第89話 〜説明〜
語らいそして
二人が暫らく黙り込んでいると唐突に部屋に真実さんが入ってきた。
真実
「さて、まずは治療ね」
真実さんは白い救急箱をテーブルに置く。
俊也
「どうすればいいですか?」
俊也は実際脇腹の辺りに少し痛みがあるくらいなので余り治療という治療を受ける気はなかった。
真実
「取り敢えず痛い所はない?、嘘はついちゃダメよ」
真実さんはまるで俊也がそのくらいの痛みならやせ我慢する事を知っていたかのようにあとに付け足した。
俊也
「え、っと脇腹の辺りが少し痛いです……」
俊也がそういうと真実さんは俊也の脇腹をそっと手で擦る。
俊也
「いっ!?」
俊也は真実さんが触れた瞬間に後ろに飛びずさった。
真実
「ちょっと上着を脱いでくれるかしら?」
俊也は先程の脇腹の痛みを感じつつも真実さんの不思議な言動に逆らう気もなく上着を脱いだ。
真実
「!!」
するとその体を見た真実さんはいつに見ない驚きの表情を浮かべている。
俊也は不安になり自分の体を見てみると昔以上に黒い傷跡が大小多数に増えていた。
俊也
「またこれか……」
真実
「またって……どういう事?」
俊也が一体どこから話せばいいかを迷っているとそれまで黙っていた千夜が口を開いた。
千夜
「気にしないで、別にただの傷だし何の異常も起きてないわ」
俊也は千夜のフォローに深く感謝した。
真実
「そうなのかしら?俊也君」
真実さんはまた不思議な眼光で見つめてきた。
真実さんの瞳はまるで犯罪者に真実を暴かせるようなときの感じだ。
それでも俊也は真実さんに余計な心配をされたくはなく、現に千夜がいう通り傷の直りが早くそれが黒ずんでいるだけでほかに異常は起きていない。
俊也
「はい、その通りです。」
真実さんはそれを聞くと何かを諦めたように救急箱から包帯を取出した。
真実
「取り敢えず包帯を巻いときましょ?」
俊也は頷いて近寄ってから包帯を巻きやすいように両腕を上げると真実さんはまるでどこかの看護士の人みたいに的確に痛む場所を包帯で巻いていった。
真実
「はい、一様固定はしたけど骨にひびがあるかもしれないから暫らくは無理は禁物よ?」
俊也
「あ、ありがとうございます」
俊也は軽く前かがみに会釈をした瞬間、脇腹に激痛が奔った。
俊也
「ぐぁっ!?、痛てて……」
真実
「気を付けてね?」
俊也
「すみません……」
俊也は意外にも自分の体は重傷を負っているという事を改めて自覚した。
するとそんな俊也を余所に真実さんは千夜の前に移動していた。
真実
「千夜ちゃんはどこが痛むのかしら?」
すると千夜は俯いたままで黙っている。
真実
「……ちょっと失礼するわ」
真実さんはそう言うと千夜の両腕を掴んだ。
その時わずかに千夜が反応したのを俊也は見逃さなかった。
真実
「……俊也君、少し外で待っていてくれる?」
真実さんは悪魔でも千夜から目をを逸らさずに俊也に頼んだ。
俊也は真実さんにまかせた方がいいと納得して部屋から出ていった。
ガチャ、バタン。
……沈黙。
部屋にいる二人は微動だにせず窓も扉からも少しも風が入らない。
まるで誰もいない部屋のようだ。
すると真実さんが軽く溜め息をしてから口を開いた。
真実
「あの子はいないから正直に教えてくれるかしら」
千夜
「嫌……」
やっと口を開いた千夜から出てきたのは一言だけだった。
まるで嫌いな人に対する態度の現れのようだ。
真実
「……腕、折れてるわよね?」
千夜
「折れてない……」
悪魔でも弱みを見せない気か千夜は反抗し続ける。
真実
「なら私の手を振り払ってごらんなさい?」
真実さんがそう言った後に千夜は腕を何度か動かそうとするが小刻みに震えるだけで真実さんのか弱い腕一つ振り払える気配はない。
千夜
「っ……」
真実
「はぁ……わかったわ、もう返事しなくていいから上着だけ脱いでくれるかしら?」
千夜は少し動いてから黙り込んだ。
すると真実さんは漸くその理由に気付いた。
真実
「脱げないわよね、じゃあ悪いけどハサミで切らせてもらいます」
真実さんがそう言ってハサミを服に当てた瞬間千夜は物凄い早さで立ち上がった。
千夜
「この服は、駄目……!!」
そう言うと千夜は力を振り絞って両腕を動かし上着を脱ぎ捨てた。
すると無理をしたせいかへなへなと真実さんの前に座り込んでしまった。
真実
「強い子……」
真実さんはそう呟いてから千夜の両腕に包帯を巻き始めた。
真実
「その服、ひょっとして誰かからの贈り物?」
千夜は突拍子もなく話し掛けられ驚いている。
千夜
「大切な……友達から、貰った」
真実
「そうならそうとさっき何で言ってくれなかったのかしら?」
千夜
「ごめん、なさい……」
千夜は否定の余地がない正論に謝るしか出来なかった。
真実
「でも、話してくれて嬉しいわ。ありがとう」
真実さんは不思議な笑顔で千夜を見つめる。
千夜
「どう、いたしまして……」
千夜は自分が思っていたより真実さんは悪い人なんかじゃないと昔の自分を反省した。
その頃俊也は小屋の外の壁に寄り掛かって座っていた。
しっかし俺の黒い傷、今更考え直すもあれだけど……
一体何なんだ?
何で黒くなるんだ?
傷が早く治るってのは構わないけど黒い傷跡が残るってのはどーも……
俊也はそこで考えるのを止めた。
と、言うより考えても答えが出ないことだってあると思い直したからだ。
それはいいとして千夜、大丈夫かな……?
俊也はチラっと小屋を見る。
あの時の見た感じじゃ腕、だよな……
でも崖から落ちた後普通に歩いてて違和感なんかなかったのに……
我慢してたのか?あいつ……
でも千夜の事だから何とかなってるだろ!
俊也は自分にそう言い聞かせ今度は空を見上げる。
青いなぁ……
そこから見上げたそらは真夏の如く輝く太陽と雲一つない空。
まるで何かの例えで聞いたことがあるような景色だ。
こんな雲一つない青い空って本当に見れるんだな……
俊也は今までどれだけ自分が狭い世界で生きてきたかを改めて深く感じていた。
暫らく見上げた後に視線を下に戻してからあることについて思考回路を動かし始めた。
さぁて、どうやって説明するかな。
やっぱ単刀直入にゼバリースの場所を……、いや、そうなると二人と別れた理由を細かく聞かれる恐れがあるな。
となるとノゾミを見つけて合流した。
まずそこまでを語ろう。
その後出発した事にして……あ!砂漠なら砂嵐がいいな!
砂嵐で二人と離れ離れになって探してたら崖から落ちて……ってこれじゃゼバリースに行く理由がないじゃないか!
あ、いや、待てよ。
そうだ、出発理由がゼバリースに行くっていう目的にすればいいんだ!
そしたら離れ離れになってたけど本来目指してた場所に行けば合流出来る可能性が高い!!
けど俺と千夜はその場所を知らない、だから師匠知ってますか?
的なのでいいんじゃないか?
よっしゃぁ!!
後は真実さんがゼバリースの場所さえ知ってればとんとん拍子でノゾミに会える!!
と俊也が絶頂で喜んでいる最中に小屋の扉が開いた。
真実
「俊也君、入っていいわよ?」
俊也は急すぎて倒れそうになったが何とか態勢を立て直した。
俊也
「あ、はい、わかりました!」
俊也はそう答えると真実さんの後を負い小屋に戻った。
ガチャ、バタン。
俊也が部屋に入ると真実さんがテーブルの横に座っており、千夜は先程の壁に両腕にこれでもかというくらいの包帯を巻き肩から布で固定して服は黒いブラウスに変わって寄り掛かっていた。
俊也
「千夜!?、どうしたんだ、一体?!」
慌てる俊也を余所に千夜は溜め息を付いた。
千夜
「はぁ……、ちょっと腕が折れただけよ。大声ださないでくれる?」
俊也
「腕が折れてたって平気じゃないだろ!」
すると真実さんは俊也を落ち着かせるために強制的に座らせた。
真実
「取り敢えず固定はしたし安静にしてれば治るから、安心して?」
俊也は真実さんの不思議な言動によって結局頷くしかなかった。
すると千夜が唐突に言った。
千夜
「ところで本当に行ける方法があるんでしょうね?」
真実
「えぇ、俊也君次第だけど」
俊也は話しが理解出来ずに聞いてみた。
俊也
「千夜、何話してるんだよ」
千夜
「港町に行く方法」
俊也の直感が悟った。
あぁ……、説明、したんだな。
俺頑張って考えてたのに……
俊也
「説明、聞いたんですよね?」
真実
「えぇ、聞いたわ、でもゼバリースの場所は知らないわ」
俊也は固まった。
そんな……
俊也はあっけなく崩れた希望にしがみ付く事も出来ずにただ打ち拉がれ絶望するしかなかった。
第90話へ続く
先行き不安




