第98話〜記憶の力〜
取り戻したのは記憶か、それとも。
最初に戻った感覚は、肌に触れる熱気だった。
次に視界が戻り焦点がゆっくりと周囲をとらえ始める。
そして、ようやく理解する。
自分が、この危機的状況に戻ってきたことを。
千夜「俊、也…?」
背後から聞こえた声にゆっくりと振り向くと
ボロボロになって地面に横たわっている千夜がいた。
間違いではなく、流血がひどく、急いで手当しなければ
本当に危ない。
俊也「だいじょうぶ、すぐに終わる」
俊也は千夜ににっこり笑顔を見せると
目の前の集団、ギニム達の方をにらみつける。
ギニム「キサマ…イマナニヲシタ…?」
ギニムの集団でも一回り体が大きな
おそらく全体を率いているであろう怪物が凄む。
俊也「何もしちゃいない、ただ、記憶を見たんだ」
ギニム「キオク…?」
俊也は先ほどのわずかな一瞬に、これまでの自分が繰り返し
体験してきたそのすべての記憶を見ていた。
俊也「さあ、覚悟しろ、バケモノ」
俊也はその言葉を発した直後
目にもとまらぬ速さで垂直に飛び上がり宙に浮いた。
千夜「なっ…」
横たわりながらそれをみていた千夜は驚き
ギニム達も釣られて俊也を視界に捉え見上げる。
俊也「せやっ!!」
俊也は宙に浮かんだかと思うと右手を掲げ
瞬く間に緑色の光と風が、手のひらの上で球体となったかと思うと
次の瞬間、俊也の頭上に同様の球体が無数に出現した。
俊也「おおっ、ほんとにできた」
当の本人がその光景を眺め驚いている。
俊也「えっと、こうして、こうっ!!」
俊也は掲げた右手を一周回して
足元にいるギニム達めがけて振り下ろす。
瞬間、浮かんでいた球体たちは急降下をはじめ、ギニム達に一直線に向かっていく。
球体は落下にあわせて先端をとがらせ、ドリルのように螺旋を描き、さらにスピードをあげていく。
ギニム達は銃を頭上に向け、球体を撃ち落とそうと乱射し始める。
しかし放たれた銃弾は球体の先端を穿つことはなく、まるで効果がない。
何体かのギニムが頭上に飛び上がり右手の機械に覆われた巨腕で
球体に殴り掛かる。
それも球体の鋭い先端にえぐられ、空中で挑んでいったギニムらの
腕は見るも無残に破壊され、あちこちで小さい爆発が巻き起こる。
あたりに生まれる硝煙をすり抜け残りの地上にいたギニムらにも
その球体の餌食となり体を貫かれ、その後爆発し
瞬く間にギニムの集団はあたりから消えていく。
俊也「おー、すごいなぁ」
ギニム「キサマァァァッァア…!!!!!!」
俊也「!!」
さきほどの地上で指揮していたひと際体の大きなギニムの一体が
俊也のさらに上空に飛び上がり巨腕を振り上げ俊也に襲い掛かる。
俊也「見えてんだよ!!」
俊也はそう叫ぶと振り下ろされた腕を目にもとまらぬ速さで回避し
ギニムの頭上に回り込み、首を両手でつかむ。
俊也「落ちろぉぉぉぉ…!!!!!!!!!」
俊也はそのままギニムをつかんで背中に背負う形で直滑降しながら
地面へと向かう。
ギニム「ハナ、セ…!!?!?」
俊也「やな、こった!!!!!」
俊也は地面にぶつかる寸でのところで背負い投げの要領で
ギニムの巨体を地面にたたきつけ、周囲に衝撃波と粉塵が巻き起こる。
俊也「どうだ!」
ギニム「シネェェェエェ!!!!!!」
ギニムは赤い目を見開き、口元に赤い閃光を集約させ
俊也に向けて放とうとしていた。
俊也「もう何回も見てるんだよ!!こっちはな!!」
同時に俊也は放たれる寸前の閃光に手をかざし
力を込め先ほど同様に緑の光を出したかと思うと
赤い閃光を包み込み、そのままギニムの口の中にその球体を押し込む。
ギニム「ヂグショーーーーー」
ギニムの断末魔が響く前に、頭は小規模な爆発で跡形もなく吹き飛んでしまった。
俊也「おっと」
俊也は巻き起こる硝煙の中で、
背後からくる銃弾をくるりと体をひねり、なんなく交わす。
そのあと左手を一振りするとあたりの煙は一瞬で霧散し
俊也の攻撃から生き延びたギニム数体がこちらに銃口を向けていた。
俊也「まだやるのか?」
俊也はため息をつきながら数体のギニムの方へ
地面を滑空しながら迫っていく。
銃弾を掻い潜りながら両手に先ほどの風をまとった球体を作り出す。
俊也「ほらよっ!!!」
俊也は自分に迫る一体のギニムが振り下ろす腕を急停止で交わし
後ろ向きに宙返りしながらその背後にいたギニム2体に
両手の球体を投げつける。
まともに球体の直撃をくらったギニムの身体はらせん状に引きちぎれ爆散した。
次いで一回転して着地した俊也は右手の手のひらを
目の前にいたギニムの腹に打ち付け一捻り力を加えると
同様にちぎれ、爆散した。
のこった3体は俊也の頭上に集まり
3体とも口から赤い閃光を俊也に向け放っていた。
俊也「だから、懲りないな!!お前ら!!!」
俊也は両手を重ねて力を込め腕に纏った
光の衣で直撃しかけた赤い閃光を受け流すように交わす。
回避した直後そのまま両手を捻り
地面にたたきつけると、腕に纏っていた緑の光が
蜷局を巻きながら上空の3体のギニムに襲い掛かる。
3体のうち2体に直撃し、2体ともにその場で爆散。
その一撃を半身で交わしながら残った1体が俊也目掛けて
迫りその口には明らかに許容量を超えたエネルギー弾が形成されていた。
俊也「自爆する気か!?」
俊也はギニムの意図を読むと、すぐに千夜の横たわる方を見やり
左手に纏っていた光を千夜の方へ飛ばす。
もう一方の右手に纏った光をギニムの直撃に備え構える。
激突、瞬間大爆発の前に
俊也の右手の光の衣が落下するギニムを覆い
その中で爆発が起き、爆炎は衣の中でふきだし
衝撃は衣を突き抜け周囲の大気を振動させた。
俊也「ふう…」
俊也は呼吸をすこし整え、そのままゆっくり千夜の元へ歩き出す。
先ほど千夜に向けた光は千夜自身を包み込み
爆発の影響を完全に防いでいただけでなく、
傷ついた千夜の身体が蛍のような小さな光の明滅を繰り返し
傷がみるみる治っていく。
千夜「これ、は…?」
身体の傷が治り、意識を取り戻した千夜は
起き上がり、ゆっくりこちらに向かい歩きてくる俊也を見やる。
俊也「起きたか?千夜」
俊也は千夜の目の前まで行くと、千夜の方に手を差し出す。
千夜「…、」
千夜は発する言葉に迷っているのか
黙ったまま俊也の手を取り、立ち上がった。
千夜の周りには見渡す限り
無残に散ったギニムの死骸が転がっていた。
その光景は、正直むごいものだった。
千夜「…、俊也」
俊也「なんだ?」
千夜「あんた、何者??」
俊也「は?何だ急に…」
千夜「急じゃないわよ、あきらかにおかしいでしょ」
俊也「おかしい?」
千夜「そうよ!この状況、さっきのあんたのバケモノじみた力
どれをとったって、私の知ってるあんたに出来るわけない!!」
俊也は激高する千夜に一瞬言葉をなくしたように目を丸くしたが
すぐにその問いに答えた。
俊也「思い出したんだ」
千夜「え?」
俊也「これまでの、俺がやってきたこと」
千夜「…、記憶が、戻ったの??」
俊也は少しうつむきながら話をつづけた。
俊也「記憶は、戻ったわけじゃない、かな、たぶん
ただ、さっき、“見た”っていう意味じゃ
記憶を知ったから、そうなのかもしれない」
千夜「…、言ってる意味がわからないわ」
俊也「ごめん、でも俺もよくわかってない…」
千夜「それとさっきの力、あんたの戦いぶりはなんなのよ」
俊也は頭を抱えながらその問いに答える。
俊也「なんていうか、記憶を“見て”
その記憶の中の俺がもっていた力があって
その力でどう戦っていたのか、どう戦って勝ったのか
それを見様見真似でやってみただけなんだ
多分、うまく言えてないけど、そんな感じ、かな…」
千夜は感じていた。
目の前にいる人物の違和感に。
あきらかに、数時間前、自分の前で死にかけ
それでもだれかを救おうとしていた人物と、
いま、目の前にいる人物との違い。
千夜「…、もう一回聞くわ」
俊也「??」
千夜「あんた、何者?ていうか、だれ?」
今度は面を食らったのか俊也は疑問をぶつけてきた
千夜の懐疑に満ちた目を見て、出かかっていた言葉を呑み込み
短い沈黙が二人の間を流れる。
千夜「…、どうして、答えられないの」
千夜はとても悲しそうな顔をしながら
銃を出現させ、目の前の俊也に向ける。
千夜「答えて」
俊也は答えない。
千夜「答えなさい!」
俊也は、答えない。
千夜「…っ!!」
千夜は言葉を発するよる早く自らが構えていた銃を
地面に投げつける。
千夜「いい加減にしてよ…、 ねぇ…」
千夜は何も答えない俊也に近寄り、
俊也の胸に頭を押し付ける。
千夜「なんか、言いなさいよ…、バカ俊也…」
俊也の胸に頭を押し付けながら
ボロボロと涙を流す千夜に
俊也はそれでも答えることはなく
静かにその頭をポンポンとなでるように触れる。
その瞬間、千夜は俊也を勢いよく突き飛ばし
突然のことに俊也も受け身が取れず、押された勢いのまま
地面に倒れこむ。
千夜「さわるな!!」
そう叫んだ千夜の表情は、怒りとは違う感情
迷いに困惑しているように感じられた。
突き飛ばされてなお、何も発しようとしない俊也は
ゆっくりとその場で立ち上がる。
ヴァルケミスト「よお」
俊也「!!?」
唐突に、そいつは俊也の背後に現れた。
一切の気配、音すら生じさせずに。
その声の音が響いた瞬間、
ようやくその存在を認識することができたのだった。
千夜「なんでおまえがこ―――」
千夜の言葉はヴァルケミストの振るった轟音にかき消され
聞こえることはなかった。
ヴァルケミストの前にいた俊也は
容赦ない一撃、その巨大な腕の一振りで
一瞬にして海面まで吹き飛ばされていた。
俊也が吹き飛んだ海面は
爆発でも起きたかのように空高く
みずしぶきを巻き起こす。
ヴァルケミスト「邪魔」
一言。
千夜「俊也!!」
千夜は吹き飛ばされた俊也のもとへ駆け出そうと一歩踏み出し
しかし二歩目を踏み出すことはなかった。
ヴァルケミスト「…ほぉ、勘は鈍っちゃいねぃようだな」
千夜「…、うるさい」
千夜はヴァルケミストの殺意に反応し
ゆっくりと身体を敵へと向け、臨戦態勢を整え
両手に銃を握りしめる。
ヴァルケミスト「さぁて、久々に、いっちょやるか?小娘」
千夜「うるさいっ!!!」
千夜は開口一番、目にも止まらぬ早撃ちで
ヴァルケミストの腹部に銃弾を叩き込む。
その衝撃で数cm後ろにずれるヴァルケミスト。
しかしダメージはなかった。
ヴァルケミスト「効かねぇな…!!」
ヴァルケミストは躊躇なく真正面から千夜に突進をしかける。
あまりの早さに千夜は反応ができない。
その巨大な腕の一撃が千夜の顔面を捉えかけた刹那―――
???『エラスト・カルマ(穿て 風よ)!!』
一筋の光が、ヴァルケミストの腕を貫く。
その衝撃で、ヴァルケミストと千夜は互いに後ろに吹き飛ぶ。
???「…、亡霊よ、今すぐ去れ」
時は遡る―――
過去を断ち切り、迷いを払う、戦いが、始まる。




