第74話 〜恐怖〜
恐怖は
ノゾミ
「アハ、アハハ・・・」
ノゾミは人形の様な声で笑う。
ノゾミの姿はまったくの別人、服はボロ布のような白いワンピース、両手両足には引き契られた刺の付いた鎖、首にも鎖がある。
足は素足で所々が切れている。
そして右手には見間違える筈もない、ノゾミの、銃。
何より一番違ったのは眼。
いつもは優しくて大きくもなく小さくもない眼が今は優しさを失い虚ろな冷たい眼に変わっていた。
千夜
「ぁ・・・ぁ・・・」
ドシャ。
千夜は涙を流しながら膝を付いた。
するとまたあの声が聞こえてきた。
―一足遅かったみたいだね、君に見せてあげよう、この場所で起きた、惨劇を・・・―
すると千夜の意識は飛んだ。
こ、こは?
千夜はどこかに浮いていた。
!!
あれはナスとマチ!!
千夜は先程の部屋の宙に浮いていた。
ナス
「何だ?ここは?」
ナスは気持ち悪そうに培養機の中を覗き込む。
マチ
「そんなに嫌なら見なきゃいいじゃない。アホ。」
ナス
「なっ、アホはないだろ?普通・・・」
マチ
「はいはい、さっさと探しなさいよ、バカ。」
ナス
「うぅ・・俺、泣きたくなった・・・」
マチ
「泣けば?私が見てあげる。」
ナス
「ひどい女だ・・・」
マチは最後の言葉を敢えて無視し探した。
ナスも一緒になって探していると部屋の中央に来た。
ナス
「まさか、あれは・・・」
マチ
「ノゾミ、副隊長・・・」
二人が見る先には他より出来がよさそうな培養機の中に浮かぶ鎖で縛られた少女、記憶と同じなら間違いなくノゾミだろう。
ノゾミ!!
千夜は必死に近寄ろうとするが体は空を切るだけで動かない。
あそこに・・・
いるのに・・
今なら、ノゾミを
止められる・・・
二人も、助けられるのに・・・・
ナスはノゾミを観察していた。
マチ
「ねぇ、平気なの?」
ナス
「・・・わからない、もしかしたら生きてないかも・・」
マチはナスを睨んだ。
マチ
「次言ったら許さないよ、ナス。」
ナス
「ご、ごめん・・・」
ナスは反省したらしくノゾミを培養機から出す方法を探し始めた。
するとナスが何かに気付いた。
ナス
「マチ、今、動かなかった?」
マチ
「何が?」
ナス
「副隊長が、だよ。」
マチは首を傾げながらノゾミを見る。
マチ
「うん、動いてないわね。」
ナス
「気のせいだったかな・・」
ナスは頭を掻きながらまた探し始めた。
しばらくするとマチが言った。
マチ
「ねぇ、副隊長出せそう?」
ナスはボタンを押さないように触っていた。
ナス
「・・・よし、大体分かった、ちょっと待ってくれ。」
ナスはそう言うとボタンをいじり始めた。
ゴポゴポ・・・
ナスがボタンを押し終えると培養機の中の液が抜け始めた。
マチ
「ナス!?大丈夫なの?」
ナス
「あぁ、これが抜けたら開く筈だ。」
プシュゥー・・・ガタン。
そして液がすべて無くなり殻の培養機のガラスが開いた。
二人は同時に唾を飲んだ。
するとノゾミの眼が少しずつ開いていく。
それに気付いた二人はノゾミに呼び掛ける。
ナス
「副隊長!!しっかりしてください!!」
マチ
「平気ですか!!副隊長!!」
ノゾミの少しだけ開いた眼が辺りを見渡した瞬間ノゾミの眼が大きく開かれた。
ノゾミ
「グ、ガァァァァィィィ!!!」
次の瞬間ノゾミは奇声を上げながら鎖を引き契ろうと物凄い力で暴れている。
二人はその光景を見ているしかなかった。
二人は近寄れなかった。
目の前のノゾミに恐怖を感じていたのだ。
まるで、
まるで、化け物のような少女に。
ノゾミ!!ノゾミ!!
千夜は必死に叫び藻掻くがその声は聞こえていない。
私は・・・
このまま見ていることしかできないの・・・?
千夜は藻掻くのを止め静かに見ていた。
バキンッ!!
とうとうその力に耐え切れなくなった右腕の鎖が契れて床に落ちる。
二人はその鎖の落ちる音に体をビクッ、とさせやっと口を開いた。
ナス
「な、なぁ、ま、マチ・・・へ、平気、か・・?」
マチは青ざめた顔でナスを見た。
マチ
「あ、あ、あんたこそ、顔が青い、わよ・・?」
二人は極限までの恐怖に全身から汗が吹き出ている。
それほどまでに恐いのだ。
バキン!!
ノゾミは自由になった右手を使って左腕の鎖を契り鎖はまた床に落ちる。
既に右手の指は鎖を契ろうとして血塗れになっている。
ナス
「あ、あの、人、異常だ・・・」
ナスは後退りしていた。
マチ
「そ、そう、だ、た、隊長を・・」
マチは連絡用のアクセサリーを取り出して連絡を試みる。
マチ
「つな、がら、ない・・・どうし、よう、ナス・・」ナスは足を止めてマチを見た。
ナス
「と、とりあえず、も、戻ろう、ね?」
マチは何度も首を縦に振った。
そして二人が部屋の扉に歩きだそうとした時だった。
バキ、バッ、キン!!
ノゾミの両足の鎖が契れ床に落ちるのとは比較的に静かで冷たくノゾミは床に着地した。
ノゾミ
「・・・・・・」
二人は足を止め、ノゾミを見ている事しか出来なかった。
まるで金縛りにあったかのように。
するとまた人形のようなノゾミの声が響いた。
ノゾミ
「ダ、ァ、レ??」
二人はノゾミの傾けた首に一瞬にして血の気が引き声が出せない。
ナス
「ぅ、・・ぉぇっ・・」
ベチャベチャ!!
ナスは耐え切れずに膝を付き吐いた。
マチはナスを助けようとガチガチに震える足を叩きナスの側に寄った。
マチ
「ナ、ス・・・」
マチは必死に声を出しナスの肩を支え立ち上がった。
ノゾミ
「ドコニイクノ?マタ、ワタシヲヒトリニスルノ?」
マチは自分も吐きそうになり片手で口を押さえて必死にナスを支えて部屋の出口を目指す。
そして二人が扉まで後数歩まで来た瞬間
シュバッ。
マチ
「なっ・・・」
ノゾミ
「ニゲナイデ?ヒトリハ、イ、ヤ。」
バキッ!!
マチは何か硬いもので頭を殴られ後ろに倒れる。
ナス
「うっ・・・マ、チ?」
意識が戻ったナスは頭から血を流しているマチが横に倒れていることに気付いた。
ナス
「おい!!マチ!!しっかりしろ!!」
ナスは必死にマチの肩を揺らした。
マチ
「うっ・・ナス?」
ナス
「良かった、一体何が」
マチ
「!!」
バッ。
ドンッ!!
ナス
「え・・・?」
ナスは自分とマチの位置が変わった事よりも今自分の前に銃を構えたノゾミがいたことに恐怖している。
すると自分の手が濡れていく。
ナスは自分の手を見ると血で真っ赤になっていた。
ナス
「マチ!!おい!!マチ!!」
マチはかろうじて眼を開けた。
マチ
「あはは、ごめ、んね?ナス・・・」
ナス
「いいから喋んな!!マ」
ドドンッ!!
先程と同じ銃声が鳴り響く。
マチ
「うぁっ・・・・」
マチはさらに撃たれ目を見開き口から血を吐く。
ビチャ。
吐いた血がナスに降り掛かる。
ナス
「マチ、・・・マ、チ・・」
マチは最後の力を振り絞ってナスの顔を掴む。
マチ
「ナ、ス・・・泣、いて、んじゃ、な、いわよ・・バ、・・カ」
そしてナスを掴んでいた手は床に静かに落ちた。
ノゾミ
「オネ、ガイ。ワタシヲ、ヒトリニシナイデ?」
ナスはその声に体をピクッとさせ、マチの眼を手で伏せて横に置いた。
ナス
「マチ、ごめんな、俺が弱いばっかりに。」
ナスはもう動かないマチにそう言い立ち上がる。
ナス
「隊長には悪いけど、あんたは・・・俺が、殺す!!」
ナスはそう言うと剣を構えた。
ノゾミはケラケラと笑い虚ろで冷たい眼を見開く。
ノゾミ
「アナタハ、ワタシヲヒトリ二、シ、ナ、イ?」
ガチャ。
ノゾミはだらけきった手で銃をナスに向ける。
ナス
「う、ぉぉぉ!!!」
ナスは考えなしに真っ向から突っ込んでいった。
ドドンッ!!
ナスは撃たれた銃弾を剣で弾き一気に間合いを詰める。
ナス
「これで終わ」
キッ!!
ナスはノゾミと眼を合わせ一瞬動きが止まった時
ドンッ!!
銃弾はナスの頭に命中した。
ドサッ。
ナスは力なくその場に倒れた。
カランカラン・・・
ナスの剣は音を立て床に落ちる。
ノゾミ
「・・・・ドウシテ?」
カチャ。
ノゾミは床に落ちているナスの剣を手に握った。
ノゾミ
「ヒトリハ、・・・イヤァァアァァァァァァ!!!!!」
ザクッ、ザクッザクザクザクザク!!!ブシュ、ブシュ!!
ノゾミは手に握った剣で動かないナスを何度も、何度も刺した。
カランカラン。
ノゾミは剣を床に捨てた。
ノゾミ
「アハ、アハハ・・・」
ノゾミはまた人形のように笑い、虚ろな冷たい眼。
第75話へつづく
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