95.5話〜幕間〜
物語の裏側にあるもの。
再びの漆黒に覆われた空間を進み、その途中で上げた槍を振り下ろす。
漆黒の空間が切り裂かれ、その穴を通りぬけると、そこは懐かしい匂いがした。
その人物が来たことに気づいた女性は、読んでいた本をそっと閉じ、歩き出す。
千波「お帰り、来るんじゃないかと思ってたわ」
声を掛けた相手は手に持つ槍をしまい、千波の座っていた席の近くのイスに腰掛ける。
千波「…、大丈夫?アメス」
アメス「大丈夫です、私は…」
アメスの表情は影を落とし、視線は下を向いている。
千波「さっき、――と会ったわ」
アメス「!!」
アメスはその言葉に目を開き千波の次の言葉を待つ。
千波「あの子が、今の――と一緒にいるのね」
アメス「…」
千波「実は、その前に、――も来たのよ?」
アメス「何故あの少年が!?どうやってここに…」
千波「あなた、俊也くんをあの空間に置き去りにしていたでしょう?」
アメスは自分のしたことを思い出す。
千波「本当は、元の世界に還そうと思ったの」
千波はそういうと席を立ち、窓に手を当て、月を見上げながら話を続ける。
千波「でも、出来なかった、たとえあいつじゃないとしても
――に会えるならって」
千波はアメスのほうを見つめ問いかける。
千波「約束を、したの」
アメス「約束…?」
千波「そう、私の魔法、教えてほしいって、また、会いに来るって」
そう言った千波の表情は先ほどのアメスと同じで影が落ち、視線は下を向いていた。
千波「そんなこと、出来ないって、わかっているのに
駄目ね、その約束を、信じたい自分がいる」
アメス「…、ごめん、なさい」
千波は肩を落とすアメスの横にそっとすわり頭をなでる。
千波「あなたが謝ることじゃないわ」
アメス「だって、あなたをここに縛り付けているのはわたしの――」
千波はその先を言わせないようにアメスの口にそっと指をあて、遮る。
千波「わたしは望んでここにいるの、あなたのせいなんて思ったこと、一度もない」
アメス「――さん…」
アメスは千波の言葉に糸が切れたように涙を流し千波に抱きつく。
千波「久しぶりに、その名前で呼んでくれたわね?」
アメス「っ…」
千波はアメスと向き合い笑顔で答える。
千波「あなたがその名前を覚えてくれているから、私は千波でいられるの
だからあなたの名前は、私がずっと覚えている」
アメス「――さん…」
まるで泣きじゃくる子供をなだめるようにアメスの頭をなでる千波。
千波「大丈夫、きっと、私の知っている――が、助けてくれる
それはあなたの知るあいつが来るのと、きっと同じ」
千波はそっとアメスから手を離し、腕を一振り。
すると二人の周りにサンライトイエローの光の欠片を降らせる。千波「私は――を、アメスはあいつを、時が来るまで守りましょう
そして、あの俊也くんが、それを止めてくれること願って」
アメス「そう、ですね、千夜さん、ありがとうございます」
千波「いいのよ、でも気をつけて、あいつは今間違った道を進もうとしてる」
アメス「…はい」
千波「私はね、それを止めるのは――でも、俊也くんでもない、あなただと、思ってる」
アメス「わたしが…?」
千波「だって、あいつを誰より守りたいと思っているのは、あなたの心から生まれた
真実でしょう?」
アメス「そんな、ことは、今だって私は使われてるだけで…」
千波「肝心なのはあなたが諦めないこと、そうすればそのきっかけを
――が、俊也くんが、必ずそこに導いてくれる」
アメス「諦めない…」
千波「今、私たちが繰り返せる回数はもう底をついている、チャンスはおそらく…」
アメス「今回が、最後」
千波「でもね、私きょう、俊也くんに会って思ったの」
千波はアメスを立ち上がらせて、その両肩を掴み真正面から向き合いこう言い放った。
千波「あの俊也くんなら、もしかしたら――すら、越えちゃうんじゃないかって」
アメス「越える…?」
千波「可能性をね、これまでも何度も繰り返してきたはずなのに
最後というのもあるのかもしれないけど、
何とかしてくれるんじゃないかって」
アメス「何故、そこまで――の少年を、信じているんですか?」
千波「うーん、言葉にするのは難しいけど、ここに来た私を見たとき
私が俊也くんに向けている気持ちが、分かったからかな」
アメス「気持ち…」
千波「そう、だって私とあの子の気持ちは同じ――」
その真実を追い求めて人は一日一日を、生きていく。




