第9話 奪還チーム結成2
「……分かりました。有難うございます! 喜んで、やらせて頂きます!」
セオの望外の申し出に、ロディも両手を地に着けて深々と頭を下げた。
支払いを考えれば、他の選択肢などあるはずも無い。
彼が金貨七十枚をくれれば首の皮が繋がるだけでなく、来月の返済も、かなり余裕が出来る!
それに久々に休暇を二、三日取れるし、その間は支払いの事を忘れて、ゆっくり寝て、休日にやりたかった事が色々出来る!
地獄に神とか、天にも昇る心地とは、この事だろうか?
やりとりを見ていたアリシアが、話が終わったとみたのか、静かな口調でロディに話しかけてきた。
「話は、決まったみたいですね」
そう言うと、頭を上げたロディの前で彼女は立ち上がり、懐から身分証らしき薄い金属板を取り出す。
それを見たロディとセオ夫妻も、立ち上がった。
「私は、アリシアと言います。タイレル傭兵団の少佐で、精霊と白魔法を使う魔術師です。そして、もうご存じかもしれませんが、あの子はマーシア。私の娘で、精霊を使う剣士です。所属と階級は、同じタイレル傭兵団の少尉。短い間ですが、よろしくお願いします」
アリシアの横に、マーシアが並ぶ。
彼女達は頭を下げた後、両手で自分達の身分証と思しき薄い金属板を差し出す。
それを見たロディも頭を下げ、首から下げた認識票を両手で差し出した。
「僕は、アガレア王立警備局の六等警備局員でロディと言います。剣と、雷系の白魔法を少し使います。よろしくお願いします」
頭を下げたロディは、差し出された金属板を丁寧に受け取り、その金属板、いや身分証に目を通した。
ロディは、セオが零細商人を偽装する為とはいえ、重要な商いの護衛が二人とは少なすぎると思っていたが、彼女達が、精強で有名なタイレル傭兵団所属と知って納得した。
大手の傭兵団で、雇う金は高いが腕利き揃い。
それに怪物や野盗等の出現情報を掴むのも、全国の情報が集まる王立警備局に引けを取らぬほど早いらしい。
傭兵を雇うなら、金さえ払えるならタイレル傭兵団が一番良いと言われる精鋭達で、その噂に偽りが無い事は、これまでの仕事で何度か行動を共にした事で、よく知っている。
高額の依頼料を得るべく、タイレル傭兵団を騙って素人を騙す偽者もいるが、差し出された身分証を見るに彼女達は本物だ。
建物警備や護衛任務に必要な知識なので、主な組織の身分証や認識票は、警備局から、偽物を見分ける方法や注意点を覚えさせられている。
タイレル傭兵団の身分証についても同じで、彼女達の身分証は、警備局から聞いている最新の真贋判定用の工夫がされていた。
彼女達の素性を知ったロディは、身分証から顔を上げて、改めて彼女達を見た。
精霊とやらは知らないが、タイレル傭兵団少佐のアリシアは、自分を遙かに超越する凄腕だ。
仮に一対一で戦う事になれば、多分、自分は一方的に叩きのめされるだろう。
少尉のマーシアも、六等警備局員の自分と同じ位の腕利きと見て良い。
アリシアはマーシアを娘だと言ったが、兜を脱いだマーシアの耳は普通の人間の耳で、時折見かける半エルフのような、人とエルフの混血の証となる中途半端な長さの耳では無い。
何か理由があるのだろうが、深入りは無用だ。
「改めてよろしくね。ロディ君」
「ええ。よろしくお願いします」
互いの身分証や認識票を返すと、マーシアが微笑を浮かべた。
「じゃあ、母さん。アネモスに奴等を追って貰おうか?」
「……そうね……この辺りで、あれだけの盗賊が潜める町は旧レンストンしかないと思う。アネモスでも十分行ける距離だから頼むわ」
「了解! じゃあ出てきて。アネモス」
マーシアの言葉が終わると、彼女の前の空中に、幼児と同じ位の背丈の、背中にトンボのような羽を生やした少女が現れた。
ロディは、初めて見るそれに驚きを隠せない。
「……え? それ、何ですか?」
「あたしが契約してる、風を操る精霊よ。さっきまで周囲を偵察してもらってたんだけど、見るの初めて? ……まぁ、精霊使いは珍しいからね」
精霊をよく見ると、全身から薄緑色の淡い光を発しているようだ。
外見は、明るい緑色の髪を持ち、人で言えば十歳に満たない幼さに見える。
フィル達も、初めて見るであろう風精霊を興味深げに見ていた。
「アネモス、この道の先に逃げたサイッテーの奴等を追いかけて、銀灰の場所を突き止めてくんない? まだ、そんなに遠くに行ってないと思うし、後で、一泡吹かせてやるんだから!」
「うん、分かった」
そう言うと、風精霊のアネモスとやらの姿が掻き消すように消え、直後、一陣の風が、賊が去って行ったであろう方向へ吹いた。
先程、マーシアが周囲に敵はいないと言ったのは、周囲を偵察していたという、この精霊とやらに、何らかの方法で情報を教えて貰っていたのだろう。
彼女の母のアリシアが、ロディ達の接近をセオに伝えたと言うのも、アリシアが精霊使いと言った事から察するに、多分、同じ理由だ。
「アネモスの速さなら、すぐ奴等に追いつくわ……ロディさん、場所が分かったら騎士団への通報とは別に作戦を考えましょう」
「はい」
アリシアの言葉を聞いたロディは、セオに優しく語りかけた。
「では、セオさん。僕達が奪還に向かいます。危険な事は僕達がやりますから待ってて下さい」
「すみません皆さん……どうか、宜しくお願いします」
深く頭を下げたセオが、急に何かを思い出した様に頭を上げた。
「そうだ! 言い忘れましたけど、無事に奪還してくれたらアリシアさん達にも、ちゃんと金貨七十枚ずつ追加で払います。報酬をロディさんだけって事は出来ませんから。だから、皆で力を合わせて何とか……何とか奪還を、お願いします」
セオと妻が改めて頭を下げたが、それを見たアリシアに戸惑いが浮かぶ。
「あ、いえ私は別に……もう十分、頂いてますから……」
「アリシアさん。危機を救ってくれた恩人に礼を欠かすなんて出来ません。良かったら、上手くいった時はぜひ受け取って下さい。お金は、あって困るものではないでしょう?」
「……分かりました。では、その時には有難く」
アリシアに、優しい微笑が浮かぶ。
彼女の本音は分からないが、多分、これ以上固辞してセオの気持ちを傷付けるのを避けたのだろう。
「おやっさん。良かったら、そろそろ出発して新レンストンへ行きませんか? 騎士団と警備局に行かねばならんでしょう? 急がないと一雨来るかもしれません」
ロバートの言葉を聞いたロディは、空を見上げた。
空の雲が、一層低くなってきた気がする。
新レンストンに着く頃には、本当に雨になるかも知れない。
「ああ……そうだな」
セオ夫妻が元気なく馬に戻っていくと、ロバートが小走りで近寄ってきた。
「ロディ君、すまんな。ここまでの護衛と奪還依頼の契約は、新レンストンの警備局本部に行ってから必ずさせて貰うよ。金も絶対に約束通り払うから、難しいだろうが何とか取り戻してくれ! 頼む!」
「はい」
ロディの前で、セオ夫妻の乗る馬が、ゆっくりと歩き始める。
頭を下げたロバートが自分の馬に走ると、フィルがロディに並んで、少し羨ましそうに囁いた。
「ロディさん……美味しい仕事にありつけたっすね」
「それは、どうかなぁ? 極秘情報の入手から襲撃まで、そつなくやってのけた連中だろう? 四十人以上の大盗賊団らしいし、油断は出来ないと思うよ?」
「……そうですかねぇ? ま、成功を祈ってますよ、先輩!」
少しも気を緩めないロディに、彼は少々納得できない様だったが、気持ちを切り替えたのか、仲間への指示を出しながら、自分の馬へ走って行った。
低く垂れ込めた雨雲の下、セオの乗る馬が、しんどそうに山道を登り始める。
ロディも乗ってきた馬に跨がり、彼等の護衛に当たった。
本日は、2回投稿しています。
この話は、9月25日の2回目の投稿分です。
次の話からは、毎日12時か12時10分頃に、一日一話ずつ投稿させて頂きます。




