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第96話〜願いの先に〜

逃れられない現実を、人は絶望と呼ぶ。


夜――海を航行する一隻の民間の船の甲板


刃界「姫、風邪を引きますよ」

ノゾミ「大丈夫、ほっといて」


そういわれた刃界は言葉を返そうとしたが押しだまり、近くのマストに背を預けノゾミを見守る。


あの日の別れから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

ようやく出会えたはずなのに、気づけば離れてしまっていた。

正直、今の自分の気持ちが分からない。

何をしたいのか、国にもどって何をなせるのかも考えることが出来ない。

俊也と一緒に行くと約束したはずなのに。

千夜の気持ちをちゃんと受け止めることも出来ていない。


ノゾミ「変わらないなぁ…、わたし」


ノゾミは地平線の彼方を見つめ、遠くにうっすらと見える大陸にいたころの事を思い出す。


5年前――


ゼバリース、王都噴水広場

ノゾミ「昇格試験??」

千夜「そ!とうとう私たちにもチャンスが来たのよ!」


そう言い放ち天に拳を突き上げる千夜。


アメス「どんな試験なんですかね?」

ヤオ「それなら、先輩から聞いたことがありますよ」


ヤオは肩から提げていたかばんから、使い込まれた一冊のノートを取り出す。

そのノートを何枚か捲り、話を続ける。


ヤオ「毎年内容は変えているみたいですが、大きく3つの場所があるみたいです」

ノゾミ「どんなのがあるの?」

ヤオ「えっと、去年はサルゲーノ山脈の洞窟、その前は孤島のタンゲロン島、

   3年前が霊峰キルケット、場所はこの3つで、内容はその年々で違うみたいです」

アメス「私、キルケットなら何度か行った事あります!」

千夜「キルケットって北の冬山だろ?」

アメス「あの山の頂上の雪は1000年以上溶けたことないんですよ」

ノゾミ「サルゲーノは南の活火山よね」

ヤオ「はい、今でも数ヶ月に一度、噴火してる危険な場所です」

アメス「タンゲロン島は、どんな所なんでしょうか?」

ヤオ「タンゲロンは歴史ある古都で、島の中央に古城があって出るらしいんですよ」

3人「「「出る??」」」


3人はヤオの言葉に声を合わせて反応を示す。


ヤオ「その城に住んでいた王族の――」

マリー「何を話してるのかしら?」

3人「「「ぎゃーーー!!!」」」


3人は突如後ろから声を掛けてきたマリー教官に、これまた声を合わせて驚く。


マリー「相変わらずバカみたいに仲良しね」

ノゾミ「きょ、教官!?」

アメス「それより、あの…」

マリー「?」


教官は首を傾げるノゾミ達をみても何も気づいていない。

が、マリー教官は噴水広場の水の中に足をつっこみ、腕を組んで堂々としていたのだ。


千夜「教官、何故そんなところに?」

マリー「何故って、何か問題でも?」

千夜「いや、…、あの、はい、大丈夫です、忘れてください…」


マリーの揺るがぬ態度に追求を諦める千夜。


ヤオ「教官、とりあえず回りの目があるので、出たほうがいいのではないでしょうか?」


マリー教官の奇行は当然周囲の目を惹き、聴衆はざわつきをみせている。


マリー「まあ、そうね」


教官はようやく事を理解し、水から出て4人の前に回る。


マリー「で、何の話?」

ノゾミ「昇格試験の話しをしていました」

マリー「ああ、そういえばもうすぐそんな時期ね」

アメス「私たちも、受けてみようかと考えているんです」

マリー「へぇ、あなた達が?いいんじゃない?」

千夜「教官、今年はどんな試験なんだ?」

マリー「言えるわけないでしょ?」

千夜「ケチ」

マリー「ケチじゃないわよ」

ヤオ「それより教官、先ほどタンゲロン島の幽霊の話しを――」

3人「「「い、やぁああぁぁぁぁあああ!!!」」」

マリー「あなたたち、そんな迷信を信じているの?

    幽霊なんているわけないじゃない?」


少し笑いながらそう答える4人は、同じことを思った。

寮塔に住む教官の母親は、幽霊ではないのか、しかし、4人は突っ込みを入れることはなかった。


マリー「それに、今回はキルケットだし」

ノゾミ「え、教官、それって…」

マリー「あ」


マリーは思わず試験場所を言ってしまったことに気づく。


千夜「キルケットか、へ~」

ノゾミ「キルケット、へ~」

アメス「キルケット、ですね~」


3人はマリーの揚げ足を取るように繰り返す。


マリー「ば、場所が分かったところで、夜営訓練することは絶対に教えないわ」

千夜「夜営訓練か、なるほどなるほど」

ノゾミ「夜営訓練、メモメモ」

アメス「夜営訓練、ですか」


またも内容をバラシてしまうマリー教官と3人のコントは止まらない。


ヤオ「教官もうしゃべらない方が――」


見かねて止めに入るヤオ、しかし――


マリー「心配しなくても、頂上に昇格試験の証を隠していることだけは、誰にも――」

千夜「頂上に証っと」

ノゾミ「メモはOKよ」

アメス「夜の冬山で夜営訓練しながら頂上に隠された証を探すのが今年の昇格試験なんですね」


最後にすべてをまとめたアメスの一言で、教官を言葉を失いその場に崩れ落ちる。

後に語られる、教官の唯一の敗戦歴「噴水広場の決闘」は、紐解けばこんなものである。




刃界「――め、姫、聞こえていますか?」

ノゾミ「―え、あ、ごめんなさい、何?」


ノゾミは刃界の声に我に返る、甲板の上、意識すると身体の芯まで冷え切っているのに気づく。


刃界「こちらを」


刃界がそっと自分の着ていた大きなローブをノゾミに掛ける。


ノゾミ「ありがとう、ございます」

刃界「やめてください、姫らしくないです」

ノゾミ「私、らしくない…?」


ノゾミは刃界の言葉に船室へ向かおうとしていた足が止まる。

瞬間――――――

船員「面舵いっぱーい!!!揺れるので甲板にいる人は何かに捕まってください!!」


その大きな声の直後、船は一気に傾き、甲板を大きな揺れと強い海風が襲う。

刃界は体勢を崩すノゾミを支え、甲板に降りかかる波しぶきから身体を守る。


刃界「姫!!大丈夫ですか!?」

ノゾミ「…なんとか――、え?」


ノゾミは声を掛けてきた刃界の背に見える大きな影に目を丸くする。

刃界も気配に気づき、ノゾミを手でかばいながら後ろを振り向く。


刃界「なんだ、あいつは…」


そこには船をゆうに越える大きさ、3倍くらいはある大きな壁が海上に現れていた。


船員「クラルケンだー!!」

刃界「クラルケンだと!?」


その声を聞いた刃界の表情が一気に青ざめたものになるのをノゾミは見逃さなかった。

声を掛けようとした瞬間、再び船体が大きく揺れる。

周りを見ると船体を縛るように海上から幾重にも伸びる腕は甲殻類のような棘が生え

船体を逃がさないように棘が船体を貫いていく。


刃界「姫、私の後ろから離れないでください!!」


刃界は船体に迫る腕からノゾミを守りつつ、船室のほうへと下がっていく。


船員「そこ危ないぞ!!」


船員の声に振り向くと、逃げ込もうとしていた船室の扉からクラルケンの腕が飛び出してくる。


刃界「姫っ!!!!」


ノゾミは迫るクラルケンの腕を目にし、まぶたを閉じる。

同時に下がっていた方向とは逆方向にあるマスト側へ刃界によって押し飛ばされる。


ノゾミ「痛っ、なっ――」


ノゾミは甲板に尻餅をついた痛みで目を開けると目の前には

クラルケンの腕を掴み応対する刃界がいた。


刃界「くっ、この…、刀が、あれ、ばっ…」


もがいていると刃界の右足に別のクラルケンの腕がその棘を刺しながら巻きつく。


刃界「ぐあっ!!」


足を持っていかれ体制を崩した刃界の隙を見逃さないように、

刃界が掴んでいた腕が刃界の身体を棘で斬りつけながら巻きついていく。


ノゾミ「刃界さん!!」


ノゾミは思わず銃を撃つ構えをする。

しかし、その手に銃は現れることはない。

とうとう刃界の首に腕が巻きつき、解こうともがくが逃れられそうもない。

ノゾミは何も出来ないとわかっていて刃界に巻きつくクラルケンの腕を掴む。

雨のように降り注ぐ海水に全身をぬらしながら必死に外そうとするが

クラルケンの腕はびくとも動かない。


ノゾミ「離、せ!!」


しかし次の瞬間、ノゾミはまた後ろに突き飛ばされる。


ノゾミ「なっ、なんで!?」


刃界はクラルケンの拘束を外そうと使っていた右手でノゾミを突き飛ばし

その右手も一瞬にして絡めとられ、完全に身動きが取れなくなる。


ノゾミ「やめて、やめてよ!!何で私なんかをかばうの!?

    私なんか、助ける価値なんて、ないのに!!」

刃界「ひ、姫…、逃げて、くだ――」


答えようとした刃界の口元すら覆いつくすクラルケンの腕は

刃界の全身を多い、甲板には刃界の血が大量に流れ落ちていく。


ノゾミ「じ――」


ノゾミは立ち上がろうとしたがその光景に言葉をなくし、

足にわずかに残った力で呆然と空を見上げる。


さらに降りかかる海水と、強風、気づけば落雷も落ちていた。


バリッ――――!!!


その轟音とともに船体中央にあったマストは落雷に打たれ、

ノゾミと刃界のいる方へマストが倒壊し始める。


さらに周囲に蠢いていた無数のクラルケンの腕はノゾミに迫り、

とうとう船室から後ろ半分はその重みに耐え切れず、

船は真っ二つに折れ、ノゾミの残る甲板も序々に沈み始める。


もう、ここで、終わるんだ――


ノゾミはすべての現実を受け入れ、

身体の力を抜く。


私の人生は人を傷つけ、人に守られ

人を欺き、人に裏切られてきた。


クラルケンの腕がノゾミの足の自由を奪う――


わずかに楽しいと思えたあの日々も

今という現実を守ることは出来ない。


さらにノゾミの手の自由も亡くす――


あらゆるものから逃げてきた私が

俊也に出会って、もう一度だけ、もう一度だけ前に進もうと

そう思えた。


腰から首まで絡みつく棘に肌を切り裂かれる――


でも、これまでの私が背負ってきた罪は

そう簡単に私を許してはくれない。


締め付けの強さで、呼吸すらままならない――


最後に、願うことが許されるなら

私は


酸素の供給が止まり、視界と思考がぼやけていく――


あなたの、行く先の幸せを、


縛られた身体と、死へと向かう心。


願う。


どうか


わた、しの


ねがい を


???「戯言を言うな、耳障りだ」


豪雨も轟雷すらすり抜け、声が耳に飛び込んでくる。


瞬間、海水の雨ではなく、小さな、光の刃の雨がノゾミと

船全体に降りそそぐ。


その刃は人を傷つけず、

クラルケンの腕だけを滅却していく。


消失する腕の欠片から、爆発するように

クラルケンの体液が吹き飛びあたりに飛び散る。


その腕から解放されたノゾミに

降り注ぐ光の雨は身体に染み渡り

わずかなぬくもりが身体を駆け巡り

斬り付けられた傷の痛みが和らいでいく。


呼吸が戻り、意識と視界を取り戻すノゾミは

目の前に倒れている刃界にも同様の現象が

起こっていることに気づく。


ノゾミ「いったい、何、が――??」

???「貴様か、先の戯言は」


瞬間、ノゾミは背後に気配を感じ、座り込んだまま振り向く。

そこには全身黒ずくめのローブを着た人物が立っていた。

しかし表情はその右手に握られている

エメラルドグリーンの紋様が刻まれた

長剣の放つ圧倒的な輝きにより伺うことが出来ない。


ノゾミ「あな、たは…?」

???「先に問うたのはわたしだ」

ノゾミ「あ、…その、えと…」


ノゾミはその威圧感になんと答えればよいのか、考えがまとまらない。


???「お前のように絶望する人間を何度も見てきた」


そう切り出した瞬間、折れたマストに絡みつき海上から浮上する

瀕死のクラルケンがその人物に今にも襲い掛かろうとしていた。


ノゾミ「に、逃げ、ないと…」


その人物はローブを翻し、クラルケンに長剣を向け相対する。


???「その度にわたしはこう言ってきた」


クラルケンが引き裂かれずにかろうじで残った腕を

その人物へと向け伸ばす。


???「人は弱い、されど――」


その人物の構えたエメラルドグリーンの長剣が

眩いほど輝き始める。

その光に一瞬、たじろぐクラルケン。


???「その弱さに立ち向かう強さも、人は等しく持っていると」


その輝きを放つ長剣を腰まで引き、構える。


???「これが、希望の光」


長剣の光が視界すべてをエメラルドグリーンの

輝きで埋め尽くす。


空気と音すら覆い隠し、周囲に静寂が流れる。


???「穿うがて、翠緑すいえんの輝きよ――

    エラスト・デザイアー!!!!!!!!」


その声が、音が世界に木霊し

刹那、クラルケンは音もなく消え去り

海は裂け、光を遮る雲さえ切り裂き、

闇夜だった絶望の世界は

その輝きにより、白夜のごとく

明るく、優しさに包まれた。


そのあまりの眩さに視界がぼやけ

目の前にいる人物の輪郭をかろうじで捉えるのがやっとだった。


???「この世界の希望が、絶望などに負けてくれるな。

    二度も助けはしない。

    次は、己が強さで、絶望を退け、

    そして希望のぞみを叶えよ」


その人物の言葉が耳に届き、ようやく視界が元に戻る頃には

その姿はどこにもなかった。


しかし、その言葉はノゾミの心に蠢いていた絶望を払い

希望という光で確かに包み込んでいた。




その現実(絶望)は人が生み出したもの。

ならば、その絶望を払うのも、人が生み出した希望に他ならない。

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