間反対の席に腰掛ける。
???「のんきだな、お前は」
???「君の方こそ、ずいぶんとえらそーな言い方をしていたじゃないか」
???「えらそーじゃななくて、イライラしてただけよ」
???「ははっ、彼に対してもイライラしてるのかな?」
???「そんなつもりはない」
???「そうだね、えらそーではあるけど、彼を守ろうとしている気持ちは分かるよ」
???「そんなことより、もう時間がない」
???「そうだね、思った以上に邪魔が入っているからね
想定外とは言え、僕らの務めは彼を無事に次の試練へと誘うこと」
???「いっそ今次に向かわせたらいいんじゃないか?」
???「うーん、それは出来ないよ、彼も言っていただろう?
前に進むと」
???「他に理由があるんじゃないのか?」
???「僕からこれ以上は言えない、運命に干渉すれば、全てが水の泡になってしまう
たとえこの先彼に何が起きるのか、知っていたとしても、ね」
???「だったら今、邪魔してきてるやつらはどうなんだ」
???「それはあいつなりの覚悟があるんだろう、僕とは違う覚悟が」
???「次にどうにもならなくなるとしたら、私はかまわない」
???「君を止める権利は僕にはないさ、さっきだって止めなかっただろう?」
???「わたしは間違いなく運命とやらに干渉した、はずが
お前がそういう顔をしているということは、私が助けに行くこと自体
元々運命で見えていた、ということか」
???「さあ、どうだろうね、僕の記憶もそろそろ限界にきているからね」
???「お前自身が始めたことだ、その責任は自分で背負え、だがな」
少女は席を立ち上がり背を向けたままその人物に問いかける。
???「ひとつ訂正しておく、私が守りたいのは、お前だ
彼を守ることはそのついでに過ぎない」
???「告白かい?」
???「馬鹿を言うな、お前に恋などするものか」
???「そうだね、僕に恋はしないほうがいい、君までこの運命に縛りたくはない」
???「もうひとつ言っておく、私はこうなった今を何一つ後悔してはいない
もし、お前がそれを悔いているなら、その後悔すら私が払ってやる」
???「ははっ、心強いね君は、安心して僕は僕の成すべきことを成せる」
するとその人物は立ち上がり持っていたりんごを一かじりし、少女に投げる。
そのりんごを掴んだ少女にその人物はこう言った。
???「禁断の果実っていう話を知っているかい?
世界に初めて生まれた2人が―――、あ」
その人物の言葉を遮るように、少女もりんごをかじる。
???「興味ない、が、このりんごは美味い」
少女の行動がどんな意味を持っているか、説明しようとした人物は苦笑いしながらため息をつく。
???「OK、君はそういう人だった、忘れていたよ」
???「何の話だ」
???「いや、なんでもないさ」
その人物は何もない天を仰ぎ、少女には聞こえない声でこうつぶやく。
「終わりは近い、僕のような後悔を、君はしないでおくれ…」
港町 商店街
千夜「や、俊也!!おいどうした!?」
俊也「――、ん、へ、あ、え?」
千夜「急に目閉じて動かなくなって、何かあったのか??」
俊也「い、いや、何か話をしていたような、…、何だっけ?」
千夜「知らないわよ、全く、無駄な心配させんじゃないわよ」
二人はというと、翌朝真美の不思議な力によって一瞬にして港町へとやってきていた。
俊也はだめもとでノゾミのいるところに送れないか聞いてみたが真美いわく「疲れちゃうから無理」ということだった。
再び歩き出した二人は商店街を抜け、船着場にたどりつく。
俊也「それより、船、ありそうか?」
千夜「あるにはあるけど、問題は…」
俊也「金、か?」
千夜「珍しく理解が早いわね」
俊也「まあ、な」
千夜「とにかく、何か手っ取り早く金を――」
???「誰かその人捕まえてください!!」
その少女の声に二人が振り向くと大きな袋を抱えた巨体の男がこちらに息をきらしながら走ってくる。
男「どけっ!!!殺されたいのか!?」
男は腰にあった刃物を取り出し二人に向け突っ込んでくる。
俊也「千夜、危ない!!」
千夜「金鶴みーっけ」
そうしたり顔をした千夜は突っ込んできた男の刃物を交わしその腕を締め上げる。
「飛んで火にいる――」
千夜は男の顔面に容赦ない蹴りを一発入れると男は近くの出店まで吹っ飛ぶ。
「夏の虫っ、てね」
千夜は宙に飛んだ荷袋をきれいにキャッチする。
周囲からその手際に拍手喝采が巻き起こる。
そこに先ほど声を上げた少女がやってくる。
???「あの、ありがとうございました!!なんて御礼を言ったら…」
俊也「御礼?いやいやそんなものは――」
千夜「船賃、払ってくれないかしら」
俊也の言葉を遮るように千夜はあっけからんとその少女に答える。
???「え、あ、船に乗りたいんですか?」
千夜「そうなの」
???「私の知り合いに船乗りのおじさんがいるので、良かったらご紹介しましょうか?」
俊也「まじ?」
???「はい!恩人の頼みですから!」
少女は満面の笑みで俊也の不安をきれいさっぱりと払った。
俊也「そうだ、自己紹介がまだだったな、俺は俊也こっちは」
千夜「千夜様と呼びなさい」
俊也「こいつはちんちくりんとでも呼んでくれ」
千夜「誰がちんちくりんよ!」
俊也「初対面の、幼気な女の子に様づけで名前呼ばせるような奴が何を言ってやがる!」
千夜「ガキ、お前…」
千夜の殺気が俊也へと向けられ、とっさに防御姿勢をとる俊也。
???「あ、あの!!」
突如二人のやり取りを遮るように少女が声を出す。
???「俊也さん!千夜さん!喧嘩はやめてください!」
千夜「は?喧嘩なんかしてないわよ」
俊也「そう、理不尽にいじめられてるだけだ」
千夜「理不尽になんだって?」
???「わ、わたしセツナっていいます!!」
俊也「あ、あぁセツナちゃん、うん、よろしく」
俊也はセツナの剣幕にたじろぎ、挨拶を返す。
千夜「セツナ、いいかた早く案内して」
セツナ「わ、わかりました!こっちです」
俊也「え?ちょっ」
セツナは俊也の腕を引き、集まりだした聴衆の間を千夜を置いてすり抜けていく。
千夜の怒号が背後から聞こえるが、姿は見えない
俊也「セツナ!千夜がまだ――」
セツナ「いじめっこに負けちゃだめですよ!俊也さん!」
俊也「いや、まああれは俺たちなりのコミュニケーションの」
セツナ「わたしが守ってあげますから!」
セツナは俊也の返事を遮るように振り向きざまに笑顔を見せる。
俊也はその笑顔を見て、自然と自らの顔も笑顔へと変わっていく。
千夜「待てやこらぁぁぁあぁあぁあ!!!」
その大声と同時に宙を体をひねりながら二人の間を飛び越える千夜。
俊也「わわわっ」
俊也とセツナは目の前に着地した千夜に出していたスピードを緩め止まる。
セツナ「弱いものいじめはよくないですよ!」
千夜「だからいじめてないだろーが!!」
セツナ「いじめてました!」
千夜「このガキいい加減に――」
バキッ
俊也「するのはお前の方だ、千夜」
俊也は興奮する千夜の頭は小突く。
千夜「何すんだ!」
俊也「大人げないのはどっちだよ、セツナちゃんは何も間違ったこと言ってないだろ?
子供みたいに勢いに任せて、どっちが子供なんだかな」
千夜「ぐぬぬ…」
千夜は俊也の言葉にぐうの音も出ずに拳を握りしめセツナを人にらみする。
千夜「こなくそ!」
千夜は足元にあった木箱を蹴り飛ばし壁に充てる。
俊也「気は済んだか?」
千夜「はいはい、悪うございましたー」
俊也「分かればいいんだ」
ようやく落ち着きを見せ雑談をしている2人。
セツナ「危ない!!」
セツナの声で二人はセツナの方を見るとこちらに突っ込む勢いで
走りこんでくる。
俊也「セツナちゃん危な――」
次の瞬間、二人はセツナに体当たりをされる形で後ろに吹き飛ばされる。
直後、鳴り響く轟音。
俊也「いてててっ、一体何が――」
俊也はしりもちをついた状態で先ほどまで自分たちがいた場所に目をやる。
俊也「な――」
俊也は思わず言葉をなくす。
そこには見間違えるはずもない巨躯の存在、ギニムが地面を割り、こちらを見ていた。
ギニム『ヨウヤクミツケタ、カギ、モラウ』
その声を口火に上空を見上げる俊也。
そこには空を埋め尽くさんばかりのギニムの大群が跋扈し、街へと襲来していた。
千夜「まじか、これ」
千夜も上空を見上げ、思わず声がでる。
セツナ「な、なにが、一体…」
セツナは状況が呑み込めず、空を見上げ体を震わせる。
二人の状況をみて俊也は拳を握りしめ、目の前にいるギニムを見る。
俊也「さてさて、どうしますかね…」
俊也は額に流れる汗をぬぐいこの状況を打破する策をめぐらせる。
千夜「こんな大群、わたしだけじゃどうにもならないわよ」
千夜は即座に自分の戦力を隠すことなく俊也に伝える。
俊也「…、だよな」
俊也は次に震えるセツナを見る。
自分たちが助けた少女、今日出会ったばかりだ。
見ず知らずの自分たちの無理を聞いてくれた優しい子。
今、自分が何をすべきか、その覚悟を固める問いをセツナに投げる。
俊也「セツナちゃん、君はどうしたい?」
セツナ「わ、わたし…?」
セツナはその問いに困惑する。
しかし、次の瞬間、震える足を鼓舞するように手でたたきながらゆっくりと立ち上がる。
セツナ「街のみんなを、助けてください!」
俊也はその答えに千夜と目を合わせ、拳を振りかぶる。
俊也&千夜「「任せろ(なさい)!!」」
出逢いと、急展開、刻一刻と迫るタイムリミット




