第90話 〜励まし〜
一転
真実
「でも、方法がないわけじゃないわ」
真実さんは立ち上がって窓の方に向かう。
俊也
「方法……?」
俺は落胆の余りその言葉でも余り立ち直れない。
真実
「俊也君、あなたのチカラの事、覚えてる??」
真実さんが窓を開けると長い黒髪が風になびく。
俊也
「まぁ、はっきりとは違いますけど……」
一体何が言いたいんだ?
俺は真実さんが不思議なのは知ってるがどうにも気に掛かる。
真実
「そのチカラがあれば港町にも早く着けるわ」
俊也
「……、よく分からないんですが?」俺のチカラは俺自身でもよく分かっていない。
そんな不確定なものを頼りに早く着けると言われても納得しがたい。
すると千夜がやれやれと言った感じで立ち上がり真実さんの横に行く。
千夜
「バカなあんたに分かりやすく言ってあげると飛んでくのよ」
俊也
「……は?飛ぶって、空を?」
千夜
「私も最初に聞いた時は驚いたけど、どうにもそうらしいわ」
と千夜は説明を求める様に真実さんを見る。
すると真実さんは了解したようでポケットからあるものを取り出した。
真実
「俊也君のチカラだけじゃ無理だけどこれがあれば空を飛べるわ」
と真実さんが見せてきたのはいつぞやで千夜が買った青銀と赤銀のアクセサリーだった。
俊也
「そのアクセサリー、使えたんですか?」
俺はほんの少し希望の確信が見えてきて声がいつもみたいに戻ってきた。
真実
「えぇ、これはかなり昔のアクセサリーなんだけど風があれば飛べるわ」
俺は喜びの余り千夜に駆け寄り抱きつく。
千夜
「ちょっ、何すんのよ!」
俊也
「やったな!これでノゾミの所に行ける!!」
俺は笑顔と共に涙まで出てきた。
千夜
「泣いてんじゃないわよ、まだ行けるかはあんた次第なのよ?」
俺は少し嫌な予感がして千夜から離れる。
俊也
「どういうこと?」
すると真実さんが俺の目の前に二つのアクセサリーを見せてきた。
真実
「残念だけど、このアクセサリーは壊れてるの」
真実さんは俺によく見ないと分からないぐらいのヒビを確認させた。
真実
「壊れてなかったらアクセサリー自体が風を起こして飛べるんだけど、壊れてるから風を起こせないのよ」
俊也
「それじゃ、どうすれば……?」
俺が俯くと千夜が軽く蹴ってきた。
千夜
「だーかーら、あんたのチカラが必要なのよ、風起こしさん?」
俺は千夜に言われて漸く話が理解出来た。
俊也
「まさか、俺が風を起こして……」
千夜
「まさにその通り」
千夜は片目を閉じてウインクする。
真実
「千夜ちゃんに聞いた所によればあの飛竜を倒すぐらいのチカラを使えるようになったのよね?」
どうやら千夜は別れた後の経緯をすべて話してしまったようだ。
俊也
「あの時はもう必死というか命懸けで……」
千夜
「今は違うって訳?」
千夜は急に鋭い眼光で俺を見る。
俊也
「そうじゃない……、けど使えるか分からないし……」
千夜は嫌気がさしたように急に怒鳴りだした。
千夜
「使えるかどうかはやってみてから考えなさい!!やる前から諦めてたら使えるもんも使えないわ!!」
俺は沈黙した部屋の中で千夜の鋭い眼光を見ていることが出来ずに部屋を飛び出した。
ガチャ、バタン!
千夜
「………」
真実
「千夜ちゃん」
千夜は閉じられたドアを見つめたまま黙っている。
真実
「言い過ぎ、じゃないけど、今は俊也君も不安なのよだから……」
千夜
「甘やかせっていうの?私はそんな甘くないわ、貴女と違ってね」
千夜は一睨みすると物凄い勢いでドアを蹴破り出ていった。
真実
「………、ドア、後で直さなきゃ」
と見るも無残に壊されたドアを見つめ、真実さんも後を追った。
俊也
「くそっ……」
俺は勢いで逃げだしたはいいが行く場所がなかったので小屋の裏側にひっそりと座っていた。
俊也
「何してんだろ……、俺」
俺は自分の情けなさに呆れ返っていた。
分かってるんだ。
本当は今、何をすべき状況で、どうしなきゃならないか。
でも、自信がないのか分からないけど。
はっきり言って昔よりか強くなった気がしてた。
けど、結局は昔と変わらない、情けなくて、弱くて、甘くて、すぐ弱音を吐いて、人に迷惑かけて、誰も助けられなくて……。
何も変わってなんかいなかった。
何一つ成長してない。
ちっぽけな存在なんだ。
弱い自分を強く装った所で余り変わらなかった。
気持ちだけで強くなった気でいたんだ、俺は。
俊也
「どうすればいいんだろ……」
俺が空を見上げるとそこにはドアップで千夜の顔があった。
俊也
「どわぁっ!?」
俺は驚きの余り小屋の壁に張りつく。
千夜
「そこ、開けなさいよ」
どうやら千夜が座るようなので恐る恐る右にずれると千夜がゆっくり腰を下ろした。
俊也
「………」
千夜
「………」
沈黙。
いや、話し掛けられない。
今、千夜に言える言葉が見つからない。
たぶん、今必要なのは謝る言葉じゃない気がするから。
千夜
「俊也」
俊也
「はい……」
余りの緊張のせいか声が小さかった。
千夜
「さっきはちょと言い過ぎたわ」
俊也
「え?」
思わず気の抜けた顔で千夜をみるとかなりほっぺを膨らませていた。
どうやら真実さんが何か助言でもしてくれたのだろう。
千夜
「一度しか言わないわ、絶対に、その……」
俊也は何も喋らずに次の言葉を待った。
千夜
「がっ、頑張れ、俊也。………」
見る見る内に真っ赤になる千夜の顔を見ていると耐え切れずに笑ってしまった。
俊也
「ぷっ、あはは!!に、似合わない事言うなよ!」
すると千夜は真っ赤な顔で怒鳴ってきた。
千夜
「なっ、折角人が励ましてやったのに笑ってんじゃないわよ!!」
千夜は座ったまま足で蹴ってくる。
俊也
「わっ!、いてっ!ぎゃっ!、ちょ、待てって!」
俺は必死に千夜を宥めなんとか怪我をせずにすんだ。
俊也
「ったく加減しろよな?」
千夜
「うるさい」
俊也
「怪我したらどうすんだ」
千夜
「うるさい」
俊也
「これから愉快な空の旅をするってのによ」
千夜
「うる、……え?」
千夜は突然言われて呆然とした顔をしている。
俊也
「飛ぶよ、頑張ってみる。千夜も励ましてくれたしな?」
俺は立ち上がって千夜に手を差し出した。
俊也
「行くんだろ?」
千夜
「うん。行く」
千夜は力強く頷いた。
が、一向に手を掴んでくれない。
俊也
「手、使えないんだったな」
今更千夜の腕が怪我してる事を思い出した。
千夜
「自分で立てるわよ」
千夜は腹筋を使って跳ね起きて立ち上がった。
するとタイミングを見計らっていたような感じで真実さんが出てきた。
真実
「決まったようね?俊也君」
俊也
「はい。俺、頑張ります」
すると真実さんは近寄ってきて俺の手を握った。
真実
「一つだけ、アドバイス。チカラは力で使うんじゃない、チカラはチカラで使うのよ?」
俊也
「え―っと、よく、分かりました……」
俺はまるで理解出来なかったか取り敢えず覚えてはおく事にした。
千夜
「じゃ、やってみる?」
という千夜の一言で俺達は小屋の表に向かった。
俺は二人に少し格好付けて離れるように言って上を向いた。
とは言ったもののなぁ……。
チカラ、どうやって使えばいいんだ?
さっきは頑張るとか言っちゃったけど、現実はそう甘くないな。
俺は取り敢えず上を向くのを止め、ちょっと恥ずかしがりながら千夜を手招きした。
千夜
「何?」
千夜も何故呼ばれたのか分からないようできょとんとしている。
俊也
「あの、さ、チカラを出す時ってど、どんなポーズでやればいいと思う?」
千夜はそれを聞いて何の反応もせずただ黙っていた。
俺は取り敢えず千夜の顔の前に手を振ってみた。
俊也
「おーい、千夜?」
千夜
「……、え?あ、ごめんごめん」
と千夜は一瞬間を置いて一言。
千夜
「撃つわよ?」
千夜はとても黒い笑顔で詰め寄ってくる。
今千夜は腕を使えなく銃も出せないと分かっているのだが、何故だか何か撃たれそうな気配がする。
俊也
「すみません、どうぞ戻ってください」
と諦めて俺が言うと千夜は一歩戻り振り向かずに言った。
千夜
「右手を胸に当てる、私はそうしてるわ」
千夜はそう言うとさっさと真実さんの所に戻っていった。
何だかんだいいつつも千夜はいいやつだな……。
俺は一度目を閉じ右手を胸に当てる。
さぁて、どうする?
チカラよ、使えるようになれ!!
俊也
「……」
何も変化がなく自然の風が吹き抜ける。
すると真実さんが手を振っている。
真実
「お昼にしましょう?」
俊也
「あ、わかりました」
俺は迷うことなく小屋に戻っていった。
91話へ続く
力及ばず




