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銀狼討魔録 ~傭兵の母娘と謎の盗賊団~  作者: 松木 一
第二章 謎の町ヴェルゴー

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第43話 夜明け前

 ロディ達がウンディーネと出会い、待ち伏せを迂回すべく道をそれ、待ち合わせ場所に到着してから十分あまり経った。


 ウンディーネと出会って彼女の話を聞いた後、母を助けに行くと言い出したマーシアを説得するのは大変だったが、彼女は、迫り来る敵の増え方を見て、渋々皆の懸命の説得を受け入れ、何とか全員でここにいる。



 逃げる途中、しつこく追ってくる怪物共には、ほとほと閉口したが、何とか使い魔を一掃できたらしい事と、その後、大量の怪物を見たウンディーネが同じ水精霊のネロと力を合わせ、二人で渾身の力を振り絞って再度作り出した、先の物より広く深い底なし沼に奴等をはめた事、そしてロディが念の為に撒いたカルトロップのお陰で、辛うじて敵を振り切る事が出来たようだ。


 途中、雨で濡れた地面に足跡が残っている事に気付いたが、これは、通る前にネロが地面を乾かし、通った後で元に戻す事で、足跡が残らないようにしている。


 橋を使わずに川を渡れるか気がかりだったが、少し危なかったものの、水精霊達が見つけた地点から渡れたのは幸いだった。


 これで、敵は完全にこちらを見失ったと思う。



 この逃走の成功は、ひとえに精霊達の力と、それを使うマーシアのお陰だ。

 彼女達がいなければ、絶対に失敗していた。

 彼女達には、どれだけ感謝しても足りない。




 夜霧の中、足下を弱く照らすランタンを手に仲間を待つロディは、もう皆が来るのは絶望的だと思ったが、あの強くて頭の切れるアリシアならひょっとしたらと、一縷の望みを掛けて、山を少し登った所にあった、巨木の傍で待っていた。



「……ロディ君……これからどうする?」


 ロディの傍らで、無言のまま悲しげに佇んでいたマーシアが、ロディを見て力なく呟いた。


「皆を……助けに行くんでしょ?」



 その表情には、願望の色が濃い。

 縋るような目で、ロディを見つめている。


「当然さ」


「じゃあ、今から……」



「……そうしたいのは山々だけど……今は無理だよ」


 アリシア達を助け出したいのは、自分も同じ。

 だが、それが出来ない無力感と絶望が苛む。


「皆が、どこにいるか分からないし敵が多すぎる……それに術や精霊も弱まってるし、夜霧で視界も効かないし……さっき、ウンディーネさんやサラマンダーさんも言ったとおり、今、救助に行ったら間違いなく返り討ちに遭う」



「……でも……皆が……」


 マーシアの双眸に、涙が浮かんでいく。


 沈痛な面持ちの彼女に、ロディを非難する様子は無いが、彼女が母と呼ぶアリシアを案じているのは痛いほど分かる。

 アリシアの命が危ない今、身を切られる様な辛い気持ちを耐えているのだろう。


 皆を率いたリーダーとして、こんな事になった申し訳なさと惨めさ、そして皆の危機に何も出来ない無力感で心が一杯だが、何時までも落ち込んではいられない。


 泣いても喚いても、今、頼れるのは自分達だけ。


 一敗地にまみれ、後悔と絶望で沈む心を何とか奮い立たせて、口を開いた。


「……多分だけど……僕もアリシアさんの言う通り、皆は、すぐには殺されないと思う」


「え?」


 マーシアが、目に涙を浮かべたまま顔を上げる。



「奴等は、僕達の銀灰(ぎんかい)奪還を阻止した。でもこのまま僕達を逃がせば、怪物が支配する、このヴェルゴーの事を騎士団に通報される事くらい分かってると思う……通報されたら、この町はお終いだ。騎士団が、怪物に占拠された町があるなんて知ったら、必ず討伐隊を出すからね。それを防ぐには、アリシアさん達をうまく使って、逃げた僕達をおびき寄せようとするんじゃないかな?」


 じっと話を聞くマーシアが、小さく鼻をすすり、目に浮かぶ涙を拭った。


「アリシアさん達は、生かしておけば僕達を呼ぶ人質に使える。でも、僕達が捕まったり死ねば利用価値がない。僕達は、絶対に敵の手に落ちる訳に行かないんだ」



「……それは……そう思うけど……でも騎士団に通報しても、あの人達も忙しいし色々調べてから動くらしいから、出撃まで時間が掛かるでしょ?」


「……うん。町が怪物に占拠されたなんて重大な事だし、騎士団傘下の警備局が通報すれば、情報が確かな分、民間人の通報より早く動くけど……それでも四、五日は掛かると思う」


「そんなに長い間、皆が無事かどうか……それに、それじゃ銀灰(ぎんかい)の納期に間に合わないわ……」


 夜霧の中、マーシアが悲しそうな顔で、視線を正面に戻した。

 この夜霧では何も見えないが、その視線の先には、彼女の母のいるヴェルゴーがある。


 ロディも、皆がすぐに殺されないというのは予想できるが、奴等が次にどう出るかは分からない。

 このまま手をこまねいていられないが、救助に出ようにも完全な手詰まり。


 警備局に戻って応援を頼む事も考えたが、不可能に近いのだ。




 レンストンの警備局本部に戻ろうにも、街道は、怪物共が自分達を探しているだろうから使えない。


 なので遭難したり、危険な動物、怪物と遭遇する危険を冒して山を越え、貸し馬組合のある最寄りの町に行って、馬を借りて戻るしかない。


 しかし、徒歩で道の無い標高三~四パスレル(約九百~千二百メートル)はある高い山脈を超え、町に行くだけで一日は掛かるだろうし、行き帰りも馬を飛ばして一日近く掛かる。


 それに警備局も忙しいので、大勢の怪物と戦う人手が空いているとは思えない。


 応援要請が認められても、任務中の局員達が戻って戦力が整うのに何日かかるか分かった物では無いし、彼等が次に担当する予定だった任務の日時変更、もしくは担当者の変更等も大変だろう。


 もう朝なので、銀灰(ぎんかい)の納期まで、今日を含めて残り三日しかないのだ。

 警備局内の戦力が整うのを待っていては、とても納期に間に合わない。

 それに奴等も、そんなに長い間、人質全員を生かしておくとは思えない。


 仮に、それらを上手く解決できたとしても、まだ大きな問題が残っている。

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