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第91話 〜出発〜

兆し

出発

カン、カン。

工事現場で聞こえるような音が鳴り響き耳が痛い。

俊也

「何で俺がこんなことを……」

そう、そうなのだ。

今俺が何故ドアを釘で打ち付けて直しているのか、その理由は5分前に遡る。



俊也

「あれ?」

俺達は昼食の為に小屋に戻り部屋に行くと物の見事にドアが打ち壊されていたのだ。

千夜

「げっ」

真実

「あら、そう言えば忘れてたわ」

どうやら犯人の予想は付いているようだ。

俊也

「……、千夜だろ」

千夜は既に小屋の入り口まで逃げていたがそこで振り向いた。

千夜

「いやー、つい」

真実

「千夜ちゃん、壊したんだからちゃんと直してね?」

真実さんは一切の妥協も許さないような顔で千夜に詰め寄る。

千夜

「あの、その、で、でも腕が……」

確かに千夜は腕が折れていてドアを直すのは不可能だ。

すると真実さんはしばらく黙って急にこちらに振り返った。

真実

「俊也君」

俊也

「嫌です」

俺は直感で即答した。

真実

「まだ何も言ってないわよ?」

真実さんは不思議そうに首を傾げている。

間違いなく分かっていて言ってるな。

俺は千夜に視線を送る。

千夜

「あ―……、頼む!」

千夜はそう言うとダッシュで小屋から飛び出していった。

俊也

「あの野郎……」

俺が千夜に対する怒りを噛み締めていると真実さんの手が肩に乗った。

真実

「お願いね?」

俊也

「……、はい」



とゆう感じに丸め込まれ俺は今ドアを直している訳だ。

俊也

「しかもあいつ、飯食ってるし……」

今、俺は部屋の外の廊下でドアを直しており丁度入り口が開いていて呑気に真実さんの用意したサンドウィッチをパクパク食べている千夜の姿が見えているのだ。

カン、カン、カッ――

俊也

「てっ、あー、指打った……」

何だ、この淋しい展開。

腹は減るわ、指は打つは。

何か悪いことしたっけなぁ……

俺は一つ大きなため息をつくとちょっと気合いを入れてドアを直し始めた。



俊也

「ふぅ……、終わったぁ」

俺はトンカチを置き汗をシャツで拭く。

しかしドア一つに1時間って……

俺ってダメ人間だな。

俺は自分の情けなさをまた反省しつつ工具箱に釘やらトンカチやらをしまいそれを持って外に向かった。

外に出るとまだ暑い太陽が照らしている昼過ぎ、真実さんと千夜は既に昼食を終えたようで二人揃ってお茶を啜っている。

取り敢えずそんな二人に一言。

俊也

「師匠ー、ドア直しましたよー」

俺の声に気付いた二人はお茶を啜りながら同時に振り向く。

真実

「ご苦労さま、俊也君」

俊也

「工具箱、どこに戻せばいいですかー」

俺は少し距離があるので声をちょっと張り上げる。

真実

「部屋に置いといてください」

俊也

「分かりましたー」

俺はまた小屋に戻り一様ドアを身長に開け部屋のテーブルに工具箱を置く。

俊也

「ちょっと座ろ」

俺はテーブルの近くに腰を下ろす。

あー、疲れたけど、どこか日常に戻れた気がしたな。

つい何時間前には喋る馬猿と対峙してたのにな。

まぁ平和が一番だな。

俺がほんの一時の平和を噛み締めているとふとドアに目がいく。

そのドアの真ん中は千夜の蹴りにより打ち抜けているがドアはくっついている。

俊也

「あいつを怒らせたら俺の体も……」

俺はその先を考えるのを止めた。

すると突然体がだるく感じ腕を枕代わりにテーブルに突っ伏す。

あー、腹は減ってるけど、少し、休、憩……――――



真実

「………」

千夜

「どうしたの?」

真実

「俊也君、来ないわね?」

そういえば先程直した、と言って工具箱を戻しに行って既に30分は経っていた。

千夜

「寝てるのよ、どうせ。あいつ体力ないから」

嘘ではないがドアを直してもらっておいてその言い方はひどい。

真実

「その体力を減らしたのは誰かしらね」

真実さんはお茶を啜る。

千夜

「……、ちょっと見てくる」

千夜はそそくさと立ち上がって小屋に向かって歩いていった。

真実

「……、難儀な子達」

真実さんは不思議な人である。



千夜

「あ」

千夜が部屋のドアの前に着くと少し微妙なバランスだがきちんとドアがくっつけられていた。

一様千夜もゆっくりドアを開けると部屋の中にはテーブルで小さな寝息をたてて寝ている俊也がいた。

千夜

「予想通りね」

千夜は軽く蹴り飛ばそうとして止まる。

千夜

「……、はぁ」

千夜は上げた足をゆっくり下ろし俊也の横に腰を下ろす。

俊也の寝顔をそっと覗き込むと汗で湿った額が見えた。

俊也は俊也なりに頑張ったようだ。

自分の責任でもないのに。

千夜

「お疲れ、俊也」

返事が返ってこないのは分かっていたがどうにも恥ずかしくなる。

千夜はすっと立ち上がり俊也の脇腹に少し必要以上に力を入れて蹴る。

ドッ

俊也

「ぐぁっ?!、……へぁ?」

俊也は涎を垂らしながら寝呆け眼で千夜を見る。

千夜

「サンドウィッチ、無くなるわよ」

俊也

「……、はっ!!ちょっ、それは困る!!」

俊也は急いで立ち上がり部屋を飛び出した。

千夜

「……、食い意地張り過ぎ」

千夜は少しほほ笑み歩いて後を追った。



俊也

「師匠!」

俺は真実さんの横にスライディングした。

真実

「あら、目が覚めた?」

俊也

「え、あ、はい。それよりサンドウィッチは!?」

俺の頭には極限にまで減ったお腹を満たすことしかない。

真実さんは俺の一言を聞くや否やすぐにたくさんのサンドウィッチが載った皿を差し出してくれた。

真実

「どうぞ、疲れたでしょう?」

俊也

「いただきます!」

俺は礼儀も忘れサンドウィッチを頬張る。

俊也

「ぼいびい!!(おいしい!!)」

俺は感想を言うやまたすぐに食べるのを再開する。

千夜

「食べてるわね」

すると千夜が何くわぬ顔で俊也の横に座る。

俊也

「おっ、千夜も食うか?」

俺はサンドウィッチを一つ千夜に差し出す。

千夜

「……、いらない」

それから30分ぐらい食べたりお茶を飲んだり雑談をして過ごした。


俊也

「ふぅー、食ったし飲んだし話したし、疲れたな」

千夜

「そう?私は別に疲れてないわ」

真実

「それはそうと二人共空の旅の事忘れてない?」

俺はあまりにも呑気な状況に大事な事をまるで忘れていた。

俊也

「……、さ、やるぞ千夜」

千夜

「お、おぉー」

俺は取り敢えず立ち上がる。

真実

「千夜ちゃんは頑張らなくていいわ」

千夜はその一言で言われてみれば頑張る必要のない事に気付きさっさと真実さんと一緒に離れていった。

俊也

「やるか」

俺はまず右手を胸に当て、深呼吸。

やれない筈はない。

使えない筈はない。

かならず使える。

自信とか気合いだとかはたぶん関係ない。

何か根本的にチカラを使う方法が違うのかもしれない。

今、俺がやりたい事。

欲しいチカラは。

風を起こすチカラ。

風はどうやって起きる?

そんな理論は知らない。

なら何かを利用して風を起こす。

風のチカラは風のチカラで。

なるほど、考えてみれば師匠のアドバイスはこうゆう事だったのか。

風はいつだって、どこだって、吹いてる。

そのチカラをチカラで使って飛べばいい。

俺は考えるのを止め風を感じる。

髪をなびかせる風、服を揺らす風、肌に感じる風。

その風を――

俊也

「利用するッ!!」

ゴォ!!

次の瞬間俺の体はイメージ通りに浮き上がった。

俊也

「ま、マジで飛べてる……」

約5m程だが師匠や千夜は軽く見下ろせる。

千夜

「……」

千夜の顔は呆然としている。

かなり驚いている様子だ。

そりゃ、そうだろな。

俺だって驚きまくって自分の目を疑うくらいだし。

俊也

「……、どうやた降りればいいんだ?」

何か飛んでしまったが降り方はどんなのだ?

しかも今もチカラとか使ってる気がしないし。

俊也

「千夜!銃しまう時どうやってる?!」

千夜

「どうって、何か自分の体に戻す感じ!?」

千夜は距離が距離なので少し声を張り上げた。

俊也

「さんきゅ!!」

とは言ったものの、さっぱり分からない。

俊也

「もう飛ぶのは止め!!」

ただ叫んだだけだった。

一瞬にして重力によって地面に叩きつけられた。

ドカッ!!

千夜

「俊也!?」

俊也

「痛てて……」

軽い尻餅ってぐらいだけど中々痛い。

千夜

「平気!?」

千夜は結構焦り気味に駆け寄ってきた。

俊也

「あ、あぁ」

千夜が心配……??

確かに急な事だったけど、あの千夜が何故?

そんな悩んでる途中に真実さんが歩いてきた。

真実

「1分12秒」

俊也

「え?」

真実

「俊也君が飛んでられた時間」

どうやらまだまだ努力が必要である事が確認できた。

焦らずゆっくり、頑張ろう。

92話へ続く

焦りましょう


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