第99話〜旅の結末〜
始まった一つの、一人の少年の旅。
旅が始まれば、それは
いつか終わる旅へと変わる。
その人物は、突如として現れ
千夜とヴァルケミストの間に立っていた。
全身を黒いコートで覆いながら
着地の勢いでフードが脱げ
淡い緑の髪がなびく。
その女性の眼光は鋭く
まっすぐにヴァルケミストに向いていた。
敵意むき出しでありながら隙がなく
油断の欠けらも感じられないほど
研ぎ澄まされていた。
千夜「さっきから一体何なのよ!」
千夜は一言、愚痴を吐くと
吹き飛ばされた俊也のいる海の方へ走り出す。
ヴァルケミスト「待てや!!」
千夜の動きを見るや否や
ヴァルケミストは右手に紫色の光を帯びさせたかと思うと
腕を振りかぶり千夜のいる方へ拳を振りぬく。
振りぬかれた拳から紫色の球体が飛び出す。
しかし、その球体は先ほど表れた人物の
剣閃で一刀に付される。
???「待つのは貴様だ」
千夜は自分が狙われたことにすら気づくことなく
海に飛び込もうとする。
瞬間、俊也が吹き飛ばされたであろう
海面付近が再び水しぶきを上げる。
その数秒後、飛来した俊也が
海に飛び込もうとした千夜の前に降り立つ。
俊也「いっつ…」
俊也は殴られた頬をさすりながら
ヴァルケミストの方向を見やる。
俊也「……、え?」
俊也の表情は
視線の先に立つ人物を見て
海に吹き飛ばされたこととは別に
青ざめていた。
千夜「ちょっと」
俊也「…」
千夜「ちょっとってば!!」
俊也「…え?あ、な、なんだよ」
千夜「なんだよ、じゃ、ないわよ!
あいつ誰なの!?」
俊也「あいつは…、」
俊也はまたしても千夜の
問いかけに歯切れ悪く
答えることを躊躇していた。
その様子に千夜は嫌気がさし
その勢いのまま俊也を突き飛ばす。
俊也「って、何すんだ!」
千夜「あんたが言いたくないなら」
千夜は両手に二丁拳銃を構え
ヴァルケミストと睨みあう人物を見やる。
千夜「直接聞くわ!!」
千夜はそう叫ぶと緑髪の人物の方へ
突っ込んでいく。
向かってくる千夜に気づき
一瞬、その人物の目線がヴァルケミストから外れる。
それを見計らってかヴァルケミストも
その女性に向かい特攻を仕掛ける。
両者ほぼ同タイミングで
その人物へと向かい
交わる刹那。
その人物は特攻するヴァルケミストの剛腕を
するりと交わし、二丁拳銃から放たれた銃弾を
そのヴァルケミストの腹部に直撃させる。
千夜「なっ!?」
千夜は急ブレーキをかけ、
一旦その場で勢いを殺し
今度は身体をひねり宙へと浮き上がる。
ヴァルケミスト「っのおおおぉぉぉぉ!!!」
ヴァルケミストは千夜の受けた銃弾をもろともせずに
交わした人物へ追撃を仕掛けるため、再度腕を振りかぶる。
千夜「これなら、どう!?」
千夜は上空から回転を加えながら
再び銃弾を放つ。
またしても同じタイミングで
ヴァルケミストの巨腕がその人物の
顔面へと向かう。
銃弾と拳がその女性に当たる、瞬き。
その人物の姿は消えた。
千夜「は!?」
ヴァルケミスト「ぬあっ!?」
千夜は消えたことに驚き、
ヴァルケミストは振り下ろした拳が空を切り
その勢いでその場で尻餅をついていた。
???「思い出したか?」
俊也「!!」
突如その人物は100mほど離れて様子を見守っていた
俊也の背後に音もなく現れた。
その人物は、
問いの答えを聞く前に
俊也の前に回る。
???「…、答えなくともいい
わたしが来たのは」
俊也「時間切れ、か…?」
俊也の答えに一瞬、目を見開き
その人物はくるりと俊也に背を向ける。
小さな声でつぶやく。
???「セツナの仕業か、まったく
あいつは…」
俊也「?」
その人物は今度は腰に携えていた鞘から
剣を抜き、天に向けて掲げる。
するとその剣先から白い光とともに
ゆうに3mは超えている漆黒の扉がが宙に現れる。
???「この”未世界”はもうすぐ崩壊する
次はない」
俊也はその人物の問いかけに
ヴァルケミストと口論をしてる千夜の姿を見る。
俊也「…、どうあっても、俺は
あいつには、ノゾミには、もう、会えないのか?」
???「ノゾミ…?ああ、あいつのことか
今度は次はない、同じことを二度言わせるな
この世界の全てに、君は二度と出会うことはない
いや、出会うことはできない」
俊也「……」
俊也の頭の中にはいろんな記憶が
駆け巡っていた。
それは、先ほど見た”記憶”も含め
本当に数えることが出来ないほど、膨大なものであった。
その出会いを、繰り返し
その別れを、繰り返し
あらがい、もがき
そしてまた出会い、別れ。
それが本当の自分の気持ちなのか
そうであったものを見たから
そう思ってしまうだけなのか。
記憶を見たとはいえ
俊也の気持ちの整理はつかない。
たとえ過去の自分が
その選択をし前に進んでいたとしても
今の自分がその通りに
選択し、同じ道を歩むことが
正しいのか、間違っているのか。
おそらく答えはなく。
それは正しくもあり、間違いでもあるのだ。
そうでなければ、
選択を繰り返してきた意味がないはずだ。
その意味、その選択の先。
今の自分が選ぶ
最後の選択。
これまでのすべては
この時の選択のために
紡いだ、紡いできた。
俊也は閉じていた眼を
ゆっくりと開く。
俊也「俺の答えは…」
千夜は何かを察し
ヴァルケミストを蹴飛ばし
俊也の方へ走り出す。
俊也はゆっくりと扉へと手を伸ばす。
扉はそれに合わせて開き始める。
俊也「…」
千夜「俊也!!!」
俊也は千夜の声の聞こえた方に振り向き叫ぶ。
俊也「千夜!!」
2人の目と目が合った瞬間。
時がわずかに止まったように
その先の言葉が千夜の耳に
まっすぐ届いた。
俊也「またな!!」
伝えた俊也はにっこりと
千夜に微笑むと、扉に手を掛ける。
千夜「ふざ、けんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
千夜の怒号とともに、
両の手に握られた拳銃の銃口に
光が収束し、次の瞬間
千夜は地面を蹴りだし
宙に浮かんだ扉の内側に入ろうとする俊也目掛けて
まばゆい光の銃弾を撃ち放つ。
俊也「!!!」
俊也はその光の弾に気づき
一瞬のことに体勢を崩し
後ろに倒れこむ。
千夜「私の声が…」
千夜は俊也が先ほどまで手を掛けていた
扉を飛び上がった勢いのまま蹴り飛ばし
扉は轟音を立てながら閉まる。
千夜「聞こえないのかよ!!!」
千夜は閉じたトビラを蹴り飛ばし
地面に尻餅をついていた俊也目掛けて急降下する。
俊也「ちょ、まっ――」
突っ込んできた千夜は俊也の上に仁王立ちするように
着地したかと思うと、両手の銃を地面にたたきつける。
俊也「…!?」
その感触は、知らなかった。
その記憶は、初めてだった。
その温もりは、暖かくて
その目の輝きに、心をつかまれる。
2人の唇と唇が
触れあう。
沈黙。
時間が本当に止まったかと錯覚する感覚に
俊也は思考を取り戻すことが出来ない。
ゆっくりとその感触が離れ
千夜の真っ赤に染まった顔を見て
ようやく思考が戻る。
俊也「え、お、おおおおおおおおおお!?」
俊也は頂点に達した恥ずかしさで思わず
千夜の肩を突き飛ばす。
突き飛ばすが、その距離は変わらない。
千夜「…………………………」
一方の仕掛けた千夜も思考が機能していないのか
見つめるだけで精一杯なのか、言葉を発しようとしない。
ヴァルケミスト「おい」
俊也&千夜「「!!!!!!」」
突如二人の真横から声をかけてきたヴァルケミストに
2人は直感的に体制を整え、千夜は銃を、俊也は拳を構え
ヴァルケミストと数メートルほど距離を立ち向き合う。
ヴァルケミスト「こいつは、一体全体何が起きてんだ?」
千夜「じゃ、……邪魔なのよ!あんた!」
ヴァルケミスト「あぁ!?てめぇの腑抜けた面見るために
俺様はこんなところまでやってきたんじゃねぇ!!!」
俊也「ていうかお前誰だよ!!」
千夜&ヴァルケミスト「ごちゃごちゃうるさい!(うるせぇ!)黙ってなさい!!(黙ってろ!!)」
俊也「……えーーー」
俊也は突如蚊帳の外に放り出され
いじけたように体育座りをしながら地面を指でいじる。
千夜「っていうか、あんたなんで生きてるのよ!?」
ヴァルケミスト「魔族ってのは、大体死んでも死なねぇよう、出来てんだ」
千夜「だとしても、今更恨みでも晴らそうってわけ??」
ヴァルケミスト「はっ!!恨み??冗談言うなや!!
俺様は主に殺られただけで、小娘ごときに
殺られたなんて、あるわけねぇよ」
千夜「前置きはいいから、あんた何しに来たのよ!!」
詰め寄る千夜は握りしめた銃をヴァルケミストに向けなおす。
ヴァルケミスト「知れたこと、俺は俺の呪縛から解放されるため
そこのガキが消えちまうまえに奪いに来たのさ」
千夜「奪う…?」
ヴァルケミスト「あぁ、そいつの持ってるもんはなーーー、ぬっ!??」
ヴァルケミストの次の言葉を遮るように
先ほどまでいじけていた俊也がまっすぐに立ち
右手の手のひらから放った光の弾でヴァルケミストを狙う。
ヴァルケミスト「んだよ、話の途中だろーが」
俊也「狙いが俺なら、千夜を巻き込むなよ」
ヴァルケミスト「違げーねぇ、が、そいつは無理な話だ
まともにてめぇの持つ力とやりあったって
勝機がねぇことくらい、知ってんだよ!!」
俊也「!!!」
ヴァルケミストは右腕を振り上げまっすぐ地面に振り下ろす。
俊也と千夜のいる地面まで砕け散り、あたりに粉塵が巻き起こる。
俊也「!!!下がってろ!!」
俊也は粉塵の影から垣間見えたヴァルケミストの攻撃を察知し
隣にいる千夜に叫び伝える。
ヴァルケミスト「それが、てめぇの弱点だ!!!」
俊也「っ!?」
千夜をかばい体勢を崩した俊也の背中に
ヴァルケミストの振り下ろした紫色のいびつな光を纏った
拳がもろに俊也の背中にたたきつけられる。
俊也「がっ」
俊也は口から吐血しながら振り返り
追撃を放とうとするヴァルケミストを
光弾でけん制しつつ、千夜を脇に抱え込み
粉塵から離れるため空中へと飛び上がる。
千夜「ちょ、あんた」
俊也「いいから暴れるな!!」
千夜「は!?ふざけんじゃ」
言い合いをしている二人を見上げながら
ヴァルケミストは背後に立つ人物に声をかける。
ヴァルケミスト「今度はどういう了見だ?
さっきまで邪魔してきたくせしてよぉ」
???「…、貴様など、一瞬でほふれる」
ヴァルケミスト「けっ、言ってくれるじゃねぇか」
???「それ以上戯言を言うなら――」
ヴァルケミスト「おいおい勘弁してくれ
世界に干渉できるような輩と
やりあうきなんてねぇさ」
ヴァルケミストは宙に浮かぶ俊也の方へ
飛び上がろうと腰を落とす。
ヴァルケミスト「いまは、な…!!」
周囲の粉塵を巻き上げ空高く飛び上がり
そのヴァルケミストを目で追いながら視線を上へと向ける謎の人物。
???「…、変わってしまった過去に
私は…」
その人物は拳を握りしめながら
空中で千夜をかばいながらヴァルケミストとの
攻防をくりかえす俊也を見つめていた。
ヴァルケミスト「どうした!」
俊也「く!」
ヴァルケミスト「そんな!もんか!?」
俊也「ぐあっ」
ヴァルケミスト「こりゃ”カギ”の力も大したことねぇのかぁ!?」
俊也「く、そ…」
完全にヴァルケミストの猛攻を防ぐだけで
精一杯の俊也。
しかし脇に抱えている千夜に攻撃が当たらないよう
絶妙に攻撃を受け流していた。
ヴァルケミスト「おらおたどうした!?」
俊也「うるせぇ!!」
俊也はヴァルケミストの腹部に
光弾を叩き込み宙がえりして距離を取る。
俊也「はあっ、はあっ、っ、この…野郎」
ヴァルケミスト「効かねぇな!!かかっ!!」
嘲笑い余裕を見せるヴァルケミストに対し
俊也は額に汗を滲ませ、体の至る所に傷を作っていた。
千夜「離して!離しなさいよっ!」
俊也「…離さない」
千夜「なんであんたの足手まといみたいになってんのよ!」
俊也「さあな」
千夜「さあな、じゃないわよ!!
私だって戦えるっての!!」
俊也「でも勝てない」
千夜「は?」
千夜はその俊也の言葉に暴れるのをやめる。
俊也「戦えても。勝てないなら、戦うべきじゃない」
千夜「なっ…、そんなのやってみなくちゃわか」
俊也「分かってるはずさ、いつもの千夜なら
相手の強さくらい」
千夜「…」
俊也「それが分からないって言うなら
俺は絶対千夜を離さない」
俊也はヴァルケミストを見ながら
千夜を抱える腕に一層の力を込める。
千夜は急におとなしくなり声のトーンを落としながら言った。
千夜「…、分かったわ」
俊也「やっとか」
千夜「違う、そうじゃない」
俊也「?」
千夜は俊也に抱えられながら
俊也の顔を見上げ続ける。
千夜「あんたは、やっぱり私の知ってるガキじゃない」
俊也「何だよそれ」
千夜「私の知ってるあんたは弱いってわかってて
それでも自分の気持ちに素直で
助けて大けがして、それでも守って
守られてるのに気づきもしないで
またムチャをする
わたしが好きになったのは、そんなあんたなの」
俊也「……」
千夜の言葉に何も返すことが出来ず
黙り込む俊也。
千夜「わたし、決めた」
俊也「…千夜?」
千夜は突然暴れだし
油断していた俊也は腕で千夜を抑えきれず
千夜は腕から離れ、落下していく。
俊也「ちょ、おい!千夜!!」
俊也は落ちていく千夜に手を伸ばしながら叫ぶ。
しかし千夜はその手を掴もうとせず、俊也を見る。
千夜「あんたがあんたじゃないこの世界は、私が壊す」
俊也は手を伸ばすが落下する千夜の髪に手が届きそうで空を切る。
千夜「そんでもって、わたしが好きなあんたを、絶対取り戻す」
千夜は次の瞬間、二丁拳銃を瞬時に取り出し、
閉じていた扉に向けて引き金を引く。
銃弾を受けたトビラの片側が銃弾によって
破壊され、トビラの藻屑がその中へと吸い込まれていく。
俊也「!??」
突如千夜は俊也の顔面を宙で蹴り飛ばし
俊也の身体は開いたトビラの方へ一直線に飛んでいく。
千夜「だから、今のあんたはもう必要ないのよ」
俊也は千夜の言葉を聞きながら体勢を整えようとするが
扉の吸い込みにより体勢を直すことができない。
俊也「なんだよ、それ…、千夜!!おい千夜!!」
遠ざかっていく千夜に手を伸ばしながら
俊也の身体は扉の前まで吸い込まれていく。
千夜「さっきのキスは、ノーカウントよ」
千夜は二丁拳銃をしまい、指で銃の形を作り
手を伸ばす俊也に向け引き金を引く動きをする。
千夜「戻ってきたら、絶対、あたしに惚れさせて
あんたからキスさせてやるんだから。
覚悟してなさい?」
俊也「千-----」
千夜の言葉は俊也に届き、
俊也の言葉が千夜に届くことはなく、
俊也の身体は扉の奥へと吸い込まれていった。
一つの旅の終わりを迎えた一人の少年。
旅の終わりは、次なる旅の始まりへと繋がっていく。




