第92話 〜予知〜
またも夢
頑張ります。
第92話
予知
目の前のテーブルには暖かいミルクが一つ。
時間は既に夜、いや、もう真夜中であろう。
そんな真夜中に外で声を張り上げて頑張っている少年がいる。
その少年から師匠と呼び慕われている謎に満ちた女性は私の隣で呑気にお茶を啜っている。
今の状況を言えば先程の少年、俊也は必死に自分のチカラを使いこなす為に昼から今までずっとその練習をしている。
私も夕方くらいまでいたのだが、当人が冷えるから戻っていろ、と言うものだから小屋に戻った。
が、しかし今は何もすることがなく仮眠を取り、目が覚めたらテーブルには私に飲ませる為のか、湯気が出ているミルクがあったのだ。
それも余り飲む気にはなれずに黙ったままただ俊也の声を静かに聞いていた。
すると真実がゆっくりと飲み終わった湯呑みをテーブルに置き窓から外を見つめていた。
真実
「俊也君、頑張るわね」
千夜
「……」
私は敢えて黙っていた。
何しろ普段ならもう寝ている時間、体のだるさに話すのも嫌になっていた。
するとその意を汲み取ってか真実は軽いため息をついただけで問い詰めて言ってくるような事はしてこなかった。
私はそろそろ本当に寝ようかと思い一度腕を上に伸ばした。
真実
「千夜ちゃん、俊也君にそろそろ帰ってくるように言ってきてくれないかしら?」
千夜
「私、が?」
私は何故か答えてしまった事に後悔した。
真実
「私が行くより千夜ちゃんの方が説得出来るでしょ?」
確かに、私はこの謎に満ちた女より俊也を説得出来る自信はあった。
千夜
「まぁ……」
するとこれ以上何も言う必要はないと言いたいのかただにこりと笑った後真実はまた座った。
私もそれを見たからではないが立ち上がり部屋を後にした。
吹き抜ける風が幾分か冷たさを増した気がした。
辺りは真っ暗で辛うじて小屋から差す明かりで見える程度。
たぶんかなり遅い時間になっているだろう。
でもまだ辞める気にはなれなかった。
あの師匠の言った時間が妙に努力しろという意味で解釈してしまったためか今では5分程度までその記録は伸びている。
俊也
「これだけやって、たった5分か……情けないな俺」
千夜
「本当だわ」
俊也
「わっ!?」
突然背後から声がして振り向いてみると眠そうに欠伸をしながら千夜が立っていた。
千夜
「驚き過ぎ、早く戻るわよ?」
千夜は小屋を指差しながらだるそうにしている。
俊也
「あー、いや、俺はまだやってるから……」
千夜
「頑張りたい気持ちは分かるけどさ」
千夜はそう言うと休んでいる俺の横に座った。
千夜
「俊也、そんなに会いたい?」
俊也
「え?」
俺は急に言われて戸惑いを隠せなかった。
千夜
「会いたい?」
千夜はこちらをじっと寝呆け眼ではないしっかりとした眼で見てくる。
俊也
「……会いたいよ、千夜は違うのか?」
千夜は一瞬眼を見開くと顔を背けた。
千夜
「私は……、分からない」
俺は千夜の過去を思い出し、その先を聞くのを止めた。
俊也
「心配して来てくれたんだろ?ありがとな、俺はまだ平気だから、千夜は戻っ――」
千夜
「違う!!」
千夜は突然怒鳴り声を上げて睨んできた。
千夜
「私はあんたなんか心配してない!!あいつにも会いたくない!!でも、でもあんたがあいつに会いたいって言うから私は、私はっ……」
千夜はそう言うと小屋に向かって走りだした。
俊也
「千夜!!待てって!!」
俺は思わず手を伸ばし千夜の腕を掴んだ。
千夜
「何!?」
千夜は腕に力を入れて引き離そうとしているので必死に力を入れる。
俊也
「えー、その、ごめんっっ!!」
俺がそういうと千夜の抵抗する力が止まり、二人の間に沈黙が流れた。
千夜
「……」
千夜はゆっくり俺の手を話立ち尽くしている。
俊也
「俺、勘違いしてた、千夜も同じ気持ちだって。でも千夜はそうじゃなかったんだな?」
千夜は俺の問いにゆっくりだけど迷いがあるように頷いた。
俊也
「無理、しなくていいよ、俺は一人でも会いに行く、でも、俺はまだ、弱いから……千夜に着いてきて欲しいんだ。だめか?」
俺は言っていて途中で恥ずかしくなり自分の頬が熱くなるのがはっきり分かった。
すると千夜はいきなり力が抜けたようにへなへなと俺の前に座り込んだ。
千夜
「あんたは、正直過ぎるのよ、私の気持ちを分かったように言って……」
俊也
「ごめん…」
千夜
「本当に勝手……」
俊也
「ごめん」
千夜
「分かったわ」
俊也
「へ?」
千夜は突然俯いていた顔を上げて真っすぐに見つめてきた。
千夜
「私が会いたくないのは本当、でも、俊也の為なら、仕方ない、でしょ?」
俊也
「え、あ、でしょって言われてもなぁ……」
俺は何故か知らぬまに何かを決められたようでうまく答える事が出来なかった。
すると千夜は立ち上がり一言。
千夜
「私はもう戻るけど、まだ頑張るの?」
俺は急に最初の話題に戻ったが冷静に考えて答えた。
俊也
「いや、戻るよ」
千夜
「そっ、じゃ、行くわよ」
そう言うと千夜は待つ素振り一つせずに歩いていく。
俺もその後を追って小屋に戻った。
ガチャ、バタン。
俺達が小屋にある部屋に戻ると真実さんの姿はなく、テーブルの上に手紙らしきものがあった。
俊也
「……、何て書いてあるんだ?」
千夜
「は?貸して」
千夜は横から手紙を奪うとしばらく目を通してから言った。
千夜
「あんたはこの部屋で寝ろってさ」
俺は何となく納得したが一つ疑問があった。
俊也
「千夜は?」
千夜はしばらく黙ってから答えた。
千夜
「あいつの部屋だってさ、んじゃ」
そう言うと千夜は部屋を後にした。
俊也
「ふぅ、疲れたな……」
ドサッ。
俺はベットに倒れこんだ。
正直、自分なりにこんな努力をしたのはいつ以来だろう。
昔は思い出せないけど、たぶんしていない気がする。
何故か今の自分は昔を思い出すのに余り固着していないことに気が付いた。
ここに来る前はそればかり考えていた筈なのに。
人間、今が必死だと忘れる事もあるんだな。
今考えてみても過去の事が気にならなくなっている。
俺は考えるのも疲れてきたので毛布を被る。
俊也
「寝よ……」
真っ暗。
すべてが暗かった。
明かりがあるとかではなく、空間がなかった。
けれども自分はそこに立っていた。
そして目の前に続いていると分かってしまう道。
ここってこの間視た夢の中?
俺はこの間の夢を思い出し急に寒気がし後ろを振り向いてみた。
が、後ろには何もいないというよりなかった。
すると急に体が宙を飛ぶように移動し始めた。
な、何だ!?
次の瞬間、目を開けると目の前に座っている人がいた。
う、わっ!?
俺は尻餅を付いたと思ったが、体にそんな衝撃は無かった。
すると目の前にいる誰かが喋りだした。
???
「準備は出来たか?」
は?準備?何言ってんだ?
俺が声を出そうとしたら背後から女性声が聞こえた。
???
「はい、もう平気です」
俺は後ろを振り向いて見るとそこには頭を下げた髪の長さしか分からないが女性がいた。
???
「そうか、出来るだけ足止めをするんだ、それ以上は何もするな」
???
「………」
何故か返事をしない女性。
俺は口を挟む前に気付かれていないようなので黙っている事にした。
???
「不満か?」
???
「いえ、そのような事は……ただ、足止めするだけ、ですか?」
俺の前に座っている男は少し黙ってから言った。
???
「まだ、まだ今は計画が崩れなければ好きにさせるだけだ、分かっているだろう?ア――」
???
「やめてっ!!」
急に女性は声を張り上げて言った。
???
「その名前で、呼ばないで、ください……」
男は少しため息をつき立ち上がり女性の方に歩いていく。
???
「そんなに嫌いか?あの人達を苦しめている僕が」
俺はこの僕、という主語がすこし可笑しいと思った。
???
「……、何で、こんな事をしなきゃいけないんですか?」
女性は悲しい声で聞き返した。
???
「やらなきゃ、僕がやらなきゃいけないんだ、この計画が終わればあの人達を解放する、だから協力してくれるか?」
???
「……、はい、分かりました」
女性が納得したのを見ると男はまた椅子に座った。
???
「彼に死なれたら困るんだ、彼は大事な……」
そこまで男が言うと俺の意識は突然途絶えた。
俊也
「………」
俺がゆっくり目を開けると窓から朝日が差していた。
俊也
「何だったんだ?あの夢……」
あそこまで現実感のある夢は二回目。
気になるけど、考えても分かりそうにないしな。
俺は体を起こすと寒さを吹き飛ばすように小屋の外に向かった。
第93話に続く
予兆




